第15話 少しずつの変化
お茶休憩を挟んで、ブレイクタイム。
『本日のブレイクタイムは、トロピカル小麦を使ったスフレパンケーキです。コカトリスの卵を使っていてふわふわ、僅かに果実風味の味わいが口に広がります。美味しい。牛乳は雌ミノタウロスの乳、砂糖の代わりに星屑蜂蜜。基本的に食材は火を通すことで解毒するそうです。不思議』
蜂蜜を掛けると余計に美味しい。食材だけを聞くと魔物ばかりだが、牛乳も一度沸騰させてから冷やせば飲めるとか。
この世界では殺菌作用、解毒方法がまとめて『火』を通すことだと言う。
私の世界の『火を通す』とは大きく異なり、食材において『火』を使うことで、この世界のルール的に食用に切り替わる──そんな印象を受けた。
もしかしたらこの世界は元々食料難だったのかもしれない。食料が少なければ各国で奪い合いとなる。それによって争いが絶えなかった世界のルールをねじ曲げた、あるいは人が暮らせるように調整したのではないか。
神様も環境を整えるため色々弄ったと言っていたのだ、神様スケールでなら毒で食べられない物を何とか世界のルールを書き換えることが出来そうな気がする。
その変わり生では食べられないというルールが構築してしまったのだとしたら、ちょっと可哀想だなと思った。この世界の神様は生ものが食べられないのだから。特に刺身とか、馬刺しとか、ユッケも……。何より卵かけご飯が食べられないじゃないか!
あー、思い出すと食べたくなる……。
脱線してしまったので話を戻すとして、『火を通したら、魔物でもなんでも食べられる』となっている。ちなみに植物系は火を通さずとも、毒がないものが多いとか。これは聖樹の恩恵があるのだとランドルフ様は教えてくれた。
ランドルフ様曰く、この世界は天を支える七つの聖樹が各国にそれぞれ存在しているとか。聖樹の近くでは魔物が寄ってこないし、邪気や瘴気を払うだけではなく周辺には収穫の恩恵があるとか。
毎年収穫が出ると言うけれど、ちゃんと土地を休ませているのかしら? いくら土地の加護が強くても、同じ物を毎年育てると連鎖障害を起こすのよね。だから二圃式農業、あるいは三圃式農業をすることで土地の力の維持を保ってきた……。
『桃花は思慮深い。好き』
「あら、ありがとう。ハク」
ハクが抱っこして欲しそうだったので、抱きかかえたら子狐サイズになってくれた。そういう気遣いができるところも可愛い。そして私とハクを見て羨ましくなったのか、織姫は私の肩に乗るほどのサイズに早変わりした。大人の姿は凜々しくて、かっこよかったけれど、私的にはこのミニミニサイズも愛らしくて可愛い。
そんなモフモフと愛らしい存在に囲まれて、スフレパンケーキを食べる。もちろん、ハクと織姫にも食べさせた。ハクも、織姫も食べさせて貰うのが大好きだ。これは契約上、仲良しの証らしい。
んん~~~。ふわふわ。あまーい。
拠点内とはいえ、こんなに美味しいスイーツが出てくるとは思わなかった。この感動をすぐさま写真に収めて、投稿。
『メレンゲを含んだ生地を使って、ふわふわ:☆5
トロピカル小麦の果実風味がまたよい:☆4
口溶け抜群:☆5
味に飽きたらメイプルシロップか、果物と食べると味わいが異なる。
子どもなので珈琲ではなく、紅茶を淹れて貰いました』
せっかくなので、織姫とハクの食べている写真も入れてみた。グルメ観光らしいことはできていないが、地下迷宮でのアウトドア飯という感じで、この魔物がこんな風に美味しくなりました、とビフォーアフターの写真も入れてみている。
フォローはすでに三万超え。神様だけのSNSだけれど、多いな。日本だけでも八百万の神いるって言うし、深く考えるのは辞めた。
ちなみにメイプルシロップの代わりに超特別回復薬をちょこっと掛けてみたら、味がさらに美味しくなったので、疲れが取れていない聖騎士たちに使うようにバルトロメオ様に渡したら「いい子すぎる」と、よく分からないけれど気に入られたようだ。嬉しい。
今後も美味しい料理が楽しみです、はい。
「あのバルトロメオが菓子を作るとは、モモカ殿はスゴイのだな」
「(エイブラム様にそう言わせるってことは、バルトロメオ様ってやっぱりスゴイ料理人産なのね)そうなのですか? ああ、でも90階層まで聖騎士と一緒に行動できるのだから、スゴイですよね」
「……あー、姫さん」
オウカ様は、なんだか言いにくそうな顔をしていた。ちなみに私のことを「モモカ殿」と呼ぶ中、オウカ様は「姫さん」呼びになっていた。忠義を尽くす相手にはそう呼ぶ文化があるとか。男性の場合は「主人」らしい。
「バルトロメオはああ見えて、うちの斬り込み隊長で、双剣と弓の達人だぞ」
「え?」
非戦闘員じゃない?? しかも隊長!?
ご飯作れるだけじゃなく、強いとか反則すぎません? ここにもギャップ萌えが!!!
「ちなみに本来であれば聖騎士団には神父あるいは、回復魔法の使い手が一人は常駐するのですが……我が隊にはいません」
うん、いたらあんな悲惨な状況になってなかったものね。それって教会側の職務怠慢では??
「そのため薬草に詳しいジェラードと、薬師の知識を持つリヒャルトが代わりを務めています」
「ひゃあ。みなさん、強いだけでは無くてそれぞれサブ職業を持っているのね。逞しいわ」
「ええ、自慢の部下たちです」
自分のことのように誇らしげに話すランドルフ様がいるからこそ、この聖騎士団は温かい雰囲気を持っているのだろう。そんな人たちのところに転移して私は運が良かった。
とりあえず教会本部は、ブラック企業レベルだと結論付けた。スローライフ獲得のため、着々と準備を整えていく。
***
織姫とハクと一緒に拠点内を散歩するのが日課になりつつある。織姫に対して聖騎士団の反応は悪くない。精霊の存在に感動している聖騎士が多いことに驚いた。
「精霊と妖精は魔物と異なり神々に類する存在とされ、その姿は黄金、白銀、白、蒼と定められているのです」
「神様の眷族として居るかどうかは、色で判断していると?」
「はい」
なるほど、と少しだけ納得した。ハクも真っ白だったのですぐに神獣だと分かったのだろう。あと漂う雰囲気も含まれるのだろうが。外見で判別できるのは確かに有り難い。私が織姫が白くなったのは契約してからだったし、所属的なものが魔物よりから神様寄りになったからってことよね?
「それにしても、この世界で精霊と契約や加護を貰うのは難しいというのは、何故なのですか?」
私の疑問にランドルフ様は「そうですね」と少し考えたのち、答えてくれた。
「そもそも精霊と妖精の遭遇率の低さ、モモカ殿のように精霊や妖精を目視できること、次に意思疎通ができること、最後に気に入られる確率が低いのですよ」
「ナルホド(……んんーー、織姫が特殊だったっぽいけれど、何らかの事情で魔物寄りになっている精霊や妖精がいるのって、どういうことなのだろう)」
色々考えたけれど、ひとまず軍資金の話を詰めることにした。ランドルフ様たちに案内され向かった先は、薬師専用の家だ。素材の保管や調合用も兼ねている。
中に入ると褐色の肌、白髪とオウカ様と似た肌と髪の色の青年リヒャルト様と、紫色の髪で目付きの悪いテオバイト様、最後に素材を楽しそうに眺めてメモを取っているジェラード様がいた。
ジェラード様以外は私を歓迎していないようで、不躾な視線を向けてくる。私がこの拠点に来てから感じている敵意だ。けれどランドルフ様がそのことに気付いて、圧を掛けた途端に敵意は霧散した。
「お前たちも知っているだろうが、モモカ殿は錬金術の才もお持ちだ。昨日のような超特別回復薬を今後作って、この聖騎士団の資金源とする。そのためにもお前たちにも協力してほしいのだ」
もしかして私を連れてきたのは、あまり良く思っていない人たちと距離を縮めるため?
ランドルフ様の気遣いは嬉しいけれど、こういうのはどうなのだろう。性格の不一致とかもあるし、住み分けって大事な気がする。無理に全員と仲良くなる必要も無い。妨害されるのとかは困るけれど。
「(うーん。とりあえず……)初めましてモモカ・スズハラと申します。みなさまの通常業務の邪魔にならない程度に、手伝っていただけると助かります」
営業スマイルで頑張ったけれど「はあ」と生返事で会話終了。そのまま作業を進めるというなんとも居心地の悪い空間ができあがりだ。
「その調合は、痛み止めですか?」
「ああ」
「こちらは毒消し?」
「ああ」
「何か手伝いましょうか?」
「いえ、聖女様のお手を煩わせるようなことはありませんよ」
「お前たち、その態度は──」
「どうやら忙しそうなので、部屋に戻りますね。錬金術について興味がありましたら、声を掛けてください」
そのまま目を合わせずに黙々と作業を続行するので、ランドルフ様はもちろん、ハクと織姫がピリピリし出したので撤退することにした。
***
ランドルフ様は良かれと思って動いてくれたのに、少し申し訳なかったけれど……。まあ、そう簡単に受け入れられない人だっているもの。
そう気持ちを切り替えて自分の家に戻る。ランドルフ様たちは稽古など色々やることがあるそうだ。いつまでも私のお守りをしている場合ではないのだろう。
「さて、私も私でやれることをやっておかなきゃ!」
『あの腹立つ連中に報復』
「しないでね」
『ほろぼす』
「織姫、それ絶対にダメだから!」
二人を宥めた後、SNSの反響を見つつ、ブログにはSNSの投稿をより細かくした人気風にしている。せっかくなので、地下迷宮のフロアなどの解説も入れてみた。
それが終わって昼食まで、超特別回復薬作りを行い、織姫には聖騎士団の制服作りを頼んだ。一着作るのにどのぐらいの時間が掛かるのかを調べるためでもある。
聖騎士団が回復したとはいえ、90階層から55階層に向かうまでには鋭気を養う必要があるので、90階層にはあと一、二週間ほどは滞在するらしい。それまでにどのくらい売れる物が作れるか。それにコートも……。
「できた♪」
「早っ!?」
思っていた以上に織姫が凄く有能だったと知るのは、もう少し後──。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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