表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人権なし異能者  作者: 緋鯉
陸 慈悲、遮那
15/44

13

結界を張り終えてしばらく経った頃、夜凪は魔力の消耗によりじわりと指先から体の中心へと冷たさが広がっていく。夜凪は息を一度ゆっくり吐いた。魔力を回復するには食べて寝ることが1番だ。


「……お腹すいた」


情けない声が口からこぼれる。避難所の奥の簡易キッチンでは、ランク持ちを中心に動ける人達が臨時で食事所を設営している。

昼時のためか列が長い。


夜凪が足を向けると、ちょうど配膳台の奥でマツガタが忙しそうに走り回っているのが見えた。声をかけるのも悪いと思った夜凪はフードを深く被り長い列の最後方に並ぶ。周囲の人間がギョッとし凝視してくる。それに構わず夜凪は自分の番が来るまで大人しく並んだ。


「お願いします。」


避難民達と同じように食べ物を貰おうと手を出す夜凪。それにに気づくと配膳台にいたマツガタはびくっと肩を揺らし、目を見張った。


「──ま、満月様!? なんで並んでるんですか!?…あ、結界ありがとうございます!お疲れ様でした!」


「うん、いいよ別に。ご飯ちょうだい。」


再度手を出しだす夜凪。アオイは一瞬目を瞬かせ、


「あっ、ごはんですね!? はい! 用意します!…うわっ!」


マツガタは急に洗われた夜凪に思っていた以上に慌てていたのだろう。持っていたトレイを危うく落としそうになる。


「わっ、わわっ……っ、大丈夫、大丈夫です!!」


彼女は必死に持ち直し、どうにかトレイを台に置いて、胸を押さえて息をついた。


「すみません……。えっと、今日のメニューはなんちゃってポトフなんですけど……」


マツガタは手際よくパン、温かい具だくさんポトフ、野菜の少ないサラダをトレイに並べた。


「ほんと、味は期待できないんですけど…できるだけ美味しく作ったので。…ここが大型スーパーで助かりました。あ、満月様達にはおかわりがあるので足りなかったら言ってください!」


「ありがとう」


夜凪は受け取る。

スープの器から指先へと伝わる熱が魔力不足で冷えた体に心地よい。


マツガタは少しだけ迷ったように夜凪を見つめて言う。


「その……足の早い食材から使ったんですけど、これって窃盗とか賠償問題にならないですよね?有事の際なので大丈夫ですよね?」


夜凪はマツガタへ心底残念そうな、可哀想な視線を向け、同情したように言う。


「…マツガタ。お店の人に許可取ってないの?盗みは立派な犯罪だよ?」


「えーー!!!」


マツガタは叫び顔色を失う。


マツガタの絶叫は避難所の奥まで響き、列に並んでいた避難民たちも一斉に振り返る。


避難民たちがざわざわと騒がしくなる。また、何か起こるのかと緊張と恐怖が広がる。夜凪たちの会話を聞いていた者はマツガタに若干の同情が混ざった視線を向ける。列の数人が夜凪を凝視するが、本人はスープを多めに入れなおすのに最中で一切気にしない。


マツガタは青ざめながら手をバタバタさせた。


「あ、あの、あの!ほ、ほんとに盗んでないですから!!有事の際って合法になりませんでしたっけ?!!!」


夜凪は淡白に言う。


「……本当に残念だよ。大丈夫、捕まっても釈放させてあげるから。」


「うわーーんっ!前科持ちはいや〜!」


打てば響く太鼓のようなマツガタに夜凪は面白そうな顔をして誤解を解ために口を開く。マツガタの反応は大きく見ていて飽きない。


2人のやり取りを見ていた周囲は危険がないと知ると穏やかな雰囲気へと戻っていく。場の空気が緩む。そのタイミングで、ふわりと柔らかい声が響く。


「おつかれさまです。はい、役に立ちそうなもの色々持ってきましたよ」


ひょこ、と軽い足取りで慈悲王が姿を現す。

優しい近所のお兄さんみたいなテンションだが、避難民たちの反応は真逆で、ぴしりと緊張が走る。慈悲王は夜凪に向けて腕に抱えている袋を逆さまにする。


「有事の際ですし持ち主がいないので、これも合法です。」


袋はから出てきたのはお金、財布、時計、装飾品などの貴重品だ。夜凪は一拍置き、慈悲王に侮蔑の視線を向ける。


「……これは犯罪だよ。」


「夜凪さんの犯罪ラインは厳しいですねぇ。これはそこら辺に落ちてたり引っかかっていたものですよ。」


マツガタは嫌な想像でもしたのか顔を青くし絶句している。


そこにと重い足音が響く。遮那王の歩みに合わせて避難民たちはモーセの海如く割れていく。遮那王は周囲の空気感を怪訝に思うも慈悲王が笑っていることに何かを察したのか呆れた表情をして淡々と告げる。


「俺の感知範囲は全て排除した」


状況説明ついでに遮那王はマツガタへ顔を向ける。


「俺にも用意してくれ」


声が低い。圧がある。マツガタは即座に差し出した。反射速度が訓練された兵士並みだ。


「パンとスープとサラダだけですか。戦場の功労者に出すにしては随分と貧相な食事ですね。まあ、いいでしょう。遮那さん。僕のサラダあげます。かわりにその他のもの全て貰いますね。ビタミンは大事ですよ?」


「お前は蛮族か?早く山に帰れ。」


慈悲王は遮那王に出されたトレイをマツガタから受け取るとさっそく手当たり次第に喧嘩を売りからかい始める。

マツガタは困った顔で夜凪を見る。夜凪は無視し離れる。それについて行く王様2人。それぞれ自分の分の食事は持っているようだ。2人のトレイの上が騒がしい気がするが気にしない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ