第20話 初・異世界グルメ料理②
すでに私の頭に中でゴングが鳴った。しかしここで激情に駆られて動くほど、安っぽい怒りではない。一気に天元突破した怒りが、数秒で絶対零度まで下がる。
これは怒りが消えたのではない。静かにけれど闘志を燃やすものだ。こちとら経済DVに、モラハラ気質で食事中に癇癪を起こすと、灰皿を投げる元夫と生活してきたのだ。
静かに耐えるのは慣れている。まあ、だからと言ってずっと我慢する気はない。機を見て、一気に畳み掛けるのが私のやり方だ。
にこりと笑った。
「そのお話は食後にしましょう。せっかく温かいまま頂けるのですから、美味しくいただきたいのです」
有無を言わさずに圧を掛ける。主にハクと織姫が。この子たちは私の機微にもの凄く敏感だから、私が一瞬でブチ切れた時に察知したのだろう。既に枢機卿二人を睨み威圧しているのだから。
「「…………」」
助け船を出すつもりはないし、そちらの土俵に立つ気はないもの。枢機卿たちの返事を待たずに、食事を再開する。熱いうちに食べたいもの。
「んんー! このスープ、アルバート様が言うように美味しいわ」
「でしょ!」
「ほんの少しセロリーの風味が味に深みを出している」
「ありがとうございます! このスープは昨日から仕込んでおりまして……! 食材も色々試行錯誤してできあがった私自慢のスープです。聖女様に喜んでもらえるとは嬉しい限りです!」
夢海老のボイル焼きは、以前食べたアングラザリガニとはまた違った味わいで、プリッとして弾力があるものの風味が違う。微かにお酒の香りがするし、香草焼きもバジル風味に近い。もしかして日本酒に近いものがこの世界にあるのかしら?
そう考えるとワクワクしていた。まあ、この姿じゃお酒飲めないんですけれど!
香草風フレンチポテトサラダは、一口ほどの食べやすい形に切って、オリーブオイルで揚げたものだ。香草風のこれはオレガノや胡椒塩などのスパイスをいくつも組み合わせて作ったのだろう。これはこれでまた違った風味がして美味しい。
これは癖になってしまいそう。
あー、これはシャンディガフとかエール、パナシェ、ハーフ・アンド・ハーフなんかもいいかも。あー、お酒が飲みたい……。六歳児じゃ毒だけど。
最後に魔獣牛モラクスのステーキはとても美味でした。口の中でお肉が蕩けて肉汁の旨味とジンジャーソース。醤油に近いもので感動しました。しましたとも。あーお米が食べたい。
そんな感じで、ハクと織姫と食べ合いっこしつつ和やかな雰囲気に戻った。ランドルフ様たちが料理の感想を口にし始めたことも大きい。特にバルトロメオは「このソース、秘伝? いくらか包んだら教えてくれたりする? 商売にしないわ。聖女様が気に入ったから……」という感じで、シェフと盛り上がっていた。
枢機卿と護衛聖騎士たちは空気扱いだったけれど、空気を悪くしたのはそちらなので知らん。
デザートは青天林檎のコンポートと聖牛獣のバニラアイス添え。これがもう美味しかったのだ。最高。飾り付けも良かったのだけれど、バニラが濃厚で美味しかった。
さっそくSNSに投下。
今回は話し合いがあるのでいつものような凝った文章ではなく、とりあえずサラッとメニューと感想を書いて、「これから会議頑張る(๑و•̀ω•́)و✧」という絵文字込みの文面を打ち込んだ。
この時、戦の神様方が「戦じゃ、戦じゃ」とか「狩りの時間か」と反応しバズった結果、私の新しい仕事が増えるのだが、この時はまったく気付いていなかった。というか私のせいなのか、これ?
***
食後に珈琲、私はホットミルクを出して貰って、話し合いが始まった。
聖騎士として残って貰ったのは、ランドルフ様、エドガルド様、オウカ様の三名だ。枢機卿側でも護衛聖騎士が二人ずつ。どちらも豪華で高級な素材を使った武具だが、性能なら私の作った聖騎士服だって負けていない。
それに個々の強さだってコッチの三人のほうが上だ。鑑定でレベル100オーバーなんだものこの三人。このぐらい普通なのかなって思っていたけれど、枢機卿たちの連れてきた聖騎士たちは精々55レベル。半分以下。
うちの聖騎士たちのほうが凄いんだから、と勝手にドヤる私。さて今度こそ本当に舌戦という戦いのゴングが鳴った。
かーん。
まず真っ先に動いたのはベルンハルト枢機卿だった。その場の空気を変えようと考えたのだろう。向こうが主張してきたことは以下のようなことだ。
「いいですか、聖女モモカ。【聖人】や【聖女】は教皇聖下と同等の尊き存在なのです。それ故、そんな方々から何かを得るには、対価として莫大な金貨を払う。それこそケルトイ人が作り上げた神樹教会の教義の一つなのです」
「だから?」
「「「「え?」」」」
その考えに真っ向から私は聞き返した。まさかの返しに二人の枢機卿と護衛聖騎士たちが固まる。想定外の反応だったのだろう。
「だから【聖女】としてではなく、私個人で何かを贈ることはダメ。何かを渡すのなら見返りを寄越せ。これは商売だと? それがこの世界の教会の言い分ということですか?」
六歳とは思えない口調に、ベルンハルト枢機卿とロベルト枢機卿は少しばかり戸惑っていた。
「それでその莫大な財産とやらは【聖女】や【聖人】の物になるのですか? 素材などを自分で集められなければ、材料費を抜いて何割本人分で、教会が手数料でいくら持っていくのかしら?」
「それは……」
「可笑しいわね。凄い物だというのに、その価値を分かっていてどうして制作者と仲介者の金額の割合がすぐに出ないのかしら? 規定にもないの? それって可笑しくない? どうして【聖女】というカテゴリーになった途端、教会に売り上げを全部奪われないといけないのかしら? それって搾取よね?」
「そんなことは……。働きに見合った金額を渡しています。その時、その時のケースがありますので」
ロベルト枢機卿は何とか答えているが、あまりにもツッコんで聞いてきたので、内心引いているのだろう。引かれたって構わないわ。
教会上層部が腐っているのは、ランドルフ様たちを見ていればわかる。
それでも私が関わる人たちの環境くらいは良いものに変えたい。そう思ったのだけれど、アレを見てしまったらそうもいかなくなった。
「教会が衣食住など世話になっているとかを差し引いても、まさかまるまる奪うようなら私の世界ではただ働き、労働基準法を無視しているってことになるもの。そもそも私は神様に直接雇用されているので、洗礼はその場で行えますし、別に教会本部に向かう必要も、用もないのですよ」
傍に立っていた護衛聖騎士の表情が強張ったのが分かった。この程度で動揺されてもなぁ。結構この国の状況が良くない気がするのよね。だって枢機卿ですら精霊と意思疎通できてないみたいだし、視認すらできてない。
この状況が少なくても長い間続いている。だからこそいつ決壊が起きても可笑しくないのだ。歪んでしまった教会のあり方。それをどこかで壊して正さなければならない。というかアレ──いえ精霊たちが期待した目で見ているので、正直断れない。断ったらなんか後味も悪いし。
でも!
私が率先して教会をどうこうするのは正直めんどい──げふん、荷が重いのでそういうのが得意な人たちに丸投げしてしまおう作戦!
それじゃあ、やれるだけやってみましょう。
「……お二人の傍に居る精霊はもう限界が近いです。そして教会は今後も精霊の声を聞かないのであれば、いずれ崩壊と大いなる災いが訪れるでしょう。その前に──お二人で双星教皇として君臨する気はありますか?」
「な!?」
「なっ!?」
さあ、どう返事をする?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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