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第二十五話 幼馴染の決意

 週明け。

 実は週末の大会配信がバズっていたと知った。

 より正確には、ウォッチパーティーをしていたニノンの配信と、その切り抜きが。


 弟をガチで推すVtuberとしてSNSや配信サイトで注目を浴び、ニノンの配信の同時接続数は異例の五桁を達成。

 切り抜きも既に三十万再生されていて、今も伸びている。


 その影響で、推されている弟である俺も、ついでに少しバズっていた。

 昨日行った二次予選の配信は、ニノンから視聴者が流れてきて最大で三千人近い同時接続数があったらしい。

 これもついでだが、「Predators」の界隈では、俺のプレイ自体も、多少は評価してもらえていた。

 そして、二次予選も無事首位通過。


 夢に向かって第一歩を踏み出せていると言ってもいい。


 ただ、ここまでの反響があったと俺が認識したのは、朝に登校してからだ。


「昨日は大会に集中していて、配信の数字まで追えていなかったな……」


 俺に状況を伝えてくれたのは、王城さんだ。

 教室に入って自分の席に座ったら、話しかけられた。


「界隈だとかなり話題になっているのに、当人は鈍いんだなあ」


 VTuber界隈、と明言しないのは本人の身バレ防止のためだろう。


「俺自身は配信の数字のために何かしたって言うより、大会を頑張っていただけだから」

「葵君、大物だね」

「さっき王城さんが言っていた通り、鈍いだけだよ」


 俺が冗談めかして言うと、王城さんは笑ってくれた。 

 

「何はともあれ、決勝進出おめでとう。実は私も見てたんだ」

「そうか……知っている人に見られるって、変な感覚だな」

「あはは。きっとすぐに慣れるよ」


 配信の先輩から、ありがたいお言葉をいただいた。




 そうして王城さんと話していると。


「葵、おはよう……それと、王城さんも」


 瑠衣花が会話の輪に加わってきた。


「おう、瑠衣花。おはよう」

「おはよー、真城さんも昨日はすごかったね!」


 王城さんは挨拶を返しつつ、瑠衣花を褒めた。


「む。どうも……実力通り、だけど勝てて良かった」


 瑠衣花は表情が分かりにくいが、これはかなり嬉しそうにしている時の顔だ。


「うんうん!」

「特に葵の活躍がすごかった」

「確か二日連続でMVPだっけ? すごいよねえ」


 女子からやたら褒められて、悪い気はしない。


「チームメイトのサポートのおかげだよ」


 けど、これも事実だ。


「だってさ真城さん」

「ん、まあわたしも頑張った」


 瑠衣花はいつになく機嫌が良さそうだった。


 その後も朝のホームルームまで週末の出来事について三人で話したが。

 瑠衣花は大会そのものの結果について話すばかりで、配信がバズった件についてはあまり触れてこなかった。



 放課後。

 今日は図書委員の当番がある日だ。


「葵」


 瑠衣花が話しかけてきた。


「悪い。今日は図書委員があるから、一緒には帰れない」

「ん、知ってる。図書室までついてくから、少し話そう」


 ということで、図書室まで瑠衣花と一緒に歩くことになった。


「配信」

「うん?」

「バズって良かったね」


 朝は避けていたとすら感じた話題に、今になって触れてきた。


「あ、ああ。そうだな、これも瑠衣花や凛乃がチームメイトとして活躍してくれたおかげだ」

 

 俺は一拍遅れて、反応する。


「……どうだろう」

「何か引っかかることでもあるのか?」

「わたしたちの活躍よりは……あのお姉さんのおかげだと思う」

「それは……まあ、ニノンがウォチパしてくれた影響は大きいよな」

 ニノンという導線がなければ、俺が配信してちょっと予選で活躍した程度では、大して話題にならなかった。


「葵の目標のためには大会で勝つだけじゃなくて、有名になるのも重要。そして、その方法をあの人は知っている」


 瑠衣花は思いのほか、ニノンの配信者としての能力を買っているようだ。


「姉さんに俺たちのプロモーションを任せておいたら、三人まとめて有名になってプロゲーマーになれるかもな」

「それは喜ばしいような、悔しいような」

「悔しい……って?」

「わたしにはそれはできないから」


 それ。

 とは効率よく名前を売っていく工夫、みたいな話のことだろう。

 確かに瑠衣花は純粋な競技者気質だ。


「もしかして、そこを気にしていたのか?」

「でも吹っ切れた」


 瑠衣花はさらりと言った。


「それは……いいこと、でいいんだよな」

「ん、いいこと。わたしにしかできないこともあるって、気づいたから」

「瑠衣花にしか、できないことか」


 俺の呟きに、瑠衣花はうなずく。


「わたしはチームメイト」

「ああ、そうだな。俺はいつも、瑠衣花に支えてもらってるよ」

「ん、この先何があっても、夢を叶えるまでわたしたちはずっと一緒」


 俺の幼馴染が、嬉しいことを言ってくれる。

 けど。


「俺だけじゃなくて、チーム全員の夢だと思ってるけどな」

「そう?」

「ああ。もしかして、そう思ってるのは俺だけだったか?」


 俺が聞くと、瑠衣花は首を横に振った。


「わたしは葵の夢を応援したい。けど、それだけじゃなくて……一緒に走りたい」

「そう言ってくれると思ってたよ。瑠衣花は俺の相棒だからな」


 俺は瑠衣花に向かって拳を突き出した。


「相棒……ん、今はそれがいい」


 こつん、と瑠衣花の小さな拳が合わされる。


「ああ。これからもよろしく」

「でも……凛乃もチームメイト」


 そう。

 俺たちは三人で一組だ。


「その場合あいつは相棒じゃなくて……なんだ?」

「チームメイトその二?」

「辛辣だな」

「冗談。凛乃は大切な仲間」

「仲間か……いい言葉だな」

「わたしも、そう思う」


 そう言う瑠衣花は、珍しくはっきりと笑顔を見せてくれた。



 話している間に、図書室に到着した。


「あ、葵君! と、真城さんも来てくれたんだ!」


 王城さんが先にいた。

 同じ図書委員で、同じ日に当番だ。


「じゃあ、わたしは帰る」

「あれ、そうなのか?」


 てっきり借りたい本でもあるのかと思っていたが、違うらしい。


「また後で」

「ああ。今日もいつもの時間でいいよな」

「ん」


 瑠衣花は短い言葉で肯定して、来た道を引き返していった。

 今夜も来週の決勝に備えて、練習の予定だ。



 さて。

 放課後の図書室は来客がまばらだ。

 今は誰もいない。

 王城さんと二人きりだ。


「葵君、ちょっと話に付き合ってもらえるかな?」


 そわそわと緊張した素振りで、王城さんが話しかけてきた。





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