第18話 神獣様は激オコでした ※神獣ハクの視点※
これは桃花たちが、90階層に居た頃に遡る。
教会本部の上層部会議。
枢機卿及び教皇猊下を含めた円卓会議は、朝から議論が続いていた。神託のあった聖女の扱い──要は、誰が後ろ盾になるか。政治的にどのように利用するか、囲うかなど権力者たちの都合による話し合い、駆け引きが行われていた。
聖女の数が多いことで他国と比べて豊かになる。そうすれば輸入や輸出などの交渉ごとも大きく変えることができるからだ。
八百年前、世界が混沌と戦争を繰り返していた時代にうんざりした神々は、神樹を各国に与え、七つの国に別けて国家間での争いを禁じた。それと同時に、神樹の傍は緑が溢れて食料や動物が増え、逆に神樹の離れた場所には魔物、地下迷宮が生じるようになった。
人同士の争いの代わりに、人は魔物という脅威の前に一致団結した。そこから神々の意思を汲み取る存在として、ケルトイ人が神樹教会を作り出して幾星霜。今では王族よりも力を持つ組織となりつつある。
もっとも各国によって教会のあり方は異なっている。
桃花が召喚されたマールスリズ王国もまた、正式名称、神樹教会を作り上げて国の発展に貢献してきた。
そしてその大半は精霊や妖精、神々の声を聞く者から選ばれるが、それ以上に貴族や上級階級でなければ、枢機卿の地位まで上り詰めることができない制度ができあがっていた。また神々から遣わされた聖女や聖人は特別な力を持ち、国を豊かにする存在という認識が浸透していた。だからこそ、手厚く保護して囲うという考えは、長年の間で共通認識になりつつあったのだろう。
もっとも今回は神託の内容が内容なので、慎重ではあった。だがそれは上流階級の不遜で傲慢な解釈でもあったが、聞くに堪えない──と思ったのだった。
「報告では今回の聖女は幼子だとか」
「であれば私の養子に」
「政治的に利用しやすい」
「神獣もいるとはなんとも素晴らしい。住む場所は、やはり聖都周辺の屋敷を用意すればよいのではないか」
「しかし『各地を巡り』とあるが?」
「解釈によるのでは? 聖都を中心にいくつかの街を見せて差し上げれば満足するのでは?」
「魔物のいる地域に送り出せば、民衆は聖女様の偉大さを知り、より寄付金が増えるのでは?」
「そのためにも聖騎士団の派遣は必須だろう」
「しかし聖女様が野宿など許すだろうか」
「聖都におられる聖女様は贅沢思考ゆえ、想像できないが報告では地下迷宮でも楽しんで生活しておられるとか」
「それならば王侯貴族の生活を堪能させれば、巡礼など辞めるのではないだろうか」
「聖女と王族あるいは上流階級の貴族との婚姻は絶対だ」
なんとも自分勝手かつ都合の良いことばかりだ。まだまともなのは──。
「皆様方の意見は、自分たちの益になることばかりではないですか。それよりもまずは聖女様の使命に寄り添うべきでは? この国の地図と街の数、そして巡礼の順番など決まっているかどうかによって、各地に連絡をとり出迎えをすることが急務かと具申いたします」
「そうですね。聖女様が各地を巡って、この国をより豊かにする手伝いをしていただけるのであれば、各地の領主たちに連絡を入れて、もてなしなど相談するほうが先ではないでしょうか?」
枢機卿の中でも若い部類に入る青年二人。
漆黒の髪に、緋色の瞳を隠すような眼鏡をかけているベルンハルト・アッヘンバッハ枢機卿。ふわりとした金髪に青い瞳、王家の特徴を受け継いだ第三王子、ロベルト・カレンベルク枢機卿。
黙っている重鎮たち。ああ、コイツは僕がここに居ることに気付いて、口を噤んでいるのだろう。利口かつ老獪だが、分別は弁えているようだ。
これ以上聞いていても有意義とは思えなかったので、教会本部の頭上にある鐘を鳴らした後、七つのうち一つ壊した。
ごおぉん。
円卓会議にある天上のシャンデリアが大きく揺らいだ。聖騎士たちが身構えたが、僕は気にせずに円卓の上に舞い降りた。
白銀の狐の姿でも良かったけれど、せっかくだと人の姿になってみた。本当は桃花に一番に見せたかったけれど、今回はしょうがない。
「神託の意味が全く分かっていないようだな」
真っ白く長い髪に、この世界の聖職衣に似た衣服。黄金の刺繍をふんだんに使ったものにして見た。あの二人の青年に近しい見た目で椅子に座る者たちを見回す。
「この世界の神々が伝えたかった内容は『聖女モモカ・スズハラが召喚された。その子は神々の愛し子だから、力になるように。もし万が一にも酷いことをしたら許しはしない』と。それをどう解釈すれば、お前たちが飼い慣らす話になる? 滅びたいのか?」
少し圧を掛けたら数人はその場に倒れた。
聖騎士はさすがに耐えたようだが、ランドルフたちに比べれば弱い。少し個人的に圧を掛けたら膝を突いて倒れてしまった。
威勢が良かった割に弱すぎ。
「主の遣いよ、愚かな者どもの非礼をお詫びします」
そう言ってきたのは、ずっと黙っていた高齢な枢機卿たちだ。彼らの瞳には精霊や妖精を見る目を持ち、信仰心も厚い。心から神々やこの国を思っている者なのだろう。
「構わない。どうせ脅したところで愚かな人間は破滅するまで繰り返す。だからそういう連中には、神々の加護を消し去った。魔法も、付与された加護も、恩恵も全てだ。あの子に悪意を持って近づく者は、倍以上の悪意と殺意によって非業の死を遂げる」
そう告げた瞬間、円卓会議の傍に控えていた大司教と神父の数人が、その場に崩れ落ちた。皆喉に手を当ててもがき苦しみ──もがく。
「な、なぜ……っ。我々だけ……実行部隊は……っ」
「ああ、桃花に毒を盛ろうとした依頼主はお前たちか。実行部隊もちゃんと始末する。順番が少し早いか遅いかの違いだ」
そう告げると彼らは助けを求めてきたが、助ける気はない。僕の大切で大事な桃花を害しようとしたのだから、報いは受けてもらう。
見せしめであり、公開処刑でもある。桃花が最初の一発目が肝心だとも言っていたように、強気の構えを見せておくのは大事だ。
「桃花はずっと苦労して、大変な目に遭ってきた。だからこそこの世界ではたくさん楽しいこと、嬉しいことをさせると僕も神々も望んでいる」
自分が大変で過酷な環境にいながらも、誰かを思いやれるお人好し。そして僕を救ってくれた恩人であり、大事な、大事な家族だ。
元の世界に居ても桃花が危険になるかもしれないから、この世界に避難してきた。そんな場所でこんな奴らの言いようにされるのは我慢ならない。
「いいか。55階層の出迎えも、その後の対応も桃花の望みを叶えるように尽力しろ。聖都にいる聖女など比べるな。神々が選んだ特別な聖女であり、この国をより豊かにするのだから全力で協力するように。王侯貴族の養子縁組、婚約者なども不要だ。そんな権力が無くともすでに、神々の加護で守られている」
このぐらい脅しておけば良いだろうか。とりあえず教会関係者には、桃花が聖女だとすぐにわかるように認識共有として情報付与を与えておいた。これで桃花を見れば聖女だと分かる。
そして下手なことをしようものなら、天罰も下るように術式も組み込んだ。保険という奴だ。桃花が保険は大事だとよく言っていたのでちゃんと真似ておいた。あとで「えらい、えらい」と褒めて貰おう。
「最後に、桃花は黒狐聖騎士団の名を白銀狐聖騎士団に上書きし、彼らを巡礼の護衛聖騎士に任命した」
「なっ!?」
「あの最底辺の聖騎士団が!?」
「それは──」
「これは決定事項だ。それと白銀狐聖騎士団の団員には精霊、神獣の加護が付与されている。これがどういう意味が分からない馬鹿がいないことを願う」
そう言って円卓会議を離れた。まあ、実際は姿を消しただけで分身体を置いているけれど。
僕が傍にいないと桃花は寂しがるから、できるだけ早く戻るのだ。僕が寂しいからとかじゃない。
***
「ハク、毛並みが乱れているけれど、どうしたの?」
『なんでもない』
「そう?(近くの草原で遊んできたのかも?)ブラッシングしあげるわ」
『うん! あと褒めて!』
「ふふっ、今日のハクは甘えん坊なのね」
そう言って僕を抱き上げる桃花の腕の中は、最高だと思う。
明日には55階層を目指して移動する。桃花が安全に移動するためにも、やっぱり魔物が寄りつかないようにしようと心に決めた。
桃花は知らない。
寄り道ついでに55階層で調教──もといしっかりと釘を刺しておいたことも、すでに教会上層部に乗り込んで先手を打っていたことも。
桃花が知る必要はない。
『桃花、大好き』
「まあ! 私もハクが大好きよ」
大好きな桃花のスローライフを守るため、この世界でようやく彼女の望むグルメ旅行に貢献できたのだから、僕は幸せだ。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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ここで第1章は終わりです。
第2章から本格的に異世界グルメを堪能していきます。
のんびり更新していきますので、お楽しみに。