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第5話 食事はみんなでするほうが断然美味しい

「くう」と鳴く声が甘えているようで、とっても愛らしい。


(何、その可愛い仕草!?)

『桃花のお皿のと、僕のお皿の一口交換する!』

(可愛いこと以外、なにもわからない……?)


 よく考えてみたけれど、たぶんハク的には私に食べさせて欲しいのだろう。甘えん坊なところは変わらない。いやむしろ以前よりも、甘えるようになった気がする。


「(元の世界にいた頃よりも仲良くなったってことよね)ハク、はい。あーん」

『はぐっ!』


 私が食べさせると、ご機嫌で食べ始める。自分で食べることもできるのに、今日はそういう気分なのだろう。そんなハクも可愛らしい。上機嫌なようで、尻尾も大いに揺れている。


「美味しい?」

『うん!』

「じゃあ、私も(……んんー。ぷりぷり感がたまわないわ。塩とハーブをミックスしたのも美味しいけれど、あー醤油とマヨネーズをちょっとつけて食べてみたかったな)」


 もぐもぐ食べている間、ランドルフ様たちは手をつけずに見守っている。そのことに違和感を覚えた。


「皆さんも温かいうちに食べてください。とっても美味しいですよ?」

「いえ、モモカ殿と同席など」


 ピーンときた。多分身分階級的な奴で、同席することが憚られるとかいうやつだ。しかしそんなことされたら気まずい。一番何もしてない人間が一番食べるなどダメだと思うのだ。


「私は気にしません。食事はみんなで一緒に食べると、もっと美味しくなるんですよ!」

「しかし」


 うだうだいうのでランドルフ様の口に、一口分のアングラザリガニの身を押し込んだ。


「私が良いと言ったから良いのです! 私はランドルフ様たちと一緒に食べたいのです! 依頼主(聖女)護衛者(騎士様)は立場があるかもですが、一緒に行動するのですから、できれば仲良くしたいのです!」

「──っ」


 ちょっと自分勝手かと思ったけれど、ランドルフ様は私の言葉に、目を丸くしていた。もぐもぐとしっかり噛み締めたのち「降参だ」という感じで微笑んだ。


「貴方様がそういうのなら」と、折れてくれた。イケオジの笑顔はインパクトがすごい。隣にいたハクは、ぶうぶうと不服そうだったけれど、もう一口食べさせたら大人しくなった。

 それからは騎士様たちと談笑しながら、食事タイムに突入。見張りで交代制だけれど。


「神々に感謝を──んん、旨っ!!」とジェラード様が歓喜の声をあげた。

「この階層のアングラザリガニは栄養価も高いし、味もいいな。酒が飲みたくなる」とエイブラム様も絶賛。さらっとハクの傍に居るのが微笑ましい。


「拠点を離れてからは、携帯食料ばかりだったから嬉しいッス!」とアルバート様が感動して泣いていた。今までの食生活はこんな風に、のんびり食べる暇も無かったのだろうか。


「ぷりぷりして噛めば噛むほど味が濃厚になる。塩を変えたら股味が変わるだろうか。それともたのスパイスを試してみるのも、うう……」と分析を始めたのフリック様だ。和気藹々と食べているのを見て、ランドルフ様は嬉しそうに味わって食べていた。


「伊勢海老が食べたくなってきた……。そういえばこの世界にも海の海老、……ザリガニはいますか? やっぱり生で食べるのが主流なのですか?」

「生? 焼く、煮る、茹でる、蒸す……でもなく?」

「はい」


 また変なことを言ったのかとキョトンとしていたら、エイブラム様はカッと目を見開いた。


「何を考えている!? 魔物に限らず、動物に魚などは毒持ちだ。それを生で食べようなどと、危険すぎる考えだ! 絶対にそのようなことはするな!」

「え、ええええ!? ()()()()()()()()()!?」


 思わず素っ頓狂な声を出してしまった。この世界での常識に驚愕し慄く。


「え……ってことは卵かけご飯とか、お刺身、お寿司……海鮮丼も食べられないってこと?」

「当たり前だ。子供でも知っているぞ。魔物や動物、魚……食材と呼べるものは皆毒を持っている。それを取り除くために、火を使って毒を炙り出すんだ」

「炙り出す?」


 いまいちピンとこない。私たちの世界の毒とはまた違うのだろうか。ふとランドルフ様と目が合った。


「ええ。毒は体内に存在する油のような液体で、加熱することで毒が排出されるのです。これは神話の時代、神々が世界を再構築する際、人に与えられた神の加護の一つ【神火(ヌーメン・フラマ)】です。その炎によって焼かれた生物は、毒を取り除き食べることができる、と」


 それって毒殺される危険が低いということ?

 だとしたらすごいことだわ!

 そして色々と合点がいった。ここに来るまで、あの女神様が唱えていた呪文の数々、それは全て海鮮丼、つまりナマモノだった。だからこの世界の神様は、海鮮丼のメニューを呪文のように呟いていたのね……。


 今やっと、あの言葉の意味を理解した。そういうことも事前に教えておいて欲しかったなぁ。うーん、本当に色々事情がありそう。90階層に拠点を作ったこと、少数精鋭で98階層まで突貫したこと。彼らの武装はもちろん、食生活、ランドルフ様たちの態度……。


 それらを鑑みて今後のことを考えつつ、ぷりぷりのアングラザリガニを美味しく頂くことにした。やっぱり誰かと一緒に食べるのは気持ちがよいし、お互いの空気が少し和らいだ気がする。食事って食べるだけじゃ無くて、人間関係の潤滑油にも一役買っていると思うのだ。


 写真をいくつかピックアップして、SNSに投稿する。アカウントは元々携帯端末にアプリが入っていて、アカウント名も『異世界グルメ観光便り』とある。

 投稿歴はなし。アイコンは可愛いハクにしてみた。うん、可愛い。

 まずは挨拶文。


『初めまして、この度異世界転移?で異世界グルメを案内することになりましたノラ聖女です。いきなり地下迷宮(ダンジョン)98階層に転移し、現在偶然に合わせたイケオジ聖騎士団長様に保護されれました!!(ちょっと神様後でお話が…)本来のグルメレポートの前に、地下迷宮(ダンジョン)内でのサバイバル料理を投稿していきますので、お楽しみください』


 とまあインパクトのある感じにしつつ、次に料理前のアングラザリガニの写真と蒸し焼きに後の姿を載せる。ノラ聖女ってのは、教会とは関係なく別行動している皮肉と、今度の教会との付き合いを考えて、あえてこの名前のしてみたのだ。


 この世界の最上級権力者である女神様から【聖女】認定を貰ったのだから、たとえ教会側が私を聖女と認めなくても構わないというスタンスをとると決めたからだ。それはランドルフ様たちの待遇を見て、あまり良い組織とは思えないからでもあった。

 さてSNSに投稿する次の文章は──。


『魔物:アングラザリガニ

 階層:95 捕縛難易度:☆4

 全長:65センチ

 基本地中で尾の先端に寄生させた香りの良い花で、獲物を誘き寄せる。対処方法はアングラザリガニの尾を引っこ抜いて素早く首をはねること。鋏で攻撃してくるので俊敏性か防御性があれば対応は可能かも??(素人目)

 ※この世界では生で食材を食べることは難しい模様※

 プリッとした食感、美味しい:☆4

 弾力のある食感:☆5

 生姜とハーブを入れて蒸したので泥臭さなし:☆5

 咀嚼するたびに旨みと甘みが増す:☆4

 伊勢海老よりは弾力あり、硬すぎない。

 食べるときに塩とブレンドしたハーブがとても美味しい。この世界はスパイスが豊富そう。願うことなら、醤油とマヨネーズも試して見たい』


 ブログには詳細を書く感じにするとして、ひとまず投稿。ハッシュタグに【異世界グルメ】、【サバイバル飯】などのワードも入れてみたけれど、最初だからさほど反応もないだろう。今後、地下迷宮(ダンジョン)を出て、異世界の食事を堪能してからが本番。そう思って携帯端末をアイテムストレージに格納した。


 その結果、通知がとんでもないことになっていると気づくのは、もう少し先だ。



 ***



 それから少しだけ休憩をして、そのまま90階層の拠点へと向かった。

 92階層では罠の森を抜ける際に、思わぬ縁があった以外は順調に進んだ。一度休憩したことと、魔物が出ないことでその日のうちに辿り着く。本来は一週間かかるほど攻略が難しいらしい。


 そう考えると、98階層まで少数精鋭で辿り着いたランドルフ様たちはすごいわ。

 彼ら黒狐(ブラック・フォックス)騎士団は教皇聖下から、この地の地下迷宮(ダンジョン)から魔物を地上に出さないことが、主の任務だという。


 地下迷宮(ダンジョン)ではダンジョンボスを倒さなければ、地下迷宮(ダンジョン)は消滅しない。もっとも地下迷宮(ダンジョン)から得られる魔法石や魔物の核としてある魔石は、魔導具を使う材料として一定ラインの需要がある。また魔物を倒すことで経験値を得られ、素材なども得られるとなれば手放したくないのが人という存在だ。

 けれどそんな大事なポジションに着いている割に、ランドルフ様たちの装備品や環境はあまり良くなさそうだ。その部分が引っかかっているので、そのあたりの事情も拠点で聞ければ嬉しい。


 そう少し暢気に考えていたのだ。彼ら騎士団の実態を目の当たりにするまでは──。


楽しんでいただけたのなら幸いです。

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