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人権なし異能者  作者: 緋鯉
陸 慈悲、遮那
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8

「僕は治療に入るのでお2人は作戦会議でもしてきてください。」


慈悲王はそう言うと避難民の方へ歩いていった。その様子を見て遮那王と夜凪、それぞれの専属監視官は静かな所へ移動し情報を交換していく。


「遮那、ついてきて。」


夜凪はそう言うと先導して人混みから離れて歩いていく。後ろには遮那王と遮那の専属監視官。夜凪は前を向き歩きながら話をふる


「今回の早いし大きいよね」


「あ?…ああ。規模の話か。そうだな。鞍馬、さっきの説明を満月にもしてやれ。」


脈絡もなく言われた言葉に遮那王は一瞬考えるも夜凪の言いたいことをすぐに理解し、専属監視官である鞍馬へ説明を求める。鞍馬は説明を求められたことに嬉しく思い深く頷くと咳払いをし説明を始める。


「わかりました!…こほん!まず、共通認識ですが魔物、または禍種の氾濫。通称 魔乱は日本では本来約200年周期で発生します。理由は地脈の魔力飽和が基準だからです。ですが今回は、地脈の飽和が異常に早く進みました。前回からまだ130年しか経っていません。」


夜凪は眉を顰めカンシを振り向く。


「異常?聞いてない。」


今度はカンシが顔を顰める


「口頭でも書面でもメールでも伝えましたよ。書面の方は貴方が庭で焼き芋を焼くため、枯葉と共に焼かれて消え去りましたが。」


「おい」


夜凪は振り返っていた顔を正面に戻すと鞍馬早く話せと顎をしゃくる。遮那王が何か言っている気がするが聞こえない。歩くスピードが早くなっているのも気のせいだろう。


「えぇ?焼いたんですか?国家機密を…。んんッ!飽和の原因は様々です。近年は都市化が進んだせいか都市と禁域の魔力濃度差が広がっています。そのため地脈に流れるエネルギーが滞ったのかもしれない。それにより澱んだ魔力から魔物が生まれ、魔力で穢れた生き物が魔獣に変化し急速に増殖している。というのが最も有力な候補です。効率よく質の良いエネルギーを摂取するために人間を襲うのは変わらないですね。その他にも人為的か何らかの封印が解けたのかネームドが死んだのか鋭意調査中です。まあ、要するに、生活習慣悪くて血管ボロボロ。血液ドロドロ。血管破裂で大惨事って感じですかね。」


「日本って生活習慣悪かったんだ……」


目的地についた夜凪は陳列棚からおにぎりを取り開封すると食べながらそういった。ここは出入口が近いから物資回収班が避けていたのだろう。まだ残っていて良かった。回収されたかと思った。具はツナマヨである。

驚いた顔で遮那王と鞍馬が夜凪を見ている。2人の言いたいことは分かる。だが空腹なのだ。腹が減っては戦ができぬ。いつかの偉い人もそう言っていた。

夜凪は親切心からカンシ含め3人の手に異能の力でおにぎりを握らせていく。近くにあったペットボトルのお茶も引き寄せていつでも飲めるように近くに浮かせておく。


沈黙が続く。もぐもぐと食べる夜凪のまろい頬だけが動いている。遮那王と専属が黙っているため夜凪はカンシのおにぎりの袋を剥き口を開けおにぎりを突っ込む。もちろん異能でだ。そこでやっと遮那王が口を開く。


「…それは、今、必要なことなのか」


「必要。お昼ご飯食べてないし異能いっぱい使ったからお腹空いた。空腹だと集中力も切れるから食事は大事だよ。」


「そうか。」


呆れたように遮那王は息をつく。すると夜凪は思い出したように声を出す


「あ。」


「「「あ?」」」


3方向から怪訝な視線が突き刺さる。


「やっぱなんでもな─「言え。」


「お前はいつもそうだ。後出しばっかで重要なことは何も言わねぇ。今、ここで、言え。」


瞬間、夜凪に巨大な重力がかかり周囲の地面がヒビ割れ沈んでいく。夜凪に1番近いペットボトルのお茶もぺちゃんこで地面にめり込んでいる。慌てて夜凪から離れる監視官2名。脅すように圧が強くなっていく遮那王の能力を夜凪は涼しい顔で受け止めると真っ向からその重力に逆らい建物が傷つかないように上へと力を向ける。


「能力解除したら言うよ。この建物の中であんまり負荷かけないで。私、結界得意じゃないから。」


いつの間にか夜凪は回復していた魔力で建物の維持と魔物の侵入防止目的で結界を張っていた。魔術は苦手ではないが得意でもない。遮那王の僅かな能力にも耐えられるほどの耐久性はないのだ。


結界を大型ホームセンター全体に張れるだけでもその実力は魔術師として上位に位置するのだが異能が主な能力の2人は気づかない。鞍馬は関心し、カンシは青白い顔で座り込んでいる。遮那王は不機嫌そうな表情で能力を解除し宙に浮いているお茶を飲む。


「この前、誰か言ってなかったっけ?オホーツクで七角龍見たって。」


「だからなんだ。3ヶ月前の話だろ。それとなんの関係がある。」


遮那王の顔の皺が濃ゆくなっている。マッチ棒が挟めそうだ。


「え、原因それだよね?」


夜凪はうんうん、と納得したように頷く。夜凪にとっては己が思いつくことは己以外も既に思いついていることだと思っている。なぜなら夜凪よりも強くて頭が良くて経験があって情報を持っている人などごまんといるのだから。そう本気で思っている。だから夜凪は自分よりもできると思った人には無意識に言葉足らずになってしまう。そもそも言語化が苦手なのだ。


「もっと詳しく言え。」


それをいつも根気強く聞き出しているカンシに夜凪は感謝するべきだ。遮那王は頭が痛そうに眉間を押え夜凪へ詳細を問う。


「七角龍が負けてそれが、うーんと、いや、1部?あの、どこだっけ?愛知と三重県の間の海にあるじゃん。それがそこらへんにあるはず。たぶん、…だはず。」


「はあ!?!?!!!」

「聞いてない!!!!」


専属監視官たちは絶叫する。それを聞いた遮那王はどこかへと連絡をかけている。夜凪は遮那王の顔を見上げる。額には青筋が浮かび憤怒の表情だ。夜凪が見ていることに気づいたのかジロリと睨まれる。

電話が繋がったのか遮那王は夜凪へ電話を投げてよこす。電話はスピーカーになっているようだ。


「田貫官房長官に繋がってる。今言ったことを詳しく説明しろ」


「いぇす、さー。」


特A級能力者は有事の際にすぐに連絡できるように防衛大臣、官房長官二名の電話番号を控えている。もちろん悪戯に使おうものなら長い折檻や謹慎が待っているため基本はかけてはいけない番号である。


「初めまして。特A級能力者 遮那王、及び満月。この電話にかける意味はわかりますね。」


「はい。遮那王から電話を変わりました。満月です。今回の魔乱発生の原因は七角龍の遺物からの過剰な魔力供給による地脈の乱れだと思われます。」


「は?それはどういうい──」


夜凪は一言に言い切るとやり切った表情で遮那王へスマホを返す。遮那王は微妙な顔で夜凪を見て言葉を付け足す。


「すみません。補足します。私達は現在、名古屋にあるAlpha避難所で禍種の殲滅を行っています。その最中、満月が重大な情報を言いました。3ヶ月程前のオホーツク海で七角龍が何かと戦い敗北したこと。その一部が伊勢湾「違う、もっととっても海側。」…その七角龍の一部が日本近海の太平洋に流れ着いているかもしれないということです。七角龍の遺物が地脈に影響を与えている可能性は否定できません。」


「…分かりました。おって指示を出します。それまで、貴方達はそこで一体でも多くの禍種を殲滅しなさい。方法は問いません。」


田貫官房長官からの電話が切れる。この連絡により上層部はこれから更に慌ただしくなるだろう。ただの魔乱発生ではなく大型魔獣の遺物調査まで行うのだから。


カンシは両手で顔を覆っている。手の隙間から除く顔はやはり青白く時折鼻をすする音が聞こえる。


「絶対にクビだ。…ズビッ。クビどころか一族郎党縛り首だ。…俺だって初めて聞いたのに。散々異変はないか聞いたのに…ウゥ。ズズッ。報連相できない夜凪のせいでっ!人の心がわからないし報連相ができないし寝汚いし顔だけが取り柄の化け物のせいで家族諸共責任負わされて国に殺されるんだ…。」


カンシのあまりにも哀れな姿に鞍馬が背中をさすりハンカチを差しだす。


「ほら、これで鼻噛めよ。おっさん。」


そう言って差し出したのは遮那王のハンカチだった。それに気づかず鼻をかむカンシ。鞍馬は耐えきれず爆笑する。


「だっはははは!!!」


そのやり取りをBGMに遮那王と夜凪は会話を進めていく。


「遮那、でもね。七角龍っていってもたぶん近くにあるのは、んー…象?くらいだよ。それでこんなになるかな?」


「何が言いたい。」


「規模が大きすぎない?こういうもの?」


「お前は超大型のネームド持ちの死体を見たことあるか?」


夜凪はゆったりと首を傾ける。肩からしゃなりと黒髪が零れる。動作1つがいちいち婀娜っぽい。それを見た遮那王は頬にかかった黒髪を優しく耳にかける。夜凪は全く敵意の感じない遮那王の自然な動作に反応が遅れる。思い切り目を見開く。思わず顔の近くにある遮那王の手首を音がなるほど強く掴み身体を後ろへと仰け反らせる。


「…悪かったな。超大型の禍種の死体ってのは鯨の死体と同じだ。その地域に数十年かけて独自の生態系を築き、自然の一部となり消滅する。今回、お前の言うことが正しければ膨大な魔力を持つ七角龍の魔力が地脈に影響を与え魔乱が起こった。そう考えられる。」


夜凪に掴まれた手を振り払い遮那王は今回の原因を述べていく。


「ご、すみません。これが、数十年続くってこと、ですか?」


思わず敬語になる夜凪。それを気にしていないかのように遮那王は言葉を返す。


「さあな。それをどうするか考えるのが国だろ。俺たちは指示を待てばいい。」


一通り慰められたのだろう少しだけ元気になったカンシが夜凪に声をかける。


「満月様、七角龍の一部が近くにあるのは分かりました。では、本体はどこにあるんですか?何と戦って負けたんですか?」


「…さあ?海のどこかなのは間違いない。神を殺せるのは神だけだし何と戦ったかなんて私たちが考えてもしかたないよ。それより、ここのおにぎり、みんなに持って帰ろ。」


そう言うと夜凪は辺り1面の食料と飲料水を能力で浮かべ来た道を戻っていく。


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