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第二十話 ただのきょうだいかもしれないけど

 翌日。

 俺はゲーミングマウスを買うために、姉さんと一緒に都心の真ん中にある電気街に来ている。

 駅を出てすぐ、立ち並ぶ店舗や掲げられた広告から街の異質な雰囲気を感じる。

 アニメやソシャゲの広告、メイドカフェやカードショップ。

 電気街とは名ばかりで、オタクの街と言った方が正確かもしれない。

 休日なので人が多く、海外からの観光客も目立っている。

 駅前の店舗の窓ガラスには、有名な企業VTuberのイラストが貼られていた。


「わー、やっぱりすごいなー」


 姉さんはVtuberのイラストをスマホで撮影している。


「やっぱり姉さんも、この人たちくらい有名になりたいの?」

「うーん? まあ、私だって登録者100万人規模のVTuberとかになってみたいけど……それよりも、純粋にファンだから撮ってるんだー。いつかコラボとかしてみたいー……」


 もうすぐ登録者30万人を超えそうな人気VTuberのニノンも、個人としては他のVTuberのファンの一人なのか。

 ……そう思うと少し、親近感がわくかもな。


「弟くんは写真撮らないのー?」

「俺は別に……この箱はたまに見るくらいでそんなに推してないし」

「そっかー、やっぱり弟くんはニノン推しかー」


 姉さんはやたら得意げだった。

 ニノン推しなのはまったくもって正しいけど……こんな態度を取られると妙にむず痒い気持ちになる。


「それより、さっさと用事を済ませよう」

「そうだったねー、さっそく弟くんのマウスを買いに行こうか」


 そうして俺と姉さんは目的の場所に向かった。




 電気街の一画に建つ、PCショップにやってきた。

 店内に入ってすぐ、一番目立つ場所には高そうなゲーミングパソコンがいくつも置かれている。

 中には、プロゲーマーや有名Vtuberとコラボしたモデルが展示されていた。

 マウスが目当てではあるけど、やっぱりこっちも気になるな。


「んー? 弟くん、パソコンも欲しいの?」

「いや、ちょっと見ていただけだよ。今のPCであと何年かは大丈夫だろうし」


 頼めば買ってくれそうな気配を感じるけど、マウスとは文字通り桁が違うお値段だ。

 さすがに気が引ける。


「そっかー。でもこういうのって、スペックとかを眺めてるだけでも楽しいよねー」


 姉さんも普段から配信やゲームでハイスペックなPCを使っているので、表を見たらある程度は性能の良し悪しを理解できるらしい。


「お金が有り余っていたら欲しいけど……私も今は我慢かなー……」

「何か買う予定のものでもあるの?」

「そうじゃなくて、ライブの準備で結構お金を使ってるから」


 なるほど。

 近日実施予定のライブのために会場を押さえてチケットを販売して、必要な人員を雇って……なんてことを個人勢のVTuberがやっていたら、色々と必要経費が掛かるだろう。


「そんな状況で、本当に俺におごる余裕が?」

「マウスの一つくらいなら大丈夫だよー」


 そんなわけで、ゲーミングマウスを扱うコーナーにやってきた。

 色々なメーカーや価格帯のマウスが陳列されていて、実物を触って試すことができる。

 ほしいマウスの目星は付けているけど、せっかくなら第一候補以外も触ってみるか。

 俺は展示品のマウスを順番に手に取って、感触を確かめる。


「弟くんは、すごく真剣にゲームしてるよね」


 隣で俺の様子をじっと眺めていた姉さんが、おもむろに言った。


「一応、プロを目指してるから」

「プロかー……弟くんって強いとは思ってたけど、そこまで本気だったんだ。いつも同じ人とゲームしてるのもその一環?」

「まあ、そうだね。あれはチームメイトなんだ」

「へー、そうなんだ! チームメイトはどんな人なの?」

「高校の同級生で、幼馴染とその友達だ」


 今日の姉さんは、やたら俺のことを聞いてくるな。

 

「幼馴染って女の子だよね。その友達ってことは……チームメイトは全員女の子か

ー。弟くんも隅に置けないね?」

「別にそういう、浮ついた感じじゃないよ」

「そっか、本気なんだー」


 いつもなら更にからかってきそうな場面なのに、姉さんは普通に相槌を打っている。

 なんだろう。

 いつもと少し違う雰囲気を感じる。


「今日は、弟くんのことをもっと知りたくて誘ったんだー」

「俺のことを……もっと知りたい?」

「うん。最近、弟くんが特に頑張ってるみたいだったから……どんなことをしているのか気になってたけど、忙しそうで中々聞いてみるタイミングがなくて」

「確かに、最近あまり話してなかったかもね」


 正直、意図的に姉さんを避けていた部分はあるけど。


「ねえ、弟くん。私は弟くんにとってただのきょうだいかもしれないけど……自分の立場なんて関係なく、もっと弟くんのことを知りたいと思ってるよ」

「それは……もしかして、この前言ったことを覚えてたの?」


 きょうだいに対して、そこまで話す必要があるのか。

 以前、個人的なことについて姉さんから色々と聞かれたとき、俺はそんな疑問を口にした。

 姉さんの発言は、あの時の疑問に対する答えなのかもしれない。

 

「うん。だから私としては、弟くんともっとお話したいな。お姉ちゃんとしては、弟くんに放っておかれると寂しいって言うか」


 姉さんの言葉を聞いている限りだと、練習を口実に距離を置こうとしていたのはバレていたかもしれない。

 そう認識して、俺は。

 思惑がバレていたことの恥ずかしさとか、距離を置きたいのに近づいてくることへの疎ましさみたいな感情はなくて。

 ただ、嬉しいと思った。


「分かった、そうするよ。大会が終わったら、また一緒にゲームしよう」


 例え、姉さんにとって俺がただのきょうだいだったとしても。

 こうして気にかけてもらえるだけで嬉しいと思ってしまうあたり、俺はこの人に逆らえないんだろうな。


「うん! じゃあまずはマウスを買わないとね!」


 うなずく俺を前に、姉さんは笑顔を弾けさせた。




 それから10分ほど色々マウスを比べたが、結局は第一候補のマウスを買った。

 より正確に言うと、姉さんに買ってもらった。

 瑠衣花が使用しているマウスと同じ製品だ。

 買い物とちょっとした仲直りのようなことを済ませて、俺と姉さんが店を出ると。

 店頭に、俺のよく知る人物たちが立っていた。


「葵……?」

「お、葵じゃん。って隣の人だれ?」


 俺の同級生であり、チームメイトたち。

 瑠衣花と凛乃と鉢合わせた。


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