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人権なし異能者  作者: 緋鯉
誕生日 余談
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誕生日③

夜凪は、ゆっくりと目を開けた。


最初に視界に入ったのは近すぎる顔。夜凪は慈悲王と目が合う。慈悲王の薄氷のように色素の薄い瞳が意地悪そうにキュウと細まる。口元はニヤニヤとした嫌らしげな笑みだ。


「処女喪失おめでとうございます!」


軽やかな声と拍手の音だけが、病室に不釣り合いに響く。


「どうですか? 死んだ感想は!」


夜凪は一度、瞬きをする。次に天井を見てる。最後に慈悲王の顔を見る。


「……最悪。」


「ですよねえ」


慈悲王は満足そうに頷いた。


「人生初の“完全死亡”ですから。おめでたい節目です」


夜凪はゆっくりと呼吸を確認する。異能を使いゆっくりと丁寧に体を調べていく。肺が動く。血が巡る。体は重いが、確かに生きている。その中心で、違和感があった。心臓の奥。鼓動に、微かな異物感。


「……なに、した」


声は低く掠れる。

慈悲王は笑みを崩さずにあっさり答えた。


「装着しました。チップ」


夜凪の瞳が、わずかに細くなる。


「……」


「安心してください。目覚めてから痛みが出ないよう、位置も魔術も完璧です」


慈悲王は指を立てる。


「GPS、状態監視、それから起爆装置などなど。他にも色々フルセットです。……つまりですね、」


慈悲王は、まるで講義の続きをするように声高らかに言った。


「あなたが殺された理由は、それです!」


夜凪の表情は硬い。


「生きたままでは、心臓に埋め込めなかった。貴方は抵抗するでしょう?」


慈悲王は肩をすくめる。やれやれと夜凪を仕方のない子供を見つめるように。


「だから一度、きっちり死んでもらった。完全停止。蘇生前提。合法です。」


「合法」


「ええ。書類上は」


夜凪の指先が、わずかにシーツを掴む。


「カンシは」


「引き金を引きました」


即答だった。


「命令通り、正確に。あなたは6発目で死亡。頭部損傷、脳死判定です。」


慈悲王は少しだけ声を落とす。


「彼にとっては試験でもありました。感情に流されず貴女を殺すという任務を完遂できるかどうかの。良かったですね!これからも貴方の専属監視官は新月さんですよ。」


夜凪は、ゆっくりと目を閉じた。誕生日になり二十歳を迎えた今日。チップを埋め込まれたことにより夜凪は国の所有物として完成した。


「みんな死ねよ。」


「残念、生きます!」


慈悲王は、笑いながら一歩、ベッドに近づく。


「でもね、夜凪さん。これは本当に合法なんです。」


彼は静かに言った。


「死んでいる間にチップを入れた。つまり“同意のない装着”は、あなたが生きていた時間には存在しない。貴方にあった人権は、死んだことにより消失しました。」


夜凪の目が、再び開く。


「詭弁」


「そうですねぇ!」


慈悲王はにこやかに言い切った。実に楽しそうだ。


「そして私は、あなたを生き返らせた。今日付けで貴方は立派な国の所有物です。仮だった貴方は今!この瞬間をもって!正式に特A級能力者となりました!」


沈黙が落ちる。


「……じゃあ、私は」


夜凪が呟く。


「爆弾付き?」


「ええ」


慈悲王は笑顔のまま頷く。


「改めておめでとうございます。人生初死亡。初蘇生。初爆弾。」


夜凪は、心臓の奥の違和感に意識を向けながら、ぽつりと言った。


「……誕生日、嫌いになりそう」


「でしょうねぇ。」


慈悲王は楽しそうに笑う。


「でも安心してください。国の命令に逆らわなければ、今まで通り任務外では自由に生きていられます。あと、勘違いしているようですが貴方の処女は死んでる間に私が貰いました。良い締まりでしたよ。」


「…死亡イコール処女喪失って意味じゃなかったんだ。」


「ある意味イコールですよ。生きてる貴方は抱けないでしょうから。」


その言葉を言い終わると同時に慈悲王の体はひしゃげて手の平サイズのボールになった。夜凪はそれを掴むと思いきり床に叩きつける。何度も何度も何度も気が狂ったように肉塊になり床に叩きつけた慈悲王を素足で踏み潰した。


「……えぇ。」


それをドアの外から結界師と電鎖が見ていた。電鎖は真顔で結界師は声を出し引きつった顔で引いていた。

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