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京都弁知ってるまたは使える人へ。
結界師一家の言葉を添削して私に教えてほしい。
夜凪は上空から結界師の力を感知した。
特A級能力者のほとんどが異能力者で構成されているが、結界師はその中でも2人しかいない魔術師だ。洗練された魔力を纏っているため分かりやすい気配をしている。
夜凪は結界師が来たことを即座に察知する。神社のはるか上空に留まっていた夜凪の姿が一瞬にして消える。夜凪は神に捕捉されたまま、結界師の元へ一直線に急降下した。
――ドンッ!!
夜凪は地面に踵から突き刺さるように着地した。土が抉れ、風圧が爆ぜる。
「うっわぁっ!!」
直後、結界師がその風圧で後方へ吹き飛ばされ、土の上に白目を剥いて転がる。
「ちょ、ちょっと待ってぇ!?いきなり突っ込んで来んといてぇ!!」
元気な声が聞こえる。結界師は五十一歳。神社生まれ、神社育ち。ただの主婦で特A級能力者。異能者ではなく結界の魔術師だ。
夜凪が吹き飛ばした結界師は一人ではなかった。後方には、慣れた様子で陣を整え始める三人の若者。夜凪は初めて見る若者3人に首を傾げる。
「⋯死刑囚?」
夜凪の一言に、空気が一瞬だけ固まった。
「……ちゃうわ!!」
即座に飛んできたのは、結界師のツッコミだった。
すぐさま起き上がって白目を戻し、びしっと夜凪を指差す。
「誰が生贄やの、うちの子や! 実子!!戸籍もあるぅ!そら、お前たち挨拶し!」
後方にいた三人が、ほぼ同時にため息をつく。
「どうも、長男です。初対面でそれは失礼やと思いますよ。長男って呼んでください。」
次に同じ顔をもつ男女の男の方が半目で続ける。
「どーもぉ、よろしゅうしてください。生贄ですぅ。次男と言います。」
双子の女の方は、引きつった笑顔で小さく手を振った。
「ど、どうも……生贄やないです…。妹って呼んでほしいです。」
夜凪は無言で三人を見比べ、ほんの少しだけ首を傾げた。
「家族?…なんで連れてきたの?まだ未熟でしょ。魔力強くないじゃん。」
夜凪は困惑したような表情で厳しい言葉を吐く。結界師は、夜凪の表情と言葉の意味を正確に捉え、わざと軽い調子で声を発する。
「そんな顔せんでも大丈夫やて。この子ら、確かに一人前やない。せやけど、今日はたくさん仕込んできた。社会勉強も大切やろ?」
双子の妹は真剣な顔で頷いた。
「逃げろ言われたら、みんな見捨てて全力で逃げます。安心してください!」
その言葉に夜凪の空気は少しだけ緩んだ。
そして結界師一家は準備をはじめた。長男は無言で護符を確認している。双子の男女、兄は眠そうに何かを準備しており、妹は神社の方向を指さし引きつった笑顔だ。
「……お母はん。あれ、アカンやつやんな?」
その時ようやく、結界師は夜凪を見る。そして、神社を見る。牛の姿をした神が、そこに在るのを感じた。
「……あら」
一拍。
「…………あらあら。正真正銘の本物やん。図鑑の最後に載るようなラスボスやないの!どうするぅ?今日3時起きで働いてんねんけどっ。帰れると思う?夕飯どうするぅ!?私らが夕飯だわ!」
文句を言いながらも、結界師は立ち上がる。結界師一家は夜凪と共にいる。つまり、神に見られている夜凪と共にいることによって、結界師一家も神に認識された。もう逃げられない。
「満月ちゃん」
「はい」
「神と目ぇ、合うたやろ?」
夜凪は一瞬だけ視線を逸らす。
「少しだけ」
「あらまぁ。怖いわ。なんで生きてるの?」
結界師は額を押さえた。双子の兄が小声で問いかける。
「……母さん、これ封印コース?」
「封印やね。倒せないし。逃げたら私らみんなバックンバックン胃の中や。ここは、神社だし、私らも神社生まれ、神社育ち相性は抜群。」
結界師は相変わらず軽い調子で言葉を放つが顔は笑っていなかった。




