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避難所のざわめき。物資の音。遠くの泣き声、笑い声。そんな雑多な音が流れる中、三人の周りだけが妙に落ち着いている。夜凪はゆっくりとスープをすする。じんわりと身体の内側が温まる。
慈悲王がちら、と夜凪の手元を見た。
「満月ちゃん。その手、まだ血が滲んでます。結界の印ですよね。痛かったでしょう?」
「別に」
慈悲王は夜凪の手を治療しようと手を伸ばす。
「別にって顔じゃないですよ?ほら、手─」
「触らないで、自分で治せる。」
即答。慈悲王は素直に手を引っ込めて、両手を上げる。
「はいはい、触りません。じゃあ……こうします」
慈悲王は夜凪へ人差し指を向けクルクルと回す。
「ちちんぷいぷいの、ぷい」
柔らかい光が夜凪の手元にふわりと灯った。慈悲王の治癒は、温かくて痛くない。
遮那王はゆで卵の殻をむきながらその様子を見ている。
「お前は心底理解できんな。さっさと死ね。」
「あはは、酷いですねぇ。満月ちゃん、こんな人が彼氏になったらモラハラ一択ですよ。」
遮那王は剥いていた卵を慈悲王の顔面目掛けて全力投球する。卵は慈悲王へと当たる。衝撃で後ろにひっくり返った慈悲王はすかさず体制を直し熱いスープを皿ごと遮那王へと投げる。
第2ラウンドが始まった。いや、始まらせない。夜凪は
すかさず異能を使い2人の体を口も動かせぬほどに制止する。夜凪の食事する手は止まらない。何分制止しただろうか。能力を解除すると、文句が来る前に言葉を発する。
「七角龍の回収命令が出た。私はもうすぐ出発する。慈悲と遮那は?」
王様二人は夜凪の分かりやすい逸らしに乗ってくれる。さすが大人だ。慈悲王は優しく、遮那王は顔を顰めたまま答える。
「満月ちゃんはまだまだ子供ですねぇ。私はSABが来たら蘇生して被災地巡りです。できるだけ多くを直さないといけないので。遮那さんは?」
「俺も同じだ。公安がきしだい移動する。中止地へ向かって第二波に備えて待機だ。…満月はここから七角龍の詳しい距離がわかるのか?」
「んー、わからない。近づけばわかると思うけど私の専門は探索じゃないからなんとも。異能探知なら慈悲の方が得意じゃない?」
「いいえ、私は半径5kmしかわかりません。満月ちゃんはまた異能が強くなったんですね。特付きでは上位に入ったのでは?どこかの脳筋とは大違いで大変素晴らしいです。」
「お前は脳味噌が腐ってるから倫理観が欠如して喧嘩を売ることしかできないのか?心底可哀想だな。」
「おや、自分の事だと思いました?自覚できるくらいの機能はあるんですね。私の腐った脳より使えない貴方はさぞかし脳に皺が少ないんですねぇ。だから他人の異能も上手く感知できないのでは?お可哀想に…」
夜凪は専属監視官達を異能力を使い2人の頭の上から落とす。専属監視官は監視のため常に特A級能力者の近くに基本はいるのだ。慈悲王は温情を受け止め、寛容が無様に転がる様子を見て笑っている。おやおや。ふふっ、大丈夫ですか?
遮那王は異能力を使い鞍馬の落下地点をズラす。鞍馬は綺麗に着地すると遮那王に一礼した。
カンシは丁寧に隣へ立たせてやる。
「専属監視官、二人が喧嘩してる。対処して。」
夜凪がは自分一人ではどう頑張っても喧嘩は避けられないとそうそうに専属監視官へ王様二人を返す。寛容を運んだのはついでだ。少しでも慈悲王の退屈を紛らわせる存在はいた方が良い。
夜凪はSABが来るまでカンシの傍でダラダラと時間を潰す。




