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人権なし異能者  作者: 緋鯉
大学
42/44

36

2限目の講義が終わり、夜凪は食堂へと向かっていた。昼休みの通路は、学生の足音と話し声で騒がしく夜凪にとってこれが平和な日常の1幕だった。


だが、その雑踏の中ひときわ異様な気配が漂う。食堂へと向かう廊下の中央で、学生達数人が互いに取っ組み合い、魔術を使用し大規模な喧嘩をしていた。周囲の学生は驚きつつも、距離を取りながら眺め、どちらが勝つか賭け囃し立てている。


夜凪は廊下の先で喧嘩が始まっているのを把握するとすぐさま踵を返し別ルートで食堂まで向かおうとする。


そのとき、夜凪の腕が強く掴まれた。


反射的に足が止まる。夜凪を掴む手は震えていた。爪が食い込むほどに力がこもっている。


自分の掴まれている腕をみる。そして、その手の持ち主を見る。そこにいたのは男だった。顔は青白く、必死な形相だ。


男は、夜凪の手のひらに無理やり紙を押し込んだ。

ぐしゃりと折れた紙。汗で湿っている。


「……これなら、聞いてくれるよなっ。」


夜凪は無言で紙を開く。

そこに書かれていた文字を、視線だけでなぞる。



――新月の命は預かった。この男の話を聞け。


夜凪の動きが完全に止まった。

周囲の騒音が遠のく。悲鳴も、ざわめきも、すべてが雑音に変わる。夜凪の眠たげな黄金の瞳がゆっくりと開き男を見据える。


夜凪は紙を握りしめたまま、ゆっくりと男を見る。


「…話して」


表情には感情なく、声だけは怒りに満ちていた。


すると、男は崩れるようにその場に座り込み、嗚咽を漏らす。


「やっと……やっと、聞いてくれた。」


夜凪は事を早く進めたいため、座り込み泣いている男の髪を掴み顔をあげると思いきりビンタする。


「泣くな。目的を言え。」


泣いていた男は叩かれたことに呆然とするも夜凪に着いてくるように言い、泣きながら走りだす。それを夜凪も黙って追いかけた。


男の目的地は棟の最上階にある角部屋だった。男に続き夜凪は部屋の中に入る。その部屋の中には20人ほどの人間がいた。大学生、院生が数人、教授が2人。皆、夜凪に怯えた視線を向けていた。


夜凪は部屋の入口に立ち、静かに周囲を見渡した。

部屋の空気は重く、緊張で張り詰めている。誰も何も言わない。


夜凪を案内した男は床に崩れ、今度こそ泣いている。


「…新月は?」


部屋の中の一人の院生が前に出る。


「…まずは説明をさせてください、夜凪さん。その後に彼を解放します。」


夜凪は眉ひとつ動かさず、声を発した院生の両足を異能力で折る。院生は鈍い音と共に床に這いつくばり叫び声をあげた。室内は悲鳴で満たされる。


「新月はどこ?」


「⋯さ、先に説明を聞いて下さいっ!」


声を発した教授が天井に叩きつけられ床に落下した。


「新月はどこ?」


夜凪は声の主である教授を睨みつけた。教授は床に這いつくばったまま痛みで呻いている。もう1人の教授が口を開く。


「わ、私たちは新月が誰か知りません!過去の貴方にそういえって言われました!だからっ!!だから新月は拘束されていません!確認してくださいっ!!我々の話を聞いてもらうための嘘でした!ごめんなさいっ!」


夜凪はそう言い放ったもう1人の教授を片足を引っ張り逆さまに釣り上げる。


「嘘だったらこいつを殺す。」


室内からは悲鳴と泣き叫ぶ声が聞こえるがどうだっていい。夜凪はスマホからカンシへと電話をかける。


コール音は一度で途切れた。


『夜凪?どうしました?』


いつも通りの落ち着いた声。


「今どこ?」


『……急ですね。本局で貴方の活動状況を纏めていました。…送迎なら今は手が離せないので別のものを向かわせます。』


「違う。今日は私が迎えに行くからその建物から出ないでね。その時に全部説明する。」


『また揉め事でも起こしたんですか?処理が面倒臭いのであまり問題は起こさないでください。この仕事が片付いたら迎えに行きます。」


「違うってば。今日は私が迎えに行く。信じて。」


「⋯はぁ、わかりました。家族には遅くなる連絡をしときましょう。」


そう言うとカンシから連絡を絶った。

夜凪は逆さに吊るした教授を一瞥する。男は必死に首を振り、声にならない声を上げていた。


夜凪は釣り上げていた教授を床に落とした。そして、全てのドアと窓を異能を使い閉めた。後ろにあるドアに体重をかけもたれると、ゆったりと腕を組み顔を傾ける。黄金の瞳は敵意を持って室内の人間を睥睨した。


「じゃあ、説明してもらおうかな。」


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