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第17話 55階層での出迎え

 55階層まで二週間かかる予定だったものの、『桃花の安全が第一だから!』とハクが威圧を使って魔物が現れないようにしてしまったのだ。

 大袈裟すぎる。


 うう、せっかくだから地下迷宮(ダンジョン)の生配信というのをやってみよかと思ったのに、残念。まあ、足手まといの私がいたら護衛も大変だもの。しょうがないわ。


 そんなわけで普通は帰るのに二週間ぐらい掛かるのだけれど、魔物が出ないので一週間で辿り着いた。最短なら五日で戻れたが途中の62階層、58階層では、薬草や珍しい鉱石などを発見したので採取をするため数日潰したのだ。その甲斐あって素材も回収できたし、回復薬(ポーション)も沢山作れた。これも買い取って聖騎士団の資金(旅費)に回す予定だ。


 ここに来るまでにやれることは、全てやった。55階層では、確実に教会本部の人間が出張って来る。そして私の存在を巡って派閥争いやら何やら面倒ごとが、てんこ盛りの予感しかしない。……とはいえ、私はこの世界のグルメ観光の取材をしに来たのだから、いい加減仕事はしたい!! リサーチ! 下調べ! マッピングにオススメのお店を巡って、ハクと食べ歩き! スローライフを実行したい!!


『大丈夫。面倒なことにはならないから』

「ハク?」


 ハクがゴニョッと何かを言っていたが、私には聞き取れなかった。と言うのもタイミング悪く、銅鑼の音によって遮られたからだ。

 それまで55階層のボス部屋という荘厳的な神殿めいた建物だったのが、一角だけミズナラの木々が壁になっている。


「ん!? え、木が動いた!!?」


 ミズナラの大樹はまるで生き物のように、ズルズルと移動し始めたのだ。

 ごごごごっ、と大きな音を立てて、大樹が道を開ける。ファンタスティックな展開に、感動してしまった。


「ハク見て、あんなに大きな大樹が動いているわ!」

『うん。あれは精霊の一種だよ』


 現在三メートルほどの巨体になった白銀の狐──ハクの背に私は乗っている。これが一番安全らしい。ちなみに私がずり落ちないように、ハクの九つある尻尾の一つが私のお腹に巻き付いているので、落下することはない。ちなみに織姫は私の肩に乗っていて、いつでも迎撃準備万端という。


 迎撃するようなことはないはずなのだけれど……。ないよね!?


 過保護だと思うのだけれど、ランドルフ様を含めた皆が「万全を期しましょう」と満場一致で決まってしまったのだ。

 まあ、私の姿は子どもだし、護衛するみんなが良いのならいいけれど……。


「モモカ殿、あちらは森の守護者(エント・ガーディアン)です。本来であれば、彼らと一時的に契約を結ぶことで55階層の森の調停者(ドライアド)の森街に、入ることができるようになっています」

森の調停者(ドライアド)の治めている街……(わあ! 楽しみすぎる!)」


 光の差し込んだ中へ入った瞬間、緑の香りが鼻腔をくすぐる。まばゆさに目がくらみそうになるが、すぐに広がる光景に目を見開いた。


「わあ」


 私たちは高台の場所に出たようで、街を一望する。

 四つの大樹が天井を支えており、天上からはいくつもの鉱石が太陽の輝きを模倣して輝いていた。大樹と寄り添う形で幾つもの建物が並び、中には大樹をそのまま家にして加工している物もあった。


「木の中をくりぬいて家に?」

宿り樹木(ヴィスクム)の宿(エッセ・ウーナ)と言って、樹木の一部を住めるように整えて貰う代わりに、根に食べ残しや費用を置くことで共存共栄しているらしい」

「そうなのですね。すごい……!」


 ざっと見ても巨大な都市で、地下迷宮(ダンジョン)内かと疑うほど、町並みは美しくて、発展しているように見える。大きさ的に東京ドーム二つ分ぐらいはありそうだ。


 ふと旗のはためく音が耳に届いた。

 白の布に描かれた教会の紋章は、樹木と根はケルト文化を代表する渦巻き文様に近く全体的に円を描くようで美しい。


 街の入り口には、白い聖職衣を身に纏い、金色のストラが目立つ青年が二人佇んでいた。教会本部からの出迎えは想定していた──が二人の聖職者と、傍に居る聖騎士団を見て、黒狐(ブラック・フォックス)聖騎士団改め白銀狐(シルバー・フォックス)聖騎士団の面々は固まっていた。


 皆の反応からして結構な大物が来た感じかしら?

 ふとランドルフ様と目があった。


「あちらにおられるのは次期教皇候補の中でも力のあるベルンハルト・アッヘンバッハ枢機卿とロベルト・カレンベルク枢機卿です。そして同行しているのは第二、第三聖騎士団……」


 枢機卿が二人!?

 枢機卿とは教会本部の中で教皇猊下の次に権力を持つ人物だと聞いたのだが、外見的に二十代と想像よりも若く凜とした佇まいは絵になる。

 黒髪の眼鏡の青年は堅物という印象が強く、金髪で空色の瞳の青年は笑顔が絶えず人受けが良さそうな雰囲気がある。なんとも水と油のような二人の出迎えだ。

 聖騎士団も白に近い色合いに全身甲冑というフル装備。資金が潤沢なのだろうけれど、なんとなくランドルフ様たちのほうが強い気がした。

 ふふん、と買った気分になる。


「異世界の聖女様。お会いできて光栄です」

「教会本部より、お迎えに上がりました」


 全員が片膝を突き、傅く。

 想像以上の出迎えに内心心臓をバクバクさせながらも、練習したとおりの台詞を返す。


「出迎えいただきありがとうございます。神々の勅命(オーダー)を受けて、各地の巡礼(食べ歩き取材)をするために来ました──モモカ・スズハラと申します。教会本部とはさほど関わることもありませんでしょうが、よろしくお願いします」


 そう私は教会本部で聖女らしいことをするために、この地に来たわけではないのだ。ただ聖都の町並みや、隠れ家レストランや市場などの食べ歩きには興味があるので、一度は観光として行っても良いけれど、居住する気はない。

 出だしが肝心。最初に宣言しておこうと思ったのだが、二人の枢機卿の表情は変わらない。


「はい。()()()()()()()


 え? 心得ちゃっているの??

 てっきり「それは困ります!」とか言い出すのかと思った。


「今後の活動内容も伺っておりますが、それらを含めて、お話をさせて頂きたいのですが」

「それは助かります」

「では泊まる場所を押さえておりますので、ご同行をお願いします」


 拍子抜けするほど受け入れられたので困惑しつつも「よろしくお願いします」と答えた。枢機卿の傍に、真っ白な肌の綺麗な美女がいることに気付く。

 耳が長く、真っ白な肌に、とても綺麗だ。淡い緑色のドレスと、体に植物の蔦や花を咲かせている姿を見るに、精霊だろうか。

 ふと目が合うと、小さく手を振ってくれたので返す。


「きれい」

『桃花のほうが可愛いし、綺麗』


 お世辞かもしれないが、なんだか照れくさくて沢山頭を撫でたら凄く喜んでいた。そんなこんなで拍子抜けするほど、教会本部の枢機卿と合流したのだった。


 ここに至るまで一波乱があったことを、聖女桃花は知らない。そして関係者はそのことを口にすることもなかった。

楽しんでいただけたのなら幸いです。

下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡


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