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人権なし異能者  作者: 緋鯉
大学 ループ
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42

それは、何度目かのループだった。


回数はもう分からない。

分からないけど、感覚だけは確実に壊れていた。


魔術陣の調整中、院生はいつの間にか夜凪の隣に立っていた。

距離が近い。でも、そのことに気づいたのは遅かった。


「夜凪、次の構築だけど——」


パァン!


乾いた音が、やけに軽やかに響いた。世界が1周し床と頬がこんにちはした。視界の端で、星が飛んでいる。


「……っは?」


声になったかどうかも怪しい。


顔を上げると、夜凪が立っていた。腕を下ろし、少しだけ手首を振っている。表情はいつも通り。眠そうで、だるそうで、どうでもよさそう。


「……馴れ馴れしいなぁ。」


冗談みたいにトーンは軽い。

でも、空気は冗談じゃなかった。


夜凪が一歩、前に出る。それだけで、空気が重くなり呼吸がちょっとだけ苦しくなる。


あ、これヤバいやつだ


頭のどこかが、冷静に判断する。夜凪は、院生を見下ろして首を傾げた。


「勘違いしてるみたいだから、言っとくね」


間がない。逃げ場もない。助けてくれる人は誰もいない。


「お前が何回目かは知らないけど」


一拍。


「私は初対面」


その言い方が、致命的だった。そして、追い打ちみたいに続く。


「今の私は、学生の夜凪じゃないよ」


少しだけ、笑う。


「特A級能力者の満月。お前たちが特A級能力者として助力求めたんだよ。」


夜凪がその言葉を口にした瞬間。場の空気が一段と重くなった気がした。


国家が管理する災害。院生は、ようやく己の行動を理解する。


自分がさっきやったのは、同級生に話しかけた行為じゃない。災害に気安く触れたのだと。、


夜凪は、それ以上何も言わない。説明もしない。

ただ、踵を返す。


「距離感、間違えないでね」


軽い。

本当に、軽い。


魔術陣の方へ歩いていきながら、思い出したみたいに付け足す。


「次は、気をつけてね。私じゃなかったら腕の1、2本はないよ。」


それが警告なのか、忠告なのか、冗談なのか誰にも分からなかった。院生は床に座ったまま、頬を押さえる。じんじんと、確かな痛み。


でも、不思議と頭は冷えていた。


それ以降、誰も夜凪に無断で近づかなくなった。

話す時は敬語で。歩く時は3歩後ろを。視線は合わせすぎず逸らしすぎず。


張り手一発で、全員が思い出した。特A級能力者とは、そういう存在だった。

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