表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/31

第三十話 誰が俺の最推しか

 俺は昼の部は観たが、夜の部は行かなかった。

 「Predators」の大会に向けたチーム練習があったからだ。

 夜の部を観に行きたい気持ちもあったが、ライブ中にあそこまで盛大に応援された以上、応えたい気持ちが勝った。


 そうして、ライブが終わった頃。

 俺はなかなか高級そうな焼肉店の個室に呼び出されていた。

 ライブの打ち上げだ。


 メンバーはライブの主役三人と、俺。


「いやー、大成功だったねえ」


 乾杯を終えて、霜の入ったカルビを焼きながら。

 姉さんはここ最近で一番上機嫌だった。


「ええ。ファンのみなさんの前で最高のパフォーマンスを披露できて、気持ちよかったです」


 ネリネさんはビールを片手に、恍惚とした表情を浮かべている。


「本当に、楽しかったなー……」


 王城さんはライブの興奮冷めやらぬ様子で、余韻に浸っていた。


「三人ともお疲れ様。すごく良いライブだったよ」

「ありがとー、弟くん」


 姉さんが隣から、うりうりと肩をぶつけてくる。

 グラスが空になっていて、かなりハイペースだ。

 タッチパネルを操作して、もう二杯目を注文している。


「葵君も、楽しんでくれた?」

「ああ。最高だった」

「良かったー……!」


 王城さんは顔をほころばせていた。


「ただ、名指しで俺のことを触れてきたのは、驚いたというか……」

「あれは私も驚きました」

「ニノンさん、夜の部でも弟くんの話してたよね……」


 二人は呆れていた。

 というか、夜の部でも俺の話が出ていたのか。


「でも、弟くんを応援するって約束したからね!」

「それは……ありがとう」


 純粋な厚意に、感謝するしかない。


「ところで、今日のライブで最推しは誰でしたか?」


 ネリネさんがおもむろに、そんな問いを投げかけてきた。

 明らかに、何か面白がっている。

 一方で、個室の中で何か張り詰めた空気を感じた。


「最推しって……」

「例えばほら、弟くんがライブ中に誰を一番見ていたか……なんて気になるなあ」


 届いたピーチサワーを飲みながら、姉さんが横目で見てくる。


「葵君から見て、誰が一番活躍しているように見えた?」


 向かいに座る王城さんは、箸を止めて尋ねてきた。


 なるほど。

 ネリネさんはこうなることが分かっていて、聞いたらしい。

 三人がいる前で、たった一人の一番を決める。

 なかなか言いにくい話ではあるが……俺の答えは決まっていた。


「俺は……やっぱりニノンが一番の推しかな」

「やった! さすが私の弟くんだー! ご褒美に私が育てたこのカルビをあげよう」


 姉さんが俺の取り皿に肉を一枚置いた。

 ずいぶんウェルダンな仕上がりだ。


「これ、酔っ払って焦がしたやつじゃ……」

「細かいことは気にしない気にしない!」

「姉さんは気にしなさすぎだと思う」


 俺たちきょうだいが、そんなやり取りを交わす向かい側で。


「やっぱり勝てないか……私も頑張ったんだけどなあ」


 王城さんは、ため息をついていた。


「今は勝てなくてもいつかはチャンスがありますよ」


 ネリネさんが、王城さんの肩に手を置く。


「な、何のことですか!?」

「さあ、なんのことでしょうね。弟くんはどう思いますか?」

「え? お、俺は……」


 ここで俺の方に話題を振ってくるとか、この状況を楽しみすぎだろネリネさんは。

 困っていたら、王城さんと目が合ってしまった。


「葵君! こ、この前言っていた話なんだけど」


 王城さんは意を決した様子で、話し始めた。


「この前って……」 

「ほら、ライブで大活躍したら……って話」

「ああ、うん。覚えてるよ」


 ライブで大活躍して、君の心を掴めたら気持ちを聞いてほしい。

 王城さんがそう言っていたことは、忘れていない。


「あの話、なんだけど……」


 まさかこの場で。

 王城さんの気持ちを伝えられるのか?

 他にも人がいるのに。

 ネリネさんは「おやおや」と笑みを隠すことなく様子を見守っている。

 姉さんは「みんなー、おにくもおさけもおいしいよー」と体を前後左右にゆらゆらさせていた。

 まだ二杯しか飲んでいないのに、酔いすぎじゃないか?

 揺れる姉さんを片手で軽く支えていると、王城さんは言葉を続けた。


「あの話は、保留でお願い! どうやらまだ、私には早かったみたいだから」


 王城さんは両手を合わせて、小さく頭を下げた。


「別に頭を下げるような話じゃないと思うけど……分かった」

「でも、諦めたわけじゃないから!」


 王城さんは顔を上げる。


「うん。俺もこれからは、佐々城ララの配信も追おうと思うよ。実は今日、グッズも買ったし」

 

 俺の最推しはニノンだ。

 だけど他のVTuberにも魅力を感じた一日だった。

  

「ほ、本当!?」

「おや。私の配信とグッズはどうなんですか?」

「もちろん、ネリネさんのグッズも買いましたし、配信も見ます」

「ふふ。殊勝な弟くんですね」


 ネリネさんは満足そうだった。


「あー、だめだよみんなー……弟くんの最推しは私なんだから、横取りきんしー」


 姉さんはいつの間にか三杯目を飲み干して机に肘を突いていた。


「すみませんがニノンさんが相手でも、ここは譲れません」


 酔っ払ってふにゃふにゃした姉さんに、王城さんは堂々と宣言した。


「えっ、やだー」


 姉さんはだだをこねていた。

 酔っ払うと幼児退行するタイプなのか、この人。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ