表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

即興短編

優しさのなくなった日

完全自動運転でない車は今日から道路を走ってはならないことになりました




私は先月買った愛車マツダMX5Aに乗って

おそるおそるドライブに出掛けた


町は様子が変わっていた

煽り運転をする者はいなくなった

その代わり

みんなが車間距離5メートルを保って走っていた

まるで電車のように


前のスピードが落ちたら感知して自動でブレーキを踏むので

それでもぶつからないのだ

ただ後ろの人の顔が見えすぎて

私は頑張って見てないふりをしてあげたけど

どうしても見てしまった


多くの人がモニターで映画か何かを観ていた

ハンドルからもペダルからも手足を離して

それはそれは運転の時間をとても有意義に使えるようになったものだ

本を読んでいる人もいた

眠っている人もいた

路肩で足をくじいている子猫がいても

誰も気づかなかった



急ブレーキを踏んでしまうことはなくならなかった

機械はバカなので人間のように危険予測はできなかった

車の陰から子供が飛び出して来たらキキーッと停まる

陰から飛び出したのがアヒルの親子なら

人間ではないことを認識してそのまま轢いた

後ろの車に優しくするために


機械なので躊躇はなかった



乗員の中に妊婦がいる時は

シートベルトをしなくてもよいので

そのぶん急ブレーキを踏むわけにいかず

前の車の急ブレーキにつられるわけにもいかないので

車間距離は広めに取る設定を選び

それでも急ブレーキを踏む必要がある時には

重要な人物を轢きそうな時には仕方なく踏んだ

飛び出す子供は構わず轢いた


機械なので躊躇がなかった

機械の判断は妥当とみなされ誰の罪にもならなかった



イライラする人はいなくなり

みんなが鈍感になった

側道からなかなか出られない車がいても

どうぞと譲る車はいなくなった

出られない人は映画を観ているので

イライラはしなかった



イライラすることがなくなったから

優しさもなくなった

それらはセットだった


いらない感情などない

イライラがあったから優しさもあった

イライラがなくなったので優しさもなくなった



遅い車が車線変更できなくて困っているのを

速い車がニコニコと広い車間距離に入れてあげることもなくなった

速い車が前に行きたいのを

遅い車がニコニコと先を譲ってあげることもなくなった

お礼はいらなくなった



渋滞はなくなった

みんなが順番で目的地についた

追い越しもなくなった

急いでる人も

特に用事もなく走ってる人も


イライラしてもしょうがなかった

どうぞお先にと

優しくしようとしてもできなかった




完全自動運転を考えた人は優しい人なんだろう

優しい社会を実現しようとして研究開発し

みんなに優しい技術をもたらしたのだろう


しかし誰も他人に優しくしようと自分の頭で考えることをやめてしまった


私は郊外を少し回り

すぐに家に帰って来た


恐ろしかった

優しい技術が人間を管理し

支配していた



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 道路に飛び出してきた生き物をただの障害物としてしか認識していない機械もそうですが、「機械の判断は妥当とみなされ誰の罪にもならなかった」という言葉が一番怖いなと思いました。まさに機械に支配さ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ