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第8話 聖女でなくとも

「モモカ殿! お願いの儀がある」

「その回復薬(ポーション)を売っていただくことは、できないだろうか」

「は? へ?」

「オウカ、エイブラム!」


 空気は重苦しく、嫌な予感がした。元々、違和感があったのだ。その答えをエイブラム様が教えてくれた。


「実はこの拠点には、十数人ほど重症者がいる」


 はいい!?? 初耳なのだけれど!?


「90階層に拠点を作ったのも、その者たちの治療をするためだった。……どうか回復薬(ポーション)を売ってほしい」

「拙者からも頼む!」

「対価として俺に差し出せるものがあれば全てを捧げる」


 えええ!? ちょっ、情報量が途端の増えたんだけれど!?


「拙者も。代金の代わりに、モモカ殿に拙者の命全てを捧げる。……拙者はこの肌の色と東方出身ということで、この国では異質だった。危うく冤罪を掛けられそうになったのを、ここのいる騎士団が救ってくれたのだ。だから今度は、拙者が!」

「それを言うのなら、俺は一度騎士団を私物化して復讐に利用した」

「しかしあれは──」

「エイブラム、オウカ! よさないか」


 唐突に暴露大会が勃発。いや懺悔だろうか。そういうのは聖職者にお願いします──って、私、今聖女の肩書きだった。


「(全てを捧げるって忠誠が重すぎる)──って、十名ほど重症者がいるのは本当ですか!?」

「いかにも」

「そうだ」


 オウカさんとエイブラム様の言葉に、ブチン、と何かが切れた。いや暢気に話している場合じゃないだろう。拠点案内とかしている場合じゃなかっただろうに!


「売ったりはしません!」

「「「!?」」」


 私は勢いよく立ち上がって、ゲルの入り口に向かう。ハクは私の傍によりそう形でついてきてくれた。

 三人とも、私の唐突な態度に「怒らせてしまった」と思ったのか、不安そうな顔を見せる。いや私はイケオジ様たちの顔を曇らせるようなことはしないですよ。


「売るとか買うとか、今は人命救助が最優先です。早く現場を見せてください!」

「モモカ殿!」

「こちらだ」

「ランドルフ様は回復薬(ポーション)を作れる広めの場所をお願いします。エイブラム様は鍋と薬師に関わるものの用意を! あるだけで構いません」

「わかりました」

「ああ、すぐに用意する」


 ランドルフ様、エイブラム様は素早く行動に移す。なぜか目が潤んでいたような気がしたけれど、きっと気のせいだ。二人とも涙腺が弱いのだろう。うん。「重傷……だからベテランと新米組しかいなかったのか」と妙に納得してしまう自分がいた。



 ***

 


 オウカ様に連れられて、一番大きなゲルの中に入る。傍にはハクが付いて来てくれた。心強い。


「──っ」


 そこは修羅場だった。血と淀んだ匂いが鼻を刺激する。うめき声、唸る声、鳴き声……包帯は血が滲み、腕や足がない人たちも見受けられた。


 ふと95階層で採取していたネオ・ディルのことを思い出す。あれは確か鎮静剤になると鑑定には出ていた。

 だから薬草に詳しいジェラード様がメンバーに入っていたのね。


 薄暗いテント内では、川の字に横たわる騎士たちが薄い布の上に寝かされていて、鎮痛剤を飲ませたり、注射で打った形跡はない。と言うか体の一部が黒ずんでいる人もいる。阿鼻叫喚、地獄絵図。


「うぐっ……」


 ドラマや映画で見たことはあっても、現場でそういったものを見たことはなかった。凄惨な現場に、思わず吐きそうになったけれど、耐える。


 鑑定。

 今、ここに何個の回復薬(ポーション)が必要か。他にも毒消しとか、何でなら直るか……。

 集中して必要な回復薬(ポーション)の数を把握する。


 ただの回復薬(ポーション)で何処まで回復する? もっと他に治癒魔法的なスキルがあれば……。聖女とか神聖なカテゴリーに入るなら、なんでないのよ!?


『桃花』

「……っ、はく」


 ふと傍に引っ付いているハクを見る。ハクは神獣だ。私が薬を作るまで、彼らの痛みや傷を緩和できないか。都合が良いかもしれないが、これは時間との勝負となる。

 ハクを鑑定で見たら、所々文字化けかエラーが出ていたが、【清浄】と言う文字は辛うじて見えた。


「ハク」

『桃花の頼みでも、ここに居る全員の回復は無理だよ。精々、場の空気を清浄にして痛みを和らげるぐらいしか』

「すごい。じゃあ、それをお願い。その間に、私はできるだけたくさんの回復薬(ポーション)を作るわ!」

『……!』


 ハクの瞳が大きく見開いた。空色のキラキラした瞳で私を見返す。


『うん。桃花は神様に願う前に、自分でできることは全部やる子だった』


 なにを当たり前なことを言い出すのだろう。数年の付き合いになるのに、と笑みが漏れた。

 ハクとの付き合いはそれなりに長い。私が結婚してすぐに、怪我をして家の近くをうろついていたのを見つけたのが縁だった。あんなに小さくて弱々しかったのが懐かしい。


「そうですよ。私が好きな言葉は『因果応報』と、『人事を尽くして天命を待つ』ですからね」

『終わったら沢山撫でて、ハグと……口吸』

「モモカ殿、場所の確保ができました」

「わかったわ。それじゃあ、ハク。よろしく!」


 私はランドルフ様に呼ばれて、その場を後にする。「きゃううん」とハクが叫んでいたが、後でたくさん撫でてあげようと、頭の片隅に書き留めておく。


 用意して貰ったのは、簡易的な部屋(テント)だ。そして素材も用意して貰っている。幸いにも回復薬(ポーション)を作るために欲しい物は、ここに来る前の薬草をいくつか摘んでいたので問題ない。


 一番の問題は、私の技術……っ! とりあえず作ってみたとか出来ない!!


 大きめの厚底鍋を用意して貰って、アイテムストレージからフェール・リコリスを含めた素材を取り出す。元々回復薬(ポーション)は大量に作る予定だったので、それなりの量をとりあえず採取しておいた。もっとも生態系を崩すのは良くないので、良識的な範囲だけれど。


 こういう時、聖女なら治癒魔法とかでパパッと治してしまえば良いのだけれど、生憎私のスキルの中に、治癒魔法の記載は無い。たぶんこれは性格的に地道にコツコツ、確実に作り上げる──という気質が反映しているのだと思う。


「モモカ殿、私も何か手伝えないでしょうか?」


 ランドルフ様が声を掛けてくださったので、手伝って貰うことにした。六歳の体では時間も掛かってしまう以上、大人の手を借りるに尽きる。


「それならこの薬草を微塵切りにしてもらえますか? この体だと上手くできないみたいで……」

「──ハッ。つまり……そういう」

「?」

「委細承知しました」


 今、何か盛大な勘違いをされたような気がする。

 気になったがけれど、今は回復薬(ポーション)作りが先だ。

 錬金術は秘匿された知識と技術によって作り上げる化学に近い。レシピ通り、薬草を切って潰して、粉末状にしてなど工程を行い、鍋で煮込む。その際に、ポップ画面に幾つもの文字が浮かび上がる。全て日本語に訳されているので助かるが。


 せっかくだから味も美味しくなるように……。星花蜂蜜とキング・ショコラトルも……。

 途中から、甘くて美味しそうな香りがしてきた。こう食欲をそそるような味わいに、お腹がぐうぐう鳴る。思わず味見をしたくなったけれど、仕上げを終えて錬金術の術式で鍋を冷ます。


結ぶ(リガーレ)結ぶ(レガーレ)──抽出(エクストラヘレ)


 レシピ通りに唱えた刹那、円を描いた魔法陣に古代ルーン文字に似た文様が浮かび上がる。魔法っぽい展開に思わず「おお!」と声が漏れる。

 古代ルーン文字に似た文様に目を凝らすと【冷却】と【調合】と【抽出】と書かれているのが見えた。たぶん、最後の術式が大事なのだろう。

 改めて鑑定を行う。


 回復薬(ポーション微)とかでもいい、成功してッ……!

 そう願う私の予想を大きく裏切る結果となる。超特別(エクストラ)回復薬(・ポーション)と、ポップ画面に出てきた。


「えくすとら……」


 超特別(エクストラ)回復薬(・ポーション)

 スプーン一匙で大体の怪我とかは回復する。ただ四肢の欠損は直らない。その場合は伝説級(ネオ・)超特別(エクストラ)回復薬(・ポーション)となる。

 なお味は蜂蜜バニラ風味で美味しい。シロップに近いので、パンケーキと食べると効果が二倍になる。というかこれは──。


「…………めいぷるしろっぷじゃん」

楽しんでいただけたのなら幸いです。

下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡


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