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人権なし異能者  作者: 緋鯉
陸 慈悲、遮那
7/52

5

別の場所では

三か所の穴を封鎖した旨を無線で伝えられたマツガタはインカムに触れながら上層へ散っている仲間へ短く指示を飛ばす。


「……繰り返します!

避難優先、人命を優先!

上階の負傷者は可能な限り1階へ引きずってでも運んでください!特A級能力者 満月により建物内の禍種は全て対処済み。繰り返します――」


その時だった。後ろから声をかけられる。マツガタが反射的に振り返ると、黒髪の痩せた長身の男が真顔でこちらを見下ろしていた。


カンシだ。


「あなたが松型B級能力者の篠宮アオイですね?」


マツガタは背筋を伸ばす。この状況でそれを知っているということは特A級能力者の専属監視官に他ならない。


「は、はい! 松型B級能力者 篠宮アオイです!

負傷者は含め建物各所に散らばっていた避難民は全員ここ1階に誘導中です!貴方は特A級能力者 満月様の専属監視官様ですか!?」


「ええ、その通りです。特A級能力者 満月様の専属監視官、名を新月と申します。貴方の対応は全て満月様から報告を受けて確認しました。柔軟な対応助かります。流石は松型ですね。」


淡々とした言葉と上から下へと流れ観察される視線にマツガタは褒められたはずなのに緊張を強める。カンシはふいに視線を通路奥へ向け、避難民達へ視線を向ける。


「満月がこの建物内の禍種を全て処分しました。私達はこの方たちの統制と治療を行います。また、私が情報を纏め上へ伝えるので貴方は逐一報告しなさい。貴方は―」


そこでカンシは言葉を区切りジロリとアオイを見下ろす。


「……顔色が悪いですね。恐怖か疲労か、あるいは両方でしょうか。」


「……っ、はい。で、でも動けます!」


「当たり前です、動きなさい。私は満月様に“誰も助けなくていい”と命令しました。民間人が生きるか死ぬかは貴方たちB級にかかっていますよ。あなたの優先は人命です。」


マツガタは息を呑む。それは己の判断ミスで人が死ぬかもしれないということへの恐怖か責任の重さか。


カンシはマツガタから視線を外し避難民たちへと向き直る。

マツガタとカンシに注目していた避難民は押し黙り、それに気づいた人々もつられてざわめきは静かになっていく。ある程度静かになったところでたカンシは拡声魔術を使い声を張り上げる。


「全員、注目してください。負傷している方はそのままでも構いません。」


指示は淡々、だが拒否を許さない。避難民のざわめきが一気に細る。ざわめきがなくなるまでの間カンシ

腕時計を確認する。


カンシは時間を確認しつつ腕時計を3度叩く。するとホログラム映像が浮び上がる。それは夜凪の首元に付いているカメラとリンクしている。その映像には夜凪が縦横無尽に飛び回り乱れている映像が写っている。それを確認し夜凪が元気なことを確認すると己の現状に集中する。


「今から簡易的ですが怪我人を分けます。怪我をしている人はその場に残り、怪我がない人は私から見て右側に移動してください。また、治癒ができるものは名乗り出てください。貴方の魔術が勇気が人を救います!」


世界中のほとんどの人間は魔力をもっている。そして魔力を扱うために基礎魔術は義務教育で受けさせられている。得手不得手はいるが擦り傷程度なら治せるものは多いはずだ。


「治療程ではなくてもかすり傷でもいい、治せる者は隣の人を助けて上げてください。ここにいる人達は皆生きたいという1つの目標を持っています。貴方達の隣にいる人は敵ではなく仲間です。」


最初は戸惑っていた人々も、次第に恐怖より“助かるかもしれない”という希望が勝ち、動き出す。マツガタはその横で、慣れた手つきで避難民の誘導を始めた。

キョロキョロと当たりを見回し震えながら子どもを抱えた女性を見て、カンシはしゃがんで目線を合わせた。


「何か困り事でもありますか?」


意識して柔らかい声と顔を作る。


「む、むすめが、息をしていないんです……。助けてくれるんですよねっ、監視官様!特A級なら!助けられるんですよねっ!!だって!それが仕事ですよねっ!!!」


その女は笑顔で問いかけてくる。腕の中の子供を見る。腕が1つ足りず顔は泣き叫んだのであろう恐怖で固まっている。眼球に止まった蝿を女は丁寧に追い払う。カンシは一瞬、目を見開き固まる。僅かに震える唇。そこからは先程と変わらず優しい声で女を肯定する言葉が出てくる。


「…ええ、もちろん。今から来る慈悲王なら死者すらも生き返るでしょう。」


女は安堵したように泣き崩れる。それをカンシは近くにいた人間を呼び止め重傷者の枠へと連れて行かせる。死者が生き返ることなどありえない。だが、特A級能力者の慈悲王ならば死者蘇生すらもできてしまう。あの女には気の毒だがきちんと生き返るかは神のみぞ知る。いや、慈悲王のみぞ知ると言うやつだが。特A級能力者は本当に化け物だ。そう思いながらカンシが全体を見渡すと、マツガタが小走りで近づいてきた。


「治癒系、5名確保しました!ただ、魔力の出力が低い人が一人…。」


カンシは5人を一瞬だけ見た。怯え、緊張、覚悟。

反応は三者三様。だが評価はひとつ。使えるのなら使う。


「5名とも前に。あなたたちは“治療班A・B・C”として交代制で動きます。限界が来るまで治す必要はありません。いいですね?」


治癒者の中の若い女が、小さく首をすくめながら問う。


「で、でも……誰を優先して治せば……」


「重症者一択です」


カンシは即答する。


「軽症は後回しです。出血が止まらない、呼吸が浅い、意識が揺らいでいる者を優先して下さい。できるだけ死なせなければ問題ありません。完璧に治し切る必要はありません。数時間生き延びれば十分です。なに、重く考える必要はありません。慈悲王が来れば数時間前に死んだ人間など運が良ければ生き返りますから。」


5人は強張った顔で頷いた。


避難民の状況が整ったのを確認すると、カンシはマツガタに指示を投げる。


「篠宮B級、動ける成人男性を3名ずつの10チーム作りなさい。怪我のない者を優先で。」


マツガタがすぐに動く。男たちが次々と集まり、不安と混乱が混じった顔を並べた。


「俺たち……何をすれば?」


カンシは淡々と拒否権などありはしないという強制力を込めた声をだす。


「物資の回収です。食料・毛布・薬品・水。複数チームで動き、持てるだけ持って戻ってください。戦闘は必要ありません。避難所の安全が確保されていますので。」


男の一人が小さく口を開く。


「で、でも……道中で魔物が残ってたら……」


カンシはほんのわずかだけ、語気を強めた。


「特A級能力者 満月様が全て処理しました。私が保証します。貴方が怯えるものはこの建物内にはいません。」


それは“虚勢”ではなく、事実に基づいた確信だった。

男たちの顔からは恐怖が薄まり不安より“役割”が宿る。


カンシは続けた。


「あなたたちは四班に分かれます。第一班は食料。第二班は毛布と生活用品。第三班は医療品と水。残りの三人は治安維持に。暴れているものがいれば報告してください。あとは篠宮B級が説明します。」


マツガタが即座に前へ立ち、具体的なルート・戻り経路・時間を指示し始める。



マツガタは民間人を率いている。カンシの右側では5人の治癒能力を持つものが重傷者を治療している。これで最低限の延命はできる。次は秩序の構築だ。カンシはここまでそこそこ上手くいってるのにで混乱でも起きたら堪らないとすぐに声を張上げる。


「今!特A級能力者が禍種の駆除を行い建物内の安全は確認できました!また、あと数時間もすれば他の特A級能力者が到着します。それまで皆さん落ち着いてください。この場で1番大切なことは落ち着き、助け合うことです。女子どもの皆さんはできるだけ中央に集まってください。最低でも数人で動き決して単独行動はしないように。

あとは、そうですね。人を笑わせるものが得意なものは笑わせるように。」


そういったカンシはポケットから花の種がどっさり入っている袋を取り出し魔術で一気に開花させると近くにいる人から風魔法を使い配っていく。それを受け取った人々からは僅かながら笑顔が零れる。


「ストレスは1番の敵ですからね。そしてこれは私の経験談ですが、どんなに絶望しても陰気臭い顔より笑顔の方が周囲は優しくなるし少しはマシな明日が拝めますよ。」


その声には、夜凪にも禍種にも向けない種類の優しさが宿っていた。


避難民が、その言葉に何かを考える。納得、怒り、欺瞞、様々な感情があるのだろう。だが避難人達はしだいに落ち着きを取り戻していく。それを成立させているのはカンシという凡人の、異常なまでの落ち着きだった。


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