第十七話 周りの女の子たちの様子がおかしい
俺の家から高校までは徒歩で10分ほどの距離にある。
中学生時代からゲーマーだった俺は、進学先を決める際に「家から一番近い高校」に狙いを定めていた。
理由はもちろん、早く帰って一分でも長く家でゲームをやる時間を確保するためだ。
まあ、学力的にちょうど良かったって理由もあるけど。
ともあれ俺は高校へと続く道を、王城さんと二人で歩いていた。
クラスでも人気の美少女と一緒に登校なんて……誰かに見られたら噂されるかもな。
そんな調子で、のんきなことを考えていた俺は気づいた。
「……」
「……」
さっきから、二人とも何も話していない。
同じことを、王城さんも感じたのだろうか。
「男の子と登校するのなんて初めてだから、何を話したら良いかわからないや」
王城さんはおもむろにそう口にした。
「奇遇だな、俺も似たような状況だ」
「そうなんだ、ちょっと意外」
「意外……か?」
「だってあんな素敵なお姉さんがいるし、クラスでも真城さんとよく一緒にいるでしょ? だから女の子慣れしているのかと思ってた」
「あの二人は姉と幼馴染だから、気兼ねがないというか」
「だとしても、黒川君の落ち着いた雰囲気はモテると思う」
「落ち着いた雰囲気……って」
物は言いようだな、と思う。
正直、ただ根暗ゲーマーだから感情の機微が表にあまり出ていないだけじゃないのか、と思わなくもない。
けど、その考えはさすがに卑屈すぎる気がするので口に出さないでおこう。
言っても王城さんが困るだけで誰も得しないし。
「なんか、王城さんって俺に対する評価がやたら高くない?」
「えー? どうだろう。少なくとも、もっとお近づきになりたいと思っているけど」
王城さんはしれっと、そんなことを言ってきた。
「お近づきになりたい……って」
相手がただのクラスメイトだったなら、俺としても諸手を挙げて喜んだかもしれない。
ただでさえ、姉さんに「恋愛対象として見たことはない」なんてバッサリ切り捨てられたばかりだからな。
そんな時に別の美少女から思わせぶりなことを言われたら、心が揺さぶられてしまうのが男子高校生ってものだろう、多分。
だけど、王城愛乃というクラスメイトは……人気VTuber佐々城ララの中の人でもある。
ただでさえニノンの「弟くん」として常に炎上の危機と隣り合わせにある俺が、別のVTuberともお近づきになるなんて自殺行為でしかない。
……なんてことを、思っていたら。
「だから黒川君じゃなくて……葵君って名前で呼びたいんだけど、いい?」
「まあ、断る理由はない……のかな」
美少女にあざとく小首を傾げられて、ダメだと言えるほど俺は異性に慣れていなかった。
「やった! ありがとう、葵君」
……王城さんからの好感度がなんとなく高そうだとは、恋愛経験皆無な俺でも分かる。
けど、どうして好感度が高いのかは、よく分からなかった。
〇
王城さんと二人で登校したら何か噂になるんじゃないか……なんて心配していた俺だったけど、特にそんなことはなく普段通りの一日が過ぎて放課後になった。
(杞憂だったか……)
と思ったのも束の間。
「葵……今日はわたしと一緒に帰ろう」
幼馴染の瑠衣花が、何やらむすっとした表情で話しかけてきた。
学校を出て、帰り道。
「瑠衣花と一緒に帰るのって、意外と久々だよな」
瑠衣花は電車通学をしており、高校の最寄り駅は俺の家とは別方向にある。
一緒に帰るために駅の方向に歩いたら俺が必然的に遠回りをすることになるので、少しでも長く一緒にゲームをして練習したい俺と瑠衣花は別々に帰ることが多い。
「今日誘ったのは、葵が王城さんと一緒に登校してきたから」
「……知ってたのか」
「一緒に歩いているのを見かけた」
よりによって瑠衣花に見られていたとは。
「葵、なんで王城さんと一緒だったの」
「それは……たまたまだ」
「葵の家がある方向から一緒に歩いてきたのに?」
「……そういうこともあるだろ」
王城さんが実はVTuberで、昨夜は俺の姉であるニノンと我が家でお泊り会コラボをしていた、なんて説明できるわけがない。
「怪しい……王城さん、葵のこと苗字じゃなくて下の名前で呼んでたし」
「瑠衣花だって、俺のことを下の名前で呼ぶだろ?」
「それは……わたしと葵は昔から一緒だから。王城さんと葵は……なぜか今日、急に仲良くなってた」
「クラスメイトで同じ図書委員だから、元からたまに話すことはあった気がするけど……」
そう言う俺ではあるけど、今日はいつもより王城さんと会話する機会が多かったという自覚はあった。
王城さんは教室で、俺の前の席に座っている。
以前まではせいぜい、時折挨拶を交わすくらいだったけど……今日は休み時間の度に振り向いて、王城さんの方から二言三言話しかけてきたりした。
そういう意味では、瑠衣花の指摘も間違いじゃない。
「あとは王城さん、やたら葵のこと見てた」
「なんだそれ」
「絶対葵に気がある」
瑠衣花は真剣な眼差しで俺を見てくる。
なんだその、絶妙に返しに困る発言は。
(……最近、俺の幼馴染の様子がおかしい)
瑠衣花は口を開けばゲームについての話題しか出てこない、ゲーム大好きっ子だったはずだ。
それなのに、最近は恋愛について話す機会が増えた。
やっぱり瑠衣花もそういうお年頃なのか……?
なんてことを考えている間に、駅前に着いた。
俺はここから別方向にある家に帰るけど、瑠衣花は電車に乗る。
「じゃあ、俺はこの辺で……」
これ幸いと、先ほどの瑠衣花の言葉に対する返事を避けて、別れを告げようとしたその時。
「待って、葵も一緒に来て」
瑠衣花が俺の制服の袖を摘まんできた。
「え?」
「わたしの家でゲームしよう」
俺は幼馴染の女の子の家に誘われた。




