第19話 初・異世界グルメ料理①
55階層の特殊空間に入ると、森の調停者が統治する森街が広がっていた。なんともファンタスティックな光景で、個人的に観光地としては中々な物件だと満足。もっとも地下迷宮内なので、観光地なのかと言われたらちょっと悩むところだ。
まあ、神様たちは好奇心旺盛だし、頑張れば地下迷宮だっていけるはず。たぶん。
さて。堅物眼鏡黒髪のベルンハルト枢機卿と、金髪王子様風ロベルト枢機卿はどんなおもてなしをしてくれるのか。私だけ豪華ホテルで白銀狐聖騎士団をボロ宿を手配していたら、話を聞かずに新しいホテルを手配するようにしよう。
今までの黒狐聖騎士団に対する態度を考えて、私なりに警戒していたのだが、辿り着いたのは超高級ホテルの貸し切り。しかも聖騎士団も同じホテルだ。
あれ。
思ったよりも、ちゃんともてなしてくれている?
心得ている、と言っていたしちゃんと神様の意図も含めて伝わっている?
気張っていたのだが、拍子抜けしてしまった。
ホールも広く、白を基調とした綺麗な内装で、天井も三階まで吹き抜けになっている。私の部屋は最上会でその両脇が枢機卿、向かいがランドルフ様を含めた聖騎士様たちと最上階フロアを貸し切りにしたらしい。
想定外。
思った以上に抗議文が効いたのかも?
『僕も頑張った』
「まあ、ハクも頑張ってくれたの? 偉い偉い」
『うん。いっぱい撫でるの』
ハクの希望通りわしゃわしゃと撫でまくった。部屋の中も最高級ホテル並で、元の世界の5つ星ホテルにも負けを取らない高級感溢れる部屋だった。これはちょっと嬉しい!
一流の調度品にソファ、ベッド、お風呂トイレ完備。
このあたりの技術の領域は、異世界から得た物だろうか。おもてなしの心がよく分かっているし、サービスも近代的に近い。このホテルだけなのか、あるいは王都ではこれが普通なのか。ちょっと気になる。
まあ、衛生面は本当に大事だから有り難いなぁ。それにこの技術と同じくらい料理文化も盛んになっていたら、きっと様々な地域特産の料理も期待できる!
バルトロメオ様の料理も美味しかったけれど、ホテルの料理や各地方の郷土料理も楽しみだし、わくわくしてきた。
枢機卿なら地下迷宮から出た国の地図と都市の特産物とかそういった情報が手に入るかも。
そのあたりも白銀狐聖騎士団に残る面々と相談できると良いな。
***
部屋を案内された後で、ホテル内のレストランを貸し切っての会食となった。
レストランの料理って何だろう?
フランス料理の一つ至高料理とかで、フルコースだったりするのかな? それともアラカルト? さすがにビュッフェ形式とかじゃないわよね? 想像するだけでお腹が鳴りそうだ。
「ふふっ、楽しみ」
『桃花が喜んでる。嬉しい』
ハクはモフモフしながら甘えてくる。今は子狐サイズで私の腕の中だ。可愛い。肩に乗っている織姫も頬ずりしてくるので、こっちも可愛い。至福。
「ここまで我々の待遇が変わるとは……」
「拙者も未だ夢見心地だ」
ランドルフ様たちはツイン部屋らしいが、室内はかなりグレードが高かったらしい。二人は着替えず聖騎士の格好のままだ。
その表情はどこかホッとしていた。戸惑っている聖騎士たちも多いけれど、今までの扱いもあったから受け入れるのに時間があかかっている部分はあるのかも。
私の元に残るか、新しい人生を始めるか。
どちらであっても、この経験によって少しでも前向きに「自分なんか」とならないで、胸を張って生きてほしい。それぐらいランドルフ様やエイブラム様、オウカ様、バルトロメオ様たちにはお世話になったのだから。
この四人は残ってくれたら嬉しいな、という面々だ。これは私の個人的かつ希望的観測なのだけれど。
レストランで何故かお誕生日席に座らされての食事会がスタートした。
コース料理だけれど、前菜からメインデッシュまで一度に運んでくる。
「本日の料理はシャキシャキキャベツ、春鴨とチーズ、春歌カブの一口のお楽しみ盛り合わせに、黄金の夢海老のボイル焼きとアスパラのクリーム添え、春色オニオンのコンソメスープ、春じゃがいもを使用した香草風フレンチポテトサラダ、魔獣牛モラクスのステーキとジンジャーソース添えとなります」
うぁああ。思った以上に本格的だわ。しかも飾り付けも美味しそう。良い匂いだし! ナイフとフォークは並べられているが一セットのみだ。このあたりは元の世界とは違うのかも。そもそも文化が違うのかも。
仕事をしなければと、許可を貰い写真を何枚か撮った。うん、この世界で初レストランでの食事! と軽く投稿しておいた。通知は怖いのでオフにしている。
手を合わせて「いただきます」と口にしてから、聖騎士団たちも一斉に食べ始めた。ちなみにハクと織姫は私が「はい、あーん」で食べさせる形をとっている。ハクも織姫も自分で食べられるのだが、私から食べさせて貰うのが好きらしい。
甘えん坊なのだから、と思いつつ世話を焼いてしまう。可愛いし、急かさずに座ってお利口さんだからでもある。
白銀狐聖騎士団の面々は、私と同じタイミングで談笑しながら食事をする。煩い感じではなく軽く話をする程度だ。
「このスープめちゃくちゃ美味しいッスよ、モモカ殿」
「え、本当!?」
「モモカ殿、この夢海老のボイル焼き、香辛料が独特で美味いぞ」
「オウカ様、食べるの早くないですか!?」
「何があるか分からないからな」
「あはは」
バルトロメオ様は「この味を再現するには……」と料理のレシピを考えて自分の世界に。ランドルフ様は「美味しいですね」と終始和やかだ。
私もハクと織姫の食べさせた後、いざ実食。まずはシャキシャキキャベツを軽く茹でローストハムに包んだものを口に運んだ。
んん!!
シャキシャキキャベツが茹でたことにより甘みと柔らかさがちょうど良くて、ローストハムの塩気と旨みが調和し合って控えめにいって美味しい。これはちょこっと黒胡椒を入れたことでアクセントがある。
春鴨のパストラミの香辛料は独特だけれど、美味しい。いくつものスパイスを混ぜ合わせたからこそここまで深みのある味わいを出すのだろう。美味しい。
「この世界は、スパイスのこだわりは凄いのですね。黒胡椒からさまざまな香辛料を使っていて……」
「香辛料にまで造詣が深いとは……!」
シェフはすでに号泣していた。なんでもここのシェフや本店から追いやられたとかで、それでもここで頑張って良かったと、わんわん泣いていた。
……地下迷宮に追いやるやり方って……最近聞いたばかりだなぁ。
ちょっと不便だったので、美味しい料理を作ってくれた礼に加護付きのハンカチを渡してあげた。泣いていたしね。
「差し上げましょう」
「し、しししししかし!」
「これは今まで貴方が折れず頑張ってきた成果なのでしょう。その報酬が巡り巡って届いただけのことです」
おおお!!
拍手喝采と歓喜の声が上がったが、大袈裟すぎるような?
いつものことなので見慣れているが、枢機卿のお二人はなんか固まっていた。
「本物の【聖女】とはかくも甲斐甲斐しいものなのか」
「騎士と同じ物でも文句を言わない。しかも同僚のような関係性? これが本物……」
何故だろうもの凄く衝撃を受けている。この世界にいる【聖女】ってどんな風なのだろう。ランドルフ様たちと会った時も似たような驚きを見たけれど、枢機卿たちはそれ以上のような?
まさか能力はあるけれど人格破綻者!?
聞くべきなのか、それとも──。
「モモカ様。そのような軽率な行動は、今後控えるべきかと具申します」
空気を読まずにぶち込んできたのは、黒髪メガネのいかにも堅物そうな青年だった。
確か名前は──。
「お食事中ではありますが、モモカ様。改めましてベルンハルト・アッヘンバッハ枢機卿と申します。このように誰も彼も施しを行うようなことでは、教会の教義に反します。……55階層まで来れば地下迷宮外への転移魔法が使えますので、それで一度外に出たのち、早々に王都に来ていただき、この世界の常識を学んでいただきたいものです」
ほう。
「ベルンハルト……。聖女モモカ、ロベルト・カレンベルクです。ベルンハルト枢機卿と同じ地位におります。その……本部に来て頂きたいのは、神々にモモカ様が無事に到着された旨をお伝えするために、どうしても必要なことなのですよ」
神様にお伝えする?
え、毎日のようにその神様方からコメントを貰っているのですが……。
というか、聞き逃せないことを言ってきたわね。
私の頭の中でゴングが鳴った気がした。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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