8.バクト珈琲店
アイクチ達がリンユウのチェス仲間に教わった店に向かう道中、料理店が並ぶ通りを進んでいると、昼休み時間とちょうど重なっており、昼食を求める人々で賑わっていた。あちこちの飲食店の排気ダクトから料理の良い香りが吹き出し、アイクチ達の腹を刺激した。
朝方の空岸や商店街の買い物の際にもそうだったが、この島ですれ違う人は、ソメイのように体の一部が鳥になっていなかった。それどころか、耳の尖って横に伸びたリンユウのような者も見られなかった。その視点で見ると、リンユウは朝方につけていなかった帽子をまぶかにかぶり、耳が見えないようにしていた。
それとなくアイクチが尋ねると、リンユウは「さっき買ったの。似合うでしょ」と何でもないふうに笑った。アイクチは、事情までは詮索しなかったが、島を巡ることを楽しみにしていたソメイが嫌な目にあってやしないかと心配になった。
しばらく歩いていると、周囲に飲食店がなくなり、事務所などの簡素な建物が立ち並ぶエリアに入った。行き交う人もまばらになり、重そうな荷物を背負う者が多くなっていた。そんな辺りでリンユウは足を止めた。
「えっと、青い看板のメリア未開島調査士事務所の角を左に曲がる? あった! バクト珈琲店、あそこだよ!」
リンユウの指し示すその店は、白塗りの壁が立ち並ぶこのルフ島において珍しい木造の建物だった。丸太を井桁に組み上げた作りの2階建てのログハウスは、街並みから浮いていて、それでいて年月を経た丸太の色合いが落ちついた雰囲気を醸し出していた。
入り口付近に置かれたイーゼルに縦長の黒板が乗せられており、汚い字で今日のサービスランチのメニューが書き殴られていた。今日のサービスランチは、「スパイスカレー試作23号」のようだ。店から流れてくる刺激的な香りは、珈琲のものかスパイスのものかアイクチには判別できなかった。
ほけーっとアイクチが店を眺めていると、リンユウはジュンカを引きずって店に突入していた。ジュンカは公園で城を見上げてから、難しい顔で黙り込んだままだった。
リンユウはチェス仲間達を見つけると、ジュンカを置いてそちらにパタパタと向かっていった。
「トラジャ、さっきぶり! 見てみて、仲間連れてきちゃった!」
「おぉ、リンのじ。まためんこい子を連れてきたな。あの子もやるのか?」
「ううん、あの子は肉体派。負けそうになると盤面ひっくり返すタイプ」
「はっは、そりゃまたなんとも。あぁマスター、この子にビールを頼む! 飲めるだろ?」
「もちろん!」
リンユウは、そのままトラジャ老人の隣に腰掛け、提供されたビールの半分を一息に飲むと、同卓の者達を巻き込んで話し始めてしまった。
アイクチは、ギエンと共に遅れて店に入ったは良いものの、動けずにいた。どうして良いか分からなかったのだ。
飲食店は食べ物を注文するらしいが、注文してから座れば良いのか、それとも座ってから注文すれば良いのか。幼い頃にお店やさんごっこをやろうとジュンカに言われ、むげにしたのを後悔した。あの時は店なんて存在しない島でやっても意味が分からなかったのだ。
L字になったカウンターの奥では、厳つい顔をした中年の坊主の男がカップに乗せた円錐の道具にお湯を注ぎ、黒いものをこんもりとドーム状に膨らませていた。先ほどマスターと呼ばれた男だ。お湯を糸のように細く垂らす作業に集中しており、声をかけられる空気ではなかった。
店内の壁にはポスターやカレンダーなど、様々なものが貼られていた。アイクチは、情報量が多すぎて目が滑るのを感じた。ざっと見たところ、店に入ったらどうするかなどのルールは流石に書いていないらしい。ジュンカに助けを求めようにも、呆けたまま立ち尽くしており、頼りにならなかった。
アイクチがギエンに声をかけようとしたところで「そこに突っ立っていられると迷惑だ。こっちの席に座ってくれ」とカウンターの奥にいた男にカウンターの端の席を案内された。円錐の道具は片付けられ、アイクチが案内された場所とは逆端に座った初老の男にカップが提供されていた。
カウンターに向かうと、店に入る前に感じた刺激的な香りとは異なる、ナッツのようでいて甘いような香ばしい、えも言われぬ良い香りに包まれた。
ビールやカレーを提供してはいるが、珈琲店というのも嘘ではないらしい。ギエンは、サイフォンや焙煎機など、喫茶店にしてはこじらせた道具類を眺め、口元を綻ばせた。元世界のギエンの国では、コーヒーはまだまだ貴重で高価な品なのだ。
アイクチ達がジュンカを連れてカウンターに並んで座ると、マスターは改めて3人の風貌を確認した。黒髪を短髪にした男は未だ幼さを残した風貌をしており、10代だろう。そして常連に絡んでいるやつを含めて20代だろう女2人と、30代だろう男。どういった組み合わせなのだろうか。
若い男の日に焼けたというには焼けすぎた肌から、外仕事をしていることが推測される。年齢のわりに体格はガッチリとしていて、肉体労働をしているだろうことが伺えた。また、年相応のあどけなさよりも野性味のある瞳が獣を連想させた。
着ているコートは動物の皮をなめしたものだ。しっかりと裁断縫製してあるものの、手縫いの感は残っていた。
一方、隣に座る女の方は、ワンピースにジャケットと普通だ。もう一人の帽子の女の服装も見たことのない生地のようだが特段変なところはない。がたいのでかい男は、一風変わった服装をしているが、先ほどど派手な金色の靴を履いているのが気になる程度だ。
若い男にだけ違和感を覚えた。
マスターは、諸々の疑問を胸にしまい込み、カウンター越しに話しかけた。他の常連達が見慣れない客の様子に好機の視線を向けているのを感じたが、努めて無視して業務を優先した。
「何にする?」
「……何があるの?」
「メニューにあるものと、まぁ書いてなくても食材があれば何でも作るさ」
メニューとは? という疑問を口にする前に、「こちらです」とギエンが目の前の黒い冊子を広げて差し出した。メニューには、画像付きで様々な料理名が記載されていた。
「ちょっと考えさせてください」
「おう、決まったら言ってくれ」
アイクチがまた目が滑るなと思っていると、ギエンがマスターに断りを入れた。マスターは特に気にする様子も見せずに先に使用したドリッパーなどをガチャガチャと洗い始めた。
アイクチは、メニューに書かれている一つ一つの名前を確認した。メニューの横に記載されている数値が金額だろう。リンユウの稼いできた金を思えば何を頼んでも問題ない。
「ギエンはどうする?」
「食事はアイクチ様と同じものにします。あと、コーヒーのオリジナルブレンドをハンドドリップのホットにします」
「ん、なんて?」
アイクチはギエンの呪文のような発言に目を白黒とさせた。ギエンは苦笑いして決まったら自分で頼むので大丈夫な旨を伝えた。
その会話を聞いていたマスターは、首を傾げた。高校生くらいの子どもに敬語を使う大人とはどういった状況だろうか。年功序列以外での敬語は、身分や主従関係に由来する。あるとしたら金持ちの息子につけられた家庭教師だろうか。それにしては、彼らから金持ちの空気を一切感じなかった。
結局、アイクチは入り口の黒板に書かれていたスパイスカレー試作23号にした。シーフードフライ定食やハンバーグデミグラスソース、豚肉のもろみ焼き、ナポリタンと、聞いたことのない料理のいずれも気になったが選びきれなかった。
注文を受けたマスターは、小鍋に1人分のカレーを入れて温め始めた。人物像や関係性を当てるのが趣味だったが、悩んでも答えは出そうにない。3人分のコーヒーをミルで挽きながら答え合わせをすることにした。
「あんたら、よその島の事務所から移籍でもしてきた新人さんか?」
このバクト珈琲店は、未開島調査士事務所が集まるエリアに位置している。基本的に客は調査士かその補助者、近所に住む連中だ。見知らぬ連中であれば、未開島調査士と何らかの関わりがあるのが普通だ。
そして、事務所の客という訳ではなさそうだ。であれば、年度初めではない時期を加味すると、他の島からの移籍組と考えるのが自然だろう。
「いえ、調査士の事務所とかは関わりがないですね。こちらで宿泊できると聞いてきただけです。部屋は空いていますか?」
ギエンのその質問に、マスターはふむとカレーをひと混ぜした。他の市との交流時や採用時期の宿泊は多いが、何でもない時期に泊まる者はあまりいない。
「部屋は空いている。2人部屋が五つあって、1泊6,000アーヴだ。何室にする?」
「1部屋で大丈夫です」
「金がないのか? 時期が時期だし、まけてやらんこともないが」
「いえ、この子以外は帰りますので部屋は要りません」
「……誘拐とか家出の手伝いとかじゃないんだよな?」
「そんなことをするならきちんと計画を立てます」
「そりゃそうだ」
結局何者なのかを聞けずに違う話になってしまっていた。マスターがちらと見ると、アイクチは自分の話題をしているというのに素知らぬ顔をしており、手持ち無沙汰でカウンターの内側に置かれていたイチイの実を勝手につまんでいた。
先日市で確保した島で採れた実で、マスターが知り合いから試験的にもらったものだ。食べ方の確認中で、売り物ではない。ずいぶんとマナーのなっていない子どもだな。そんな印象を抱いた。
メニューを眺めながらアイクチとギエンがたわいもない会話をしていると、カレーが皿に盛って2人に提供された。
ギエンは一口食べて頬を綻ばせた。クミンの香りにトマトとタマネギの甘みとうまみが口に広がった。他にもシナモンなどの幾種類ものスパイスを使用しているのが分かった。珈琲店で香りの強い料理を出すのはいかがなものかと考えていたが、これであれば許せた。
ギエンが何度も頷きながら食べ進める横で、アイクチは固まっていた。一口目を飲み込んだ後、感じたことのないうまみに猫のフレーメン反応のように、ぼけっと焦点の定まらない目で遠くを見つめていた。この島に入って、多くの人や街並みを見てきたが、この料理の香りや味が一番の衝撃だった。別世界に来たことをここで一番実感していた。
さて、このアルミナン市では、戦後に急激に発達した分野として、術具の研究が挙げられる。武器類に始まり、日常的に使用される飛行道具から、カップに入った飲み物を温めたり冷やしたりといった細かいものまで様々だ。
このバクト珈琲店も例にもれず、料理を温める皿を導入していた。皿の端に触れた者の魔力を動力源として術具が起動する簡単な作りのものだ。
そして、術具は、起動している最中に光を発する。
ギエンの皿は淡い光を発しているものの、アイクチの皿は光っていなかった。
アイクチの左手は皿に触れているにも関わらずだ。
その事実に、ドリッパーにフィルターをセットしていたマスターは、眉根を寄せた。
魔力の出力に異常をきたし、術具を発動できない者が存在すると聞いたことはあった。だが、そんな希な存在を疑う必要はない。術具を使用できないこの特徴を、マスターはよく知っていた。
目の前の少年は、この平和になった島でカードの術具を使用している。
カードの術具を一度でも使用した者は、魔力の回路がどうにかなるとかで、他の術具を使用できなくなる。それは一般常識だった。
術具の使用が一般的になった時代に、わざわざカードを使用する物好きは少ない。マスターは、このルフ島でカードを使用している者を知らなかった。いたとしても1人か2人程度だろう。
強力な魔物を召喚できるというメリットを鑑みても、今後一生術具を起動できないというデメリットは大きすぎた。それは、戦力を必要とする未開島調査士であっても同じだった。
だが、過去の戦争の例を見ても明らかなように、魔物を召喚すれば戦力として申し分ない。様々な種類を所持していれば、状況に臨機応変に対応できる存在として重宝されるだろう。実際に、別の市でそうした調査士が活躍しているといった話を聞いたこともあった。
そうやって見ると、彼らの素性は少しだけわかりやすくなる。術具を起動できない少年につけられた介助の人員というわけだ。魔物の戦力を活かして未開島調査士になるつもりなのだろう。面接終わりか、明日面接といったところだろうか。
しかし、この答えは、先ほど調査士とは関わりがないと隣の男に否定されている。
そのとき、常連のトラジャの席で鳥人間が現れたという話題で盛り上がる声が上がった。そういえばそんな話を誰かがしていたなと思ったが、そこでマスターは、頭の中に電流が走ったような錯覚を覚えた。
緊張に乾いた唇を舐めた。
「今日、向かっていた先の島が墜ちたらしいが聞いたか?」
質問に、ギエンはぴくりと反応しただけだったが、アイクチが明らかな動揺を見せた。その様子に、マスターは自分の妄想は正しいのではないかと確信を深めた。
「はい、ちょうど見える場所にいましたので、一部始終を目撃しました」
アイクチが返事をする前に、ギエンが口を開いた。
「そうかい。俺もニュースで見ただけだったんだが、ありゃあ十中八九島核の持ち逃げだな」
「持ち逃げ?」
アイクチの質問にあぁ、とマスターは頷いて返した。
「知ってのとおり、島は核に込められた魔力により浮かんでいる。その核が島を離れてしばらくすると、ああやって墜落するんだ。最近はそんな話も聞かなくなったが、昔は人を乗せたままの浮島が落っこちるなんて事故が起きたもんよ」
「それなら、今回は人がいない島でよかったね」
「よくねぇよ。この店の客は調査士が多いんだが、皆あの島の調査で稼ぐ予定だったんだ。ここで昼からくだを巻いている連中の多くがもうけ損なったんだ。15年前は核が見つからずに撤退したらしいが、植生が豊かで川もあるらしいってんで、資源化も期待されていた。山があったから、鉱物資源も期待できただろう。市全体への影響も少なくない」
「そうなんだ……」
「島核を使用した術具は破格の出力を持つからな。おそらくそれ目当てで持ち出したんだろう」
「持ち出したことがばれるとどうなるの?」
「捕まって鉱山で一生労役だろうな。それだけの罪だ」
そういったマスターはアイクチをじっと見つめた。アイクチは、素知らぬ顔だった。持ち出した本人だとばかり思っていたが、違うのだろうかと訝しんだ。
「島の核ってどんなものなの?」
「あ、あぁ。形は様々だな。魔物の胸の中に埋まった球だったり、強力な魔物が守る宝物だったりする。このルフ島の核は確か剣の形をしているって話だ」
「そうなんだ。島の核を体内に持つ魔物が島を離れた場合もやっぱり墜ちる?」
「そうだな、そんなことも昔あったはずだ。ホーマンさん、確かありましたよね?」
マスターがカウンターの反対端に座る初老の男性に問いかけた。ホーマンと呼ばれた50代くらいの男性は頷き、口を開いた。
「そうですね、ガルーダの悲劇なんて呼び方をされる事件です。巨大な鳥型の魔物が島核の保持者だったのですが、強力な魔法に歯が立たずある事務所がさじを投げて未開島から撤退したんです。この事務所の島を追いかけて魔物が飛び立ち、しばらくして未開島はゆっくりと落下して行きました。当時、それで多くの調査士が命を落としました。あれ以来初期調査は未開島に近づける島を最低限にするようになったんです」
見てきたかのように語るホーマンに、そうだったとマスターは頷いた。
「それで、なぜかは分かりませんが、マスターがあなたを島核を持ち逃げした犯人だと思っているようですが、やったんですか?」
「ホーマンさん!」
ホーマンの問いかけに、店内の空気が緊張した。向けられた視線も、殺気だったものに一部変わっていた。
「良いじゃないですか。もし犯人なのだとしたら、おまんま食いっぱぐれの調査士の集うこの店に堂々とやってくるなんて、火中の栗を拾うようなことはしませんよ。それで、どうなんです?」
ホーマンは、席を移動し、ギエンの隣に座った。そして一つ離れた席のアイクチの目をのぞき込んだ。その心をのぞき込むような目にアイクチはたじろいだ。それでも、視線を外さずに見つめ返した。
「……俺は核を持ち出してなんていないよ?」
「信じます。嘘を吐いているようには見えませんが、マスターはなぜこの子がやったと?」
責めるようなホーマンの視線に、マスターはばつが悪そうに頬を書いた。
「カード使いならできると思ったんだよ。島が墜ちたその日に鳥人間が現れたなんて噂が流れて、見たことのないカード使いが来店した。これがつながってると妄想してもおかしくないだろう?」
マスターのカード使いであることのいきなりの断定にアイクチは心臓がはねるのを感じた。腰のカードホルダーに手をやる。目の前でカードを使用した訳でもないのに特定される理由が分からなかった。
それでも、ホーマンもまたアイクチの皿を見て確かにと納得した。
「カード使い。マスターは島核がこの子の召喚した鳥人間によって運ばれたと考えていると。噂の鳥人間は、あなたが召喚した者ですか?」
「うん」
店内のざわつきが大きくなった。
「鳥人間は、海に落ちていったと聞きましたが?」
「あ、本当だ。カードに戻ってる」
アイクチがカードホルダーを確認すると、ハヤブサの鳥頭をした人型の映し出されたカードが収まっていた。
「すみませんが、あなたが島核を所有していないことを証明するために、島核の位置を探る術具を使用させてもらっても良いですか?」
「えっ、うん」
ホーマンが近くの未開島調査士事務所から術具を持ってこさせ、店の皆に許可を得ると、術具を起動した。
「反応は、ありませんね。少なくとも今この子は島核を持っていません」
ホーマンの発言により、店内の空気が弛緩した。向けられていた視線も少なくなったのが感じられた。
「鳥人間が誰かに届けたって可能性は残っているけど、疑っても仕方ない。おまえを信じるよ。悪かったな」
マスターはそう言って頭を下げた。
「うぅん。気にしてない。でもよく分からないけど、たぶん、俺が島の核なんだと思う」
そうアイクチが言った瞬間、店を沈黙が支配した。
アイクチが島を離れてから島が落下した。そしておやっさんから島が近づく前に飛べと言われた事実から、アイクチは自分の体内に島核があるのだろうと確信していた。おやっさんがそれを承知していただろうことも。
自分が島を離れたことが罪だというのであれば、それは人の作り出した身勝手なルールだ。従うつもりも償うつもりもない。また、行動を制限されるつもりもない。
そして、島からやってきたことを隠した場合、ホルスを召喚できなくなる。だったら、正直に言った方が良い。そう判断していた。
アイクチがそう決意したとき、割れんばかりの大爆笑と大騒ぎが店にあふれた。
「俺が島の核。ひぃーっ!」「んな訳、あるかボケェっ! もっとましな嘘吐け!」「唐突な島核COだと!? 吊るさざるを得ないな!」「たちの悪いいたずらしてんじゃねぇよ!」「いたずらにしては人生かけすぎだろ!」「島核かっぱらってオークションに出そうと思ってたのに、くっそ! その胸かっさばいて見てやろうか!」
店の客たちの中では、いたずら野郎という位置づけに落ち着いていた。
万が一島核を持ち出した犯人で鳥人間の召喚者だったとしても、カード使い自身は術具を使用できない。島核を持っておらず、チート術具の材料を持ち合わせていない子どもなど、もはやかわいそうな子でしかなかった。
「何で笑われてるの?」
意味が分からないとマスターに問うと、苦笑いで返された。
「島核を胸に抱くのは魔物です。人の言語を理解する魔物なんていませんよ」
そう言って語るホーマンと、マスターは、真剣な顔で目を見合わせた。