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人権なし異能者  作者: 緋鯉
1ヶ月の内容 続き
36/44

30

魔乱発生から10日目

05:40


龍脈は安定している。結界師が龍穴に張った結界は正常。


異常なし。夜凪とカンシの判断は正しい。


だがその後、誰にも観測されない場所で、小さな変化が起きていた。


山の切れ端。再開発からも、災害マップからもこぼれ落ちた一角。名も無き小さな神社があった。社殿は傾き、注連縄は風化し、賽銭箱はとうに失われている廃れた神社だ。


人の信仰からも、行政の管理からも、完全に忘れ去られた場所。野生動物しか知らない、妖精達しか住み着いていない場所。その地下に、本来なら無視される程度の龍脈の支流があった。


妖精とは小さく、弱く、矮小で無害な存在である。

単体では、虫と大差ない存在。


だが、彼らは魔力、異能力、生命力といった力の匂いを嗅ぎ取る。今回もこの神社の地下に流れる龍脈の力を嗅ぎ取り住み着いていたのだろう。


結界師がここら一帯の龍脈をととのえた事で、今まで霞のような力しか流れていなかったこの龍脈の力は正常に流れる。


それに、妖精たちは気づいた。


「なんか、ここながれてきてる」

「ふえてる?」

「おもしろそう」


妖精に悪意はない。破壊の意図もない。ただ、楽しそうだった。龍脈から力を得たかった。少し広げてみたかった。それだけだ。


それだけで彼らは少しずつ、龍脈の穴を広げてしまった。ゆっくりと時間をかけて。誰にも気づかれない速度で。



魔乱発生から10日目

16:30


山は戦闘の最前線になっていた。

禍種が山腹から溢れ出し始めたことで、自衛隊と民間能力者部隊は麓に即席の防衛線を張っていた。

重機は止まり、復旧班は後退。少なくとも命の危険はなかった場所が、戦場と化していた。


自衛隊は銃火器で対応できる範囲を必死に維持している。だが相手は禍種だ。数が多すぎる。


「撃てる物は全て撃て!!一般人を避難させろ!」


無線が怒鳴り声で割れる。撃てば倒せる。だが一体撃つ間に、二体が斜面から転がるように降りてくる。


民間企業の能力者たちは、その隙間を埋めるように配置されていた。だが彼らは本来、高位能力者が殲滅した残りカス、つまり雑魚禍種を処理する役目だ。そこまでの戦闘力は持っていない。


「聞いてないぞ……第三波だなんて……」


誰かが吐き捨てる。


六日目の第二波で、龍脈の過剰な力は消化されたはずだった。そも、ここは特A級能力者である結界師が龍脈を整え、力が溢れ出ないように封印したのではなかったのか。なぜ、こんなことになっている。


現場は魔乱の終盤を想定していた。だからこそ、ここに低級能力者と自衛隊が大勢いた。


その前提が、崩れた。


「山側、禍種増加!種類、虫型多数!」


「上から来るぞ!伏せろ!」


隊列が乱れる。禍種は賢くない。だが数が多い。恐怖は、判断を遅らせる。判断の遅れた自衛官が一人真っ赤な体と黒い斑点を持つテントウムシの禍種に頭を喰われた。その隣ではイナゴの禍種が空から降ってきて人が潰された。地面からは未完成の蛹だったものや幼虫が地面をゆっくりと這っている。


後方、メディア用臨時中継地点。カメラは回っていた。報道ヘリは距離を保ち、地上カメラが麓の混乱を切り取る。記者の声は、どこか焦っている。


「現在、愛知県山間部で新たな禍種の大量出現が確認され――」


言葉を選びながらも、事実は隠せない。SNSにはすでに映像が流れ始めていた。山から黒い影が溢れる様子。逃げる民間能力者。自衛隊が後退する瞬間。

《第3波?》《聞いてない》《まだ終わってなかったの?》

現場よりも早く、混乱が拡散していく。



ヘリよりも上空。夜凪は、それらすべてを感知していた。禍種の気配。人間の気配。そして戦線がじわじわと下がる気配。


「…あー。」


面倒そうに、しかし確実に状況を理解した。魔乱の第3波が起きたことがわかったのだ。


夜凪は即座に通信を開いた。


「カンシ。第3波発生かも。GPS繋がってるよね。私から離れて…うーんと、内陸に向かってて。」


『……確認しました。発生源はどちらでしょうか。』


「たぶん山?森かな?山全体から禍種が溢れてるからわからない。」


『分かりました。では、貴方は禍種を駆除しつつ第3波が起こった原因を調べて下さい。新たな龍穴かネームドの死体があるかもしれません。』


「了解、ボス。たぶんネームドはないと思うよ。感知に引っかからない。あと、私自然由来の力あんまりわからないから時間かかるかも。」


『ええ、それで構いません。できるだけ駆除よりも原因解明を優先するように。』


カンシの言うことには納得できる。龍穴から力が溢れている場合には龍穴から溢れている力が周囲の動植物に影響を与えている。なので龍穴をどうにかしない限り獣は魔獣に変異し、過剰な魔力からは魔物が生まれ続ける。第3波は終わらないのだ。


高位能力者がいなければ、この前線は一時間も持たないだろう。チラホラと中級~上級禍種の気配がする。


夜凪は慈悲王と大海とは昼食後、直ぐに別れている。あれから約4時間。2人はもう遠く別の県に移動していることだろう。


この第3波を沈静化するうえで1番簡単なのは山ごと全てを壊すこと。だが、それは一番の悪手だった。山は生態系の維持に必要不可欠な受け皿。それに、精霊や神と呼ばれる何かが存在している。触らぬ神に祟りなしという諺のように、いるかいないかわからない神は刺激してはいけない。


そのため、広範囲殲滅は不可。一体ずつ、確実に潰すしかない。

とりあえず夜凪は目に入る禍種と強い気配のする禍種を圧殺する。だが、それでも数は多い。


時間が、足りない。原因を見つけるのが先か。戦線が崩壊するのが先か。


民間にも時折A級能力者や松型B級能力者がいるが、その割合はかなり少ない。ここに民間の上級能力者が何人いることやら。


夜凪は山の奥へ飛んでゆく。ついでに地上の禍種を殺してゆく。

その背後では、自衛隊と民間企業は必死に時間を稼ぎ、いくつかのメディアは避難せず悪夢のような現実を世界に流していた。その中に1つ、森へと飛ぶ夜凪を捉えたカメラがあった。


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