第2話 転移先はイケオジ騎士団とダンジョン深層・前編
終わった……。
異世界グルメ旅行ブログ配信。面白そうな企画と、確かに最初はそう思ったのだけれど、説明を端折られた感しかない。
なぜなら私が異世界に転移した先は、ダンジョン深層だからである。え、なんで深層なのかがわかるか、だって? フッ、私の目に【地下迷宮98階】ってポップアップがゲームのように表示されているからです!!
まさかこれが案内人!? いや人じゃないんかい!?
普通なら神殿とか、王城とかあるだろうけれど、まさかのダンジョン深層。しかもボス部屋一つ前の宝箱が出口とかどうしてピンポイントで、そこを選んだ!?
不幸中の幸いだったのは、冒険者? いやポップアップ表記的には【騎士団】とある。この人たちが、恐竜みたいな魔物を討伐した後で本当に、本当によかった。
「深層に……子ども!?」
あーーー、ですよね。私もどうして幼女化したのか、どこぞの神様に一時間ぐらい問いただしたいです。
なぜ子供かわかるかと言うと、ここにきて一瞬だけど自分のステータスが表示されたから。
「モモカ・スズハラ(6歳)」と。他にも何か書かれていたけれど、一瞬だったので名前と年齢だけしか見えなかった。そして実際に自分の体が縮んだ、いや幼児化したのがわかる。
この状況で仕事しろっていうこと?? この国の労働基準法は機能しているの? それともこれバグ時な?? 急に異世界転移とかするから??
色々頭が痛くなったがそうも言っていられない。ふと視線を感じて、顔を上げると冒険者風いや騎士団の一人と目があった。
とりあえずにこやかの笑ってみたが──。
「!?」
私を見るなり、騎士団の方々はギョッとしていた。いや分かるよ、こんな危険地帯に私のような女性、というか幼女がポツンといたら、罠かって思うよね。
でも残念、本当にただの異世界転移させられた実は中身がアラサー間近の見た目だけ幼女です。
いやそもそも言葉とか通じる?
「こんな幼い子供がどうして、地下迷宮の深層にいる? まさか魔物が変化しているのか?」
日本語だーーー! そして魔物扱いされた!!
「んんん~~~、でも見た感じ魔物って感じはしないッスけど?」
「いやいやアルバート氏、ここは戦うしかないのでは?」
「……敵なら、殺すのみ」
怖っ!
若そうな青年の二人は、やる気満々だ。
いや分かるよ。宝箱の傍に突然少女と白狐がいたら、誰だって罠かって思うとも。いやまず私の体が六歳に戻っているのも、色々ツッコミたいのだけれど。この姿で何、仕事させようとしているのよ。労働法基準法を舐めているのかしら!
女神様への苦情は後にして、現状私は敵ではないことを伝えないと。
「ガルルルッ!」
「──ハッ、ハク!?」
白銀の狐は私よりも何倍も大きくなって、眼前の騎士たちを睨みつける。威嚇する父狐みたいで、とっても頼りになる。
「ハクがとっても頼もしいわ! 一人じゃなくてハクがいてくれてよかったぁああ」
「きゅう!」
威嚇していたのに、急にデレデレになってかわいいわ。うちの子可愛い。世界一可愛いに違いない。とりあえずモフモフして落ち着くことにした。
「──っ」
「待て、エイブラム」
「だが」
場の雰囲気を変えたのは、リーダー格っぽい風格を持った騎士様だ。
「団長、もし罠だったら……っ」
「お前たち剣も納めなさい。隣にいる神獣を見るに、罠はないでしょう。魔物であればなおのこと、神の加護を纏うことなど不可能なのですから」
ハクが……神獣?? 可愛いのは認めるが。
「……確かに今まで感じたことのない強いオーラだ」
「魔物にあんな神々しいオーラは出せない。なにより今まで魔物に囲まれていたのに、彼女らが現れた途端、魔物の襲撃が途切れた」
「そうッスね!」
「結論は、団長?」
風向きが変わったかも?
リーダー格の騎士が自信満々に、口を開いた。そう私は異世界人であって──。
「神獣と共に現れたのなら、間違いなく聖女様でしょう!!」
はいぃいいい!? どうしてそうなるの!?
「聖女様!?」
「聖女様ッスか! 奇跡みたいッス」
「そうですな! アルバード氏!」
「……敵、違う?」
「聖女それならば、納得だ!」
「時折、神々の使者として異世界の者が召喚されると、聞いたことがあります。特徴的だったのは、その国でふさわしい者たちの前に現れるという伝承ですね」
予想の斜め上の展開キターーー!? しかも聖女であっさり納得しちゃっている。……どうしよう。聖女じゃないのに……。
騎士団の方々は勝手に盛り上がってしまって、訂正する機会が失ってしまった。ふと自分の服装を改めて見ると、白い修道服に見えなくはない。とりあえずこの体に合わせた服装なのは、助かるけれど。
聖女ねぇ……。この世界にグルメ旅行の取材で来たのだけれど、肩書き的に【聖女】って名乗っていいのかしら? 偽ったとかで、処刑されたりしない?
『桃花は間違いなく聖女だよ。神様からの使者を、この世界では【聖女】とか【聖人】って言うんだって』
「ふーん(正直聖女という大それた肩書きはいらないのだけれど……。いやいや、異世界で立場がないと危ないかも)……そうなのね」
『うん。桃花、褒める? 僕物知りでしょう? えらい、えらいして?』
「……………」
白銀のモフモフで大きくなったハクは尻尾をブンブンと振って、説明してくれた。そう説明をしてくれたのだ。
「──ってハク、あなた喋れるようになったの!?」
『んー? あ、うん。そうだよ!』
「まあ! それは心強いわ」
とぼけた顔をするハクも可愛いので、首に抱きついてみた。モフモフでふわふわだった、最高。できることなら現実逃避してしまいたい。そもそもどうして私の姿が6歳なのか、ハクが喋れるようになったのかなど、考えることを挙げれば切りが無いのでとりあえず後回しだ。
現状を受け止め、私とハクは騎士団風の人たちと向き直る。私たちのやりとりを待っていてくれたなんて、優しすぎません。
あ、これ違う。私が話し始めるのを待っているんだわ。
「コホン、私は鈴原桃香と申します。女神に頼み事をされまして、この世界に訪れました。大変申し訳ありませんが、自立する少しの間で構いませんので、私を保護していただけないでしょうか」
「「「「「ハッ!!」」」」」
ひゃう!?
今後の足場を作るために提案をして見たのだが、全員がその場で片膝を突いて片手の剣を地面に刺し、もう片方の手を騎士っぽく胸に当てて、頭を下げた。
ビリビリと空気が震えている。
最年長は団長と呼ばれていたシルバー髪の壮年の騎士のようだ。見るからに三十後半か四十代で体格がよく、お人好しな顔をしている。そして歳を重ねたからこそ醸し出す大人の雰囲気、いわゆるイケオジの部類に入るだろう。
え、かっこよすぎる。目鼻立ちも良いし、上流階級っぽい雰囲気もあるわ。
「我ら最底辺の黒狐騎士団に、そのような大役を選んで頂き望外の喜び! 謹んでお受けいたします!」
バリトンボイスはそこまで大きくないのに、よく響いていた。
きゃーーー! 本物の騎士の忠誠だわ!
色々不穏当なワードが聞こえたけれど、快く迎えてくれた彼らのためにも、お世話になるのだから聖女として、それなりに役に立たつところを見せておかないとダメね。
そう私は心に誓ったのだが、彼らの忠誠を甘く見ていたことを知るのは、もう少し後だった。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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