第4話 都合の良い魔法の言葉
沈黙。
自分が幼女であることを、すっかり失念していた。こんなしっかりする六歳児は確かにいないだろう。しかしこの世界のことが分からない以上、自分の素性を公にするのはまだ早い気がする。たぶん。
必殺魔法の言葉──。
「セイジョデスカラ」
「聖女だと、こんな風に大人びるものなのか。少なくとも聖都にいる聖女様はそれなりの年齢だが、聡明とは言えないらしいが」
「そうなのですね(聖都にも【聖女】がいるのか。私と同じ異世界人なのかな?)」
顎に手をあてて、私の後ろを歩く副団長。ジロリと睨んでくるので怖い。そしてちょっと疑っていますよね。視線が痛い。魔物ではないことは、確かです。
「エイブラム。いくらお前に怯えずに話せるからと言って、言い方には気をつけてください」
え? 私が怪しいと思っていた訳じゃない感じ? 雰囲気的に全然分からなかったけれど??
「うるさい。こんなふわふわかつ、脆弱で可愛いモンの扱いなんてわかるか!」
まあ!
隻眼の騎士様は耳まで真っ赤になって、なんというギャップ萌え。基本仏頂面なのに、こんな一面があるなんて、ちょっと好感度が上がったわ。
「モモカ殿。エイブラムはこんな顔をしていますが、可愛い物に目がないのです」
「こんな顔は余計だ」
「(可愛いもの好きは、否定しないのね)……ということは、ハクのこのモフモフで愛らしい感じも」
「できることなら、撫でて抱きつきたい」
「(食い気味で言い切った。本当に好きなのね)ハク、エイブラム様が触れてもいい?」
『んー、いいよ』
快諾してくれたので、暫く薬草や素材採取の間、エイブラム様とハクが見張りという名のモフモフタイムを堪能して貰うことに。
「おお!! 俺の眼力で逃げない……!」
『触れる感じはソフトで繊細』
微笑ましい構図だわ、うん。ハクの評価もなんだか斬新ね。私はそんな評価なのかしら。
…………最低評価じゃないはず。後でちょっと確認しておこう。
そして私は鑑定能力を駆使して、資金調達!
あーーー、写真撮りたいーーーーー!
こういう時、携帯端末があれば写真に収められたのに……ん? そういえば女神様から高機能搭載のノートパソコンと携帯端末を貰ったような?
今の私は手ぶらだ。この世界に来た時も手に何も持っていなかった。どこかに落とした──そう気付いた瞬間、体が硬直する。
「──っ」
仕事道具だったのに! ……ハッ、こういう時って異世界あるある的に、アイテムボックス的な空間にあるんじゃ? 鑑定ができるのなら私自身の鑑定、ステータスだって見られる??
試しに「ステータスオープン」と唱えて見たところ、見たことのあるゲームのポップ画面が現れた。もはや「開けゴマ」と同じくらい定番なワードだわ。
鈴原桃花:モモカ・スズハラ(6歳)
異世界人で聖女。
年齢6or27
加護及び能力
鑑定S/毒無効化A/精神干渉耐性S/魅了耐性A+/亜空間ポケット/神々の寵愛/全自動言語翻訳/錬金術/神獣ハクの加護と寵愛
神々の寵愛って、雑すぎません? それにしても錬金術って何かしら? すごく興味深いわ。それにほしい素材を集めれば、精製ができるのなら回復薬とか、万能薬とか作れちゃったりするのかしら? ゲームの定番だしお金になりそうだし、一気に騎士団たちの軍資金になるんじゃない?
亜空間ポケットの文字に触れてみると、ゲームのアイテムストレージのような画面に切り替わって、そこに私の採取した薬草とは別にノートパソコンと携帯端末と記載があった。どうやら仕事道具はなくしていなかったようで、ちょっと安心した。
***
『桃花、水分補給する!』
「え。あ! すごい!」
ハクは空中に、シャボン玉くらいの水を生み出した。ぷかぷか浮いてなんだか不思議だ。ファンタスティック!
思わずパシャパシャと写真を撮った。
「ハクはこんなこともできるのね! でもこれってどうやって飲んだらいいの?」
『淡藤レモン花の茎を使って飲むかんじ』
近くに生えていた【淡藤レモン花】と呼ばれる茎部分を切り落として、ふよふよと浮遊して手渡してくれた。
「これって風魔法?」
『うん。僕は神獣だからね。すっごく強くて、器用なの』
自慢するハクが可愛くて、尻尾を振っているのがまた良い。頭を撫でつつ『飲んでみて』と目をキラキラさせているので、緑色の茎をストローがわりにして、ふわふわ浮く水を口にする。
「んんーーー。ひんやりして美味しい。それに微かにレモンと蜂蜜のような味がするわ」
『その茎の内部は蜜がこびりついていて、この白い花も見せかけだよ』
「見せかけ? 模造品??」
どう見ても本物の花にしか見えないが。
『あの花は獲物を引き寄せるためのもので、本体のアングラザリガニは地中に隠れている。宝箱に擬態しているミミックの一種』
「み、ミミック……」
『あの白くて良い匂いのする花を見た時は、引っこ抜いたら危ない。逆に茎だけ切っても、本体は気付かないんだ』
「ふーん」
ミミック。
ゲームではお馴染み宝箱やアイテムに擬態して、襲いかかる魔物だ。遺跡の中なら宝箱があっても違和感は薄れるけれど、森の中だとまた違った擬態があるのだと、感心してしまう。
「おや、アングラザリガニですね」
「(見ただけで!?)……そう見たいです」
「少し小腹も空いてきましたし、アレを仕留めて精を付けましょうか」
「え」
つまり食べるってこと?
「アングラザリガニの殻は、よい薬にもなるのですよ。見つけることができて運が良いです」
「そうなのですね(なんだか最初は早く戻ろうという感があったけれど、魔物が出ないと分かったら素材をできる限りしている。……やっぱり何かと物入りなのかな?)」
そんなことを考えている間に、ランドルフ様は茎を鷲掴みにして赤黒い巨大ザリガニを吊り上げた。本来なら掴んで引っ張った際にアングラザリガニが、地中から突如ハサミを使って獲物を捕まえるらしい。
もっともランドルフ様はそのハサミが出る前に地中から引っ張り上げ、地面に叩きつけたところで首をスパッと切り落とした。
ムダのない動きだったわ。
アングラザリガニは、全長六十センチとなかなかの大きさだった。ザリガニというよりかはロブスターのほうが近い気がする。
そんなこんなで唐突に始まった、アウトドア飯。私も手伝おうとしたのだけれど、全力で止められてしまった。悲しい。6歳だからですよね。実年齢は大人なので、なんだか申し訳ないわ。
「今回は調理器具もないので、魔法を使って対応します」
魔法で料理!? どんな感じに調理するのか気になる!
「アングラザリガニは泥臭さがあるので、一度水魔法を使って泥を取り去り、炎、水、土魔法を多用して蒸し焼きに。この時に七海粉塩を星屑生姜、ローグネギと香りの強いハーブもいくつか入れて蒸すことで、アングラザリガニの旨味を引き出すのです」
思った以上に本格的だった!? もっとこう焼いて食べるイメージだった。
「土創成魔法、鍋を形作れ」
土魔法で大型の蒸し鍋を作って、フリック様は水魔法を使って鍋に水を入れる。その間にランドルフ様がアングラザリガニを水洗いしていた。
洗濯機に入れられたような泥を洗い流していく。ランドルフ様……万能すぎません?
エイブラム様はハクと仲良く見張り。あ、ちょっと仲良くなったのか、ちょっとモフモフしている。微笑ましいなぁ。
アルバート様は、お皿の代わりに笹に似た大きな葉の準備をして、ジェラード様は座れそうな丸太などを設置。素晴らしい動きだった。
いい匂いがしてきた。ごくり。
緻密な魔力操作を行い、赤黒かったアングラザリガニは真っ赤に染まった。そしてあっという間に殻を外して、食べやすいように切り分けられている。切り分け際、一瞬で見えなかったわ。
笹の葉の上に蒸し焼きにした白い身がプリッとしていて、匂いだけでも美味しそう。味付けは塩とシンプルだったけれど、これは素材の味だけでも美味しい気がする。
「(蒸すとよりロブスターっぽい。あ!)ランドルフ様」
「なんでしょう?」
ニコニコと答えてくれる。この人の笑顔好きだな。交換が持てるもの。
「神様たちに、この世界の食事を見せたいので、写真──映像を残してもよいですか?」
「「「「!??」」」」
気軽な感じで尋ねた瞬間、全員が固まった。そんなに驚くことだろうか。それとも神様と軽々しく言ったことで、変なやつだと思われただろうか。
聖女と宣言しているので、神様のことを言っても大丈夫と思ったのは、早計だったのかもしれない。
「……モモカ殿、そ、そ、それは神様に捧げる供物のようなものを、意味してしますでしょうか?」
「いえ、そんな仰々しい感じでないです。天上の神々は私たちの食生活(グルメ観光)に興味を持っていまして、この世界で色々な食事を伝えて欲しいと、各地の(グルメ)巡礼を頼まれているのです!!」
実際は「取材してこい」と送り出されたのだけれど、この世界ではこういう言い方のほうが伝わるはず。弁明してものの、全員の顔が真っ青なままだ。
「あの?」
「か、神様への料理がこのようなものでは、モモカ殿がお怒りを受けます! 今から地竜を狩って来ますので、お待ちください!!」
「よし。留守は任せろ」
「じゃあ俺たちは三人でワイバーンを狩ってくるッス!」
「…………狩り」
「アルバート氏、それよりも自分は薬草採取を──」
「お気遣いは結構ですから! 温かいうちに食べましょう!! ほら、食べますよ!」
そう言って討伐に行こうとするランドルフ様たちを全力で止めた。良い感じの角度で調理されたアングラザリガニを写真に収め、実食。
こんなに視線が痛い食事、初めてなのだけれど。ランドルフ様たちは心配そうに、私を見ている。いやもう何かあったら腹を切るような覚悟をしないで!!
ちなみに「そういう感じじゃ本当に全然違うからね!?」と何度説明してもダメだったので、食べることにしたのだ。
「んん……!! 弾力のある歯応えに甘みとぷりぷり感! 臭みもなくて塩加減がいい感じ美味しいです!」
『桃花』
ハクは何かを強請るように、目を潤ませている。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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