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人権なし異能者  作者: 緋鯉
陸 慈悲、遮那
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教室の時計が午後12時30分を指す。夜凪は机に肘をつき、窓の外をぼんやりと眺めていた。風が緩やかに吹き彼女の長い睫毛を優しく撫でていく。


もうすぐ昼休みだ


そう思った瞬間、スマホが震え赤く光った警報画面が目に入った。


赤い光がスマホ画面を染め、非常ベルが街中で断続的に鳴り響く。

街頭スピーカーからは機械的な女性の声が、緊迫したトーンで繰り返される。


「緊急警報。繰り返す、緊急警報。全国特A級及びA級能力者に告ぐ。愛知県名古屋市で魔物の大規模氾濫発生。即時招集。被害拡大の恐れあり。市民は速やかに指定避難所へ避難せよ。繰り返す、市民は速やかに避難せよ。」


サイレンは断続的な高低音で鳴り続け、通行人の足が自然に速まる。

スマホの通知が震え、大学の掲示板にも赤字で警告がながれる。

室内のスピーカーからは危機を知らせる音声が繰り返し流れている。

「魔乱発生!魔乱発生!速やかに避難せよ。速やかに避難せよ。魔乱発生!魔乱┈┈」


周囲の学生たちが慌ててスマホやタブレット、パソコンなどの端末を開き情報を確認する。中には教室から走って出ていくものもいる。


夜凪も淡々とスマホの画面を見つめる。そこにはメールが届いていた。専属監視官と政府直属の組織SAS(特異能力作戦隊)からだ。


夜凪は今までの経験からわかっていた。この世のめんどくさいことは全て監視官に聞けば良いのだ。どうせ後者は小難しくて長ったらしい文章で何事か書いてあるに違いない。夜凪は迷わず監視官のメールを開く。


監視官からのメールは実に簡潔だった


━━━━━


今すぐ正門に来なさい


━━━━━


なるほど、実に簡潔で単純な連絡だ。私と電話をする時間も惜しいとみえる。


夜凪はすぐに監視官の意図を理解すると窓を開け広げ飛び降りた。後ろから誰かの悲鳴が聞こえる。夜凪が乱心して飛び降りたとでも思ったのだろうか。


混乱による悲鳴と怒号をBGMに急いで正門へと異能を使い飛んでいく。空を飛び正門に到着するまで時間にしておよそ30秒。大学の正門には既に夜凪専属監視官が到着していた。眼鏡をかけたインテリ野郎は誰かと電話しながら片手でパソコンを弄り随分と忙しそうだ。


夜凪に気づくとカンシは怒りの声をあげる。

「…ええ、今来ました。また折り返します、では。……遅いっ!何してたんですか?貴方ならあと20秒は早く来れたはずでしょう!」


カンシは車の後部座席を開けながら乗車を促してくる


「これでも急いできた。正門と私のいた場所、せいはんた┈「ええ、知っています。それを踏まえて貴方が本気を出せば10秒もかからなかったはず、と言っているのです。貴方のせいで何人死ぬんですかね?早く車乗りなさい。」


「…はい。」


再度カンシは低い声で夜凪に乗車を促す。夜凪は大人しく後部座席に乗り込む。夜凪が乗り込んだのを確認したカンシは運転席へ乗り夜凪をチラリとも見ずに爆走を始める。


走り始めると車からは独特のサイレン音が鳴り響く。この音は警察や救急車よりも優先される特A級異能力者が任務遂行時に現地まで向かう時のみに鳴らされる音だ。此の間、この車の道を譲らなかったり妨害行為をすれば必ず誰であろうと処罰を受ける。


カンシは車を爆走させながら言葉を紡ぐ。

「今から6キロ先の病院へ行きます。その屋上からヘリで魔乱発生の名古屋まで飛び避難所であるホームセンター上空で飛び降ります。指示はいつも通りインカムから伝えます。理解しましたか?したのなら私を見ずに装備を身につけなさい。」


「わかってる」


夜凪は端的に返事を返し隣に置かれている黒い鞄から装備品を身につけていく。夜凪はただカンシを見つめてボーっとしていたのではない。なんなら見ていない。カンシの荒い運転から体を守るようにシートベルトを締め、必死に座席にしがみついていたのだ。


カンシの言葉に従い、荒い運転にも負けず彼女は戦闘用装備を身にまとい、異能力の感覚を確かめながら準備を整えていく。衣服を着替え、手袋の感触、ブーツの締め付け、軽量防護服の柔軟性を確認する。サイドポーチや体の至る所に装備品を装着または納めていく。各種手榴弾、ノート、マルチツール、魔力回復薬、GPS付きドッグタグ、専用腕時計、小銃、ヘッドセットを装着する。そして夜凪が常に持ち歩いている刃渡り5cmのナイフを袖口に仕込みなおす。


カンシはそれを見て心底嫌そうに顔を顰める。


「そんなものは捨て置きなさい。貴方を死なせないのが私の役目です。」


夜凪はチラリとカンシを見るも気にせず装備の微調整を行い仕上げとしてフードを被る。ナイフは手放さないようだ。


「カンシはさ、私がもし負けたとして生きたまま魔物に遊ばれて食われてもいいの?人間ってのはしぶといから意外と長く生きるよ。そんな生き地獄私は嫌。…まあ、最期になるなら通信全部着るしカンシには見せないから気にしないで。」


夜凪はなんて事ないようにいうがカンシの眉間には深い皺が刻まれている。

カンシはストレスからかぴくりと瞼が痙攣しているのを自覚する。苛立ちによりさらに運転が荒くなる。


「うっわ!カンシ!今ぶつかった!一般車両にぶつかったよ!」


「黙りなさい。」

カンシは夜凪の発言を一刀両断する


この自己中女っ!私が死なせない為に微力を尽くしているのを知っていて良くもまあそんなことが言えるな!いっそ死ね!!


カンシのジェットコースターよりも優しくない運転に夜凪は耐えきり2人は無事病院へと到着する。青い顔の夜凪と赤い顔のカンシ対照的だ。


車に乗り僅か7分。どんな最低な運転を行えば渋滞しているのにこの短時間で6キロ先の病院まで到着できるのか。実はカンシは車の能力者だった…?


そう夜凪が考えているとカンシが冷ややかな目を向けてくる。


「馬鹿なことは考えるな。装備に不備がなければ私を連れてヘリポートまで飛びなさい。」


夜凪にカンシの氷柱のような視線が突き刺さる。


「…イエス、サー。」


夜凪は能力を使い己とカンシの体を宙に浮かばせヘリポートまで移動する。


上から見ると人の流れがよく分かる。カンシの運転技術はとても素晴らしかった。災害時避難病院へ指定されているこの病院に多くの人間が集まってきている。


夜凪はカンシの体に負担をかけないように丁寧にヘリポートへと飛んでいく。そして到着すると2人はヘリを運転してくれる特務異能対策本部(SAB)の職員へ挨拶をしヘリへと乗り込む。ヘリはすぐに離陸する。夜凪達のいる現在地から名古屋まではヘリで1時間ほどだ。


「私、ヘリ乗るの初めて。結構大きいんだね」


夜凪は呑気に口を開く。魔法技術を使い作られたインカムは騒音をしっかり防ぎ声がクリアに聞こえる代物だ。


インカム越しに聞こえる夜凪の声はゆったりとしていた。いつも通り気だるげな雰囲気を出しながら何事にも無関心そうな目で機内を見渡している。

呑気な夜凪とは対照的にカンシの横顔は相変わらず険しい。カンシは重たい口を開き低い声を震わせる。


「…夜凪」


「はい」


「これは命令です。貴方のナイフを寄越せとは言いません。ただ自殺は許可しません。生きて帰りなさい。貴方にはまだ利用価値がある。…これから名古屋だけでなく散発的に他都市部へも禍種が発生するでしょう。ですから、こんなところで死ぬことは許しません。わかりましたか?」


「はい」


戦場では絶対はないのだ。絶対彼女が生き残る保証はない。必ず死ぬ保証もない。

きちんと理解しているのかわからない夜凪の声を聞きながらカンシは夜凪の顔色を伺う。

特A級の体調管理も専属監視官の務めである。


カンシは思う。

夜凪の顔は相変わらず白く、感情が伺えない。この女には冷たい冬が良く似合うだろう。濡れ羽色の髪も、触らずとも冷たい印象を与える雪のように白い肌もゆったりとした動作も全てが彼女の美しさを際立たせている。何よりも目立つのはその瞳だ。長く濃い睫毛は常に気だるそうに伏せられ、睫毛の隙間から覗く黄金色の瞳はいっそ魅了の魔法が掛けられていると信じたいほどに美しい。光の加減により虹色に煌めく。まるで瞬きの度に星がチカチカととんでいるのかと錯覚するほどだ。

この美しさなら陽の下で彼女に助けられた者が彼女に狂う理由もよくわかるというものだ。見るだけで不安を和らげ安心感を与える。


そんな彼女の美しさに感心しながらもカンシは彼女を不気味がる。やはり特A級などという化け物は魔物か人間が1段階進化した種族なのか?そうでなければ特A級の化け物ども皆がみんな強く美しい理由がつかないだろう。


夜凪はカンシの視線にゆったりと微笑みを浮かべてチラリと犬歯を覗かせる。そして伏せていた瞼をあげ黄金の瞳でカンシの目を見据える。カンシは夜凪の目から星が零れていく錯覚を受けながらも彼女の瞳に釘付けになる。


「…そんなに私に見とれて、浮気かな?」


―ゾワッ!


カンシは全身に悪寒が走る。頬を引き攣らせながら顔を歪め目線を逸らせる。


「…ははっ、まさか。貴方に目移りするくらいなら今ここで飛び降りて死んだ方がマシです。それに、私には愛しい家族がいますので貴方に構う暇はありません。」


「そう、残念。」

夜凪は残念がる素振りをチラとも見せずそう嘯く。


「御冗談を、人に興味が無いくせに。話は戻りますが貴方が死ねばそれだけ人類と私の妻と子の生存確率は下がります。なので繰り返しますが死ぬことは許しません。これからも国に利用されて人間の為に生きていきなさい。」


「…了解。化け物らしく化け物どもを皆殺しにしてくるよ。劣等種のお前は劣等種らしく部屋の隅で無様に怯えて部屋の隅で蹲ってたら?でしゃばらないうちは私が助けてあげる。」


夜凪は極上の面で甘い声を出しその麗しい口から過激な言葉を吐く。温度差で操縦士が死にそうだ。

それを真正面から受けたカンシは額に青筋を浮かべ怒りの表情を浮かべる


「その汚い口調は辞めなさい。そして、心を読むな。」


「私に心を読む力はないよ。どう思ってるか全部顔に書いてあった。…先にツンデレったのも気持ち悪くて吐きそうって顔で見てきたのもカンシでしょ?」


「違います」


「そう」


軽口を叩きながらも夜凪達を乗せたヘリは禍種の氾濫が起こった目的地へと向かっていく。

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