第二十九話 頑張ってるきみのこと、大好きだー!
迎えたライブ本番。
会場内は満席だ。
俺の座る関係者席は後方だが、会場の広さの都合で、ステージまで問題なく見えそうだ。
期待に胸を膨らませながら開演を待っていたその時。
照明が一度暗くなった。
(いよいよか……!)
予感がして。
気分がさらに高まって。
一気に明るくなった。
壮大なBGMに合わせて、ステージの大型ビジョンに三人の姿が映し出される。
「みんなー! 今日は来てくれてありがとー!」
まずはニノンの挨拶から始まる。
「私たちの初ライブ、楽しんでいってくださいね」
「じゃあ早速! まずはいつものあの曲から!」
ネリネさんとララさんが続き、ライブが始まった。
配信で人気だった曲やアニソン、ボカロの曲を中心に。
時に三人で一緒に、曲によっては三人の誰かがメインで、十曲以上。
歌って踊り、合間にトークやファンとの交流イベント、VTuberならではの大胆な衣装チェンジなどを挟み、会場は大盛り上がりだった。
そして、十一曲目を終えて。
再び、ニノンのトークが始まった。
「みんなは最近、調子はどうかなー!?」
ニノンの呼びかけに、観客からは「サイコー!」とか「絶好調」とか、ポジティブな声が返ってくる。
「そっかそっかー! 私も最近、超楽しいよー!」
会場に向かって手を振るニノン。
「そうですね。私もこうしてライブができて、楽しいです」
「私はみんなに応援してもらえて、嬉しいな!」
ネリネさんとララさんも、一緒に手を振ってくれる。
「うんうん。それに誰かを応援するのってとっても楽しいよね! みんななら、分かってくれるよねー!?」
ニノンが会場を煽ると、野太い歓声が上がった。
「実は私も最近、応援してる人がいてね! すっごく楽しいのは、そのおかげなんだー!」
ニノンが応援している人。
その人物に、俺はものすごく心当たりがあった。
「そう、最近話題のあの人! eスポーツの大会で大活躍中の弟くんのことだー!」
ニノンが高らかに宣言する。
「ニノンはこんな時も弟くんの話ですか……呆れちゃいます」
ネリネさんはやれやれと首を振っている。
正直、俺も同じ気持ちだ。
大勢の観客がいる前で自分の話題が出ると、さすがにそわそわしてしまう。
「私は……ニノンさんが弟くんに夢中すぎて、ちょっと妬いちゃうかも。みんなもこの気持ち、分かるかなー?」
ララさんは大げさに寂しがるような素振りを見せていた。
せっかく三人のライブなのに、弟とはいえ男の話なんてして問題ないのかと冷や汗をかいていたが。
その心配は、懸念に終わった。
会場は「はは、またニノンが弟くんの話してる」「いつものやつ始まった」と和やかな雰囲気に包まれた。
上手にリアクションして笑いに昇華してくれたネリネさんとララさんに感謝だ。
「でね、その弟くんなんだけど」
「あ、まだ続けるんだ」
ニノンのトークにすかさずサラさんがツッコミを入れる。
会場から、笑い声が聞こえてきた。
「もちろん続けるよー! だって私の弟くん、もうすぐ「Predators」の予選決勝だから!」
「それは……ぜひ頑張っていただきたいですね」
「でしょでしょ? みんな、弟くんと私たちの応援をこれからもよろしく!」
「そこ、弟くんが先なんだ……」
サラさんがニノンをジト目で見ていた。
「そんなわけでこれから披露するのは私たちオリジナルの新曲! 何かに夢中になって頑張る人を、ぜっ……んりょく! で応援する歌だよ!」
オリジナルの新曲。
その言葉で、会場から大歓声が上がった。
「どんなわけかは分かりませんが、この流れで発表しちゃうんですね」
ネリネさんは何かを察したような表情をしていた。
にしても、3Dモデルで改めて思うが細かい表情まで伝わってくるなんてすごい技術だ。
「わ、私も、頑張ってる人のこと全力で応援してるからね! もちろん、生きてるだけで頑張ってるし偉いから……とにかく、みんなのこと好きだよー!」
サラさんがまるでニノンに張り合うみたいに、そう叫んだ。
好き。
その一言で、会場のボルテージがまた一段階上がる。
「よーし! じゃあミュージックスタートだ!」
軽快な音楽とともに、新曲が始まった。
紹介されていた通り、頑張る人へ向けた応援歌のような曲だ。
聞いていると、自分の背中を押されているような感覚になってくる。
気づけば俺は、夢中になってステージを見つめていた。
その時。
ニノンと目が合った気がした。
大型ビジョンに映し出されているのは、現実的なことを言うなら、ただのアバターだ。
本当に目がついているわけじゃない。
恐らくどこかにカメラがあって、演者のいる場所からでも客席の様子が見えていそうだが、目が合うなんて本来あり得ない。
(だけど、見られているような気が……)
俺が首を傾げたその時。
歌っているニノンが、笑った気がした。
俺の体が、小さく跳ねる。
驚きと、高揚。
そして迎えた、曲のクライマックス。
ニノンが躍動感満点の動きで、指を前に突き出した。
気のせいではなく、確かに俺に向かって。
「頑張ってるきみのこと、大好きだー!」
ニノンが全力で、叫んだ。
その瞬間。
俺の心は打ち抜かれた。
(ああ、やっぱり俺は)
ニノンが好きだ。
VTuberとしてのニノンだけではない。
きょうだいとして夢を応援してくれる、丹音のことも。
その事実を、改めて思い知らされた。
だけど。
あの人は、どうしたって俺のきょうだいだ。




