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人権なし異能者  作者: 緋鯉
1ヶ月の内容
32/44

29

魔乱発生から8日目


夜凪は朝早く目を覚ました。現場を変えて魔乱発生地の近くにいる。今日からは活動場所が変わるのだ。

夜凪はいまだに眠気や疲労はあるが、治癒のような精密作業から解放されたせいか頭は比較的冴えている。


この日はカンシからの指示で、被災地周辺に残る禍種の掃討が任務となっている。実は魔乱発生から六日目に魔乱第二波が来たのだ。そのため、夜凪は治療の場からの討伐の場へと任務場所が変わった。今日からは人を助ける必要は一切なく、禍種狩りに精を出せばよいのだ。


「ふぁ。」


夜凪は欠伸と同時に異能を発動。瓦礫に紛れた小型の禍種は無音のまま圧死し、大きな禍種はねじ切られるように駆除される。魔術から時折取れる魔石の回収も怠らない。そこ動きは正確で無駄がない。前日までの疲労感が顔に残るも夜凪の心には冷静さしかなかった。


昼を過ぎても休憩は取らない。昼食は10秒でチャージできるゼリーを飲みながら現場を巡回する。夜凪は戦闘中、怪我の心配も過度な感情も持たず、ただ禍種を倒すことだけに集中する。それは、治療で見せた疲弊とは別の種類の解放感を伴う。


夕方、カンシから通信が入る。残党が沿岸部へ移動しているという報告だ。夜凪はすぐに対象を追跡。異能で高速移動しつつ、禍種を次々と制圧する。日がな一日、はるか上空を夜凪は移動していたため身体は氷のように冷たいが心はスッキリしている。


やはり己は人を治すような緻密な作業よりも遠慮なく力をふるえる殲滅の方が得意だと夜凪は思う。


上空から地上を見下ろす。そこには自衛隊の他に、民間企業の能力者が多く見える。地上の人らにとっては目の前の禍種を横取りされた気分なのだろうか。せっかく魔石調達のチャンスを私が奪うのだから。それでも夜凪は気にせず禍種を狩り、時に魔石を集め、時にカンシに従い瓦礫をどかし、道を広げることを繰り返す。


夜になり仕事がおわる。車の中で食事と着替えを済ませ眠りにつく。睡眠時間にカンシの運転により次の現場へと向う。


魔乱発生から9日目

8日目と同様に禍種の駆除と瓦礫の生理で1日が終わる。


魔乱発生から10日目

05:40

夜凪は車内に差し込む朝日により起こされた。心身ともにスッキリとした目覚めだが、かなり肌寒い。

それに、皮膚の内側を微弱な電流が走るような落ち着かない刺激がある。空気でも音でもない。足元の地面から僅かながらにエネルギーが干渉している。気のせいと言われれば気のせいと断言できるほどに微かな違和感。勘違いのようなもの。


夜凪は通信を入れた。


「カンシ。私の近くで誰かなんかした?」


少しの間を置いて、落ち着いた声が返る。


「今朝5時頃、この一帯の主要な龍穴は結界師様が封鎖したと報告があります。龍脈の流れを整えたとか。」


「ああ…なるほど。じゃあ、それかも」


結界師の仕事は信用できる。龍脈の解析、結界の構築、安定化。いずれも人類最高水準だ。真面目な結界師のしたことと言われれば無条件で信頼できるほど結界師の仕事はいつも正確だ。

事実、その時点で封じられた龍穴には何の問題もなかった。魔力の流れは正常。圧の逃げ道も確保されている。だから、この時点では誰も警戒レベルを引き上げなかった。夜凪自身もそうだった。


11:20

夜凪は一度、高度を下げた。昼食の用意ができたとカンシから連絡が入ったのだ。

カンシの車の横に見慣れない車が3台ある。その横に簡易テーブルが設置されている。


夜凪の目の前には慈悲王と大海がいた。


「お久しぶりですね、満月さん。」


慈悲王は夜凪に向けてにこやかに手を振っている。大海は海鳥と話し込んでいた。


「なんでいるの?」


夜凪の疑問は最もだった。基本、任務外で特A級能力者同士が会うのは禁止されている。なぜなら、特A級能力者は皆、癖が強い。そのため、遮那王や慈悲王といった相性の悪いものが相対するとすぐ周囲を巻き込む喧嘩になるのだ。


「私達はプロパガンダですよ。国内外に向けて宣伝中なんです。ここはいい感じに崩壊していますから。大海さんと共に奇跡を見せてあげてます。」


「そうなんだ。なんでここにいるの?」


夜凪は繰り返す。なぜ、よりによって夜凪がいる場所にいるのかと。その会話を横で聞いていた大海が言葉を返す。


「共にご飯を食べようと思ってね。駄目かい?」


「えー。」


夜凪は嫌そうな顔をしてカンシを見る。カンシは夜凪から視線を逸らした。慈悲王が弁当箱を持ったまま一歩近づく。夜凪は1歩後ずさる。


「満月さん」


「…なに」


「ご飯いっぱい食べないと、大きくなりませんよ」


夜凪が顔を上げ慈悲王を鬱陶しそうに睨む。


「別に、これ以上大きくならなくていい」


慈悲王は気にせず続けた。


「いえ、大きくしなければなりません。異能も、体も、ね?」


「…慈悲のえっちー」


「褒め言葉として受け取っておきますね。女の子は大きければ大きいほど良いんです。目指せ、Fカップ!ですよ。はい、どうぞ。」


慈悲王はそう言って笑顔のまま、夜凪に弁当箱を投げてよこす。手渡しでは直接受け取らないとわかっているのだろう。慈悲王の狙い通り夜凪は異能で投げられた弁当箱を掴む。掴んでしまった。


「いらない。」


「今日は炊き込みご飯です。被災地向けに作ったものの余りなんです。」


慈悲王は夜凪の言葉を無視して自身の弁当箱を開く。


「余りで、この量?」


「余らせる前提で作らせるんですよ。足りないよりは、余る方がいいですから。私だって買い弁やレーションばっかりだと飽きます。」


三人並んで食べ始める。会話は多くなく、沈黙も気まずくない。


遠くでは人や禍種の声が聞こえる。爆発や魔法による振動で微かに地面が揺れている。

ふと、大海が箸を止めて何気なく言う。


「満月さんがここにいるのは効率が悪いね。もっと沿岸だと便利に使えるだろうに。」


夜凪は炊き込みご飯を食べながら答える。


「多分、人のいない沿岸よりここに人がいるから?私いるだけで生存率上がるし。十日目なのに死傷者増やしたら、士気下がる。」


慈悲王が穏やかに補足しうんうんと頷く。


「過剰戦力の最適配置、というやつですね」


「言い方が物騒だなあ。どれ、きちんと頭を使えた満月さんには、私の唐揚げを分けてあげよう。」


くすっと笑った大海はそう言って、唐揚げを一つ差し出した。


「健康のためにも、きちんと餌…いや、ご飯は食べなさい。ちなみに今は何カップなのかな?」


「Dです。」


「なんで知ってるの?なんで知ってるの?誤魔化しも下手だし餌って言ってるし…なんで知ってるの?」


「私は満月さんの主治医ですから。」


間髪入れずに答えた慈悲王に夜凪はドン引きする。大海は餌発言に言い訳するでもなく笑みを深めるだけだった。

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