043 エピローグ
8日目。
ついに島を離れる日がやってきた。
今日は俺と凛だけでなく、沙耶と陽葵も早起きだ。
「この島で食べる最後の朝ご飯、何にしようか迷ったんだけど……やっぱりこれかなって」
そう言って沙耶がテーブルに置いた料理。
それは、キノコの串焼きだった。
「調味料は塩と山椒だよ!」
調味料の入った竹筒が置かれる。
「キノコに始まりキノコで終わるわけか、悪くない」
「いいと思う!」
「島での生活を代表する食べ物ね」
この島では大量のキノコを食べてきた。
大半がシイタケだったので、焼くだけでも十分に美味かった。
「それじゃ、食べていこー!」
手を合わせ、「いただきます」で食べ始める俺たち。
「おっ、このキノコ、ただ焼いただけじゃないな?」
一口食べて、沙耶のテクニックが分かった。
「流石はせっちゃん、一瞬で見破ってきたかぁ!」
「燻煙でスモーキーさを追加したわけか」
「正解!」
「美味いよ、実に美味い」
キノコの串焼きを心ゆくまで堪能する。
それから謎のフルーツで締めて、朝食が終わった。
「さて――」
立ち上がり、保管庫に目を向ける。
「――イカダの準備をするか」
いよいよ旅立ちの準備だ。
まずは保管庫からイカダのパーツを取り出す。
土台と帆柱だ。
皆で協力して、帆柱を土台にドッキングする。
「せーの!」
俺の合図で、帆柱を土台に突き刺す。
そのための穴は事前にあけてある。
すのこにも、その下の丸太にも。
スポッ!
無事、土台の穴へ帆柱が挿入された。
穴の大きさは過不足ない完璧なものだった。
「流石は文明の利器だ、伊達じゃないな」
穴をあけるのに使ったのはスマホだ。
今時のスマホはカメラ機能を駆使して長さを測れる。
それで帆柱のサイズを計測し、同様の大きさの穴を土台にあけた。
「これでイカダの完成だ」
帆柱と土台を紐で括って固定して、イカダができあがる。
「次はラフトを囲む丸太の解体だな」
「なんだか引っ越しの作業をしているみたい」
陽葵が言った。
言われてみればそんな気がしなくもない。
「この囲いをバラすのは寂しくなるよなー、仕方ないけどさ」
「バラさずにラフトを取り出せるならバラしていないんだけどな」
蔓の紐を千切り、円錐型の丸太をバラした。
「ブヒィ……」
「キュイィ……」
ブタ君とシロちゃんは寂しそうに眺めている。
俺たちがこの島を旅立つと分かっているのだろう。
そして、その旅立ちに自分たちが参加できないことも。
「思いっきり蹴飛ばして悪かったな」
ブタ君に近づき、体を撫でてやる。
「ブヒィ! ブヒィ!」
ブタ君は吠えるように鳴き、涙を流す。
さらに体を擦り付けてきた。
どう見ても別れを惜しんでいる。
こちらまで涙が浮かんできた。
「刹那が泣いてる……!」
「なんだか意外ね」
とんでもないことを言う沙耶と凛。
「俺だって人間だから涙くらい流すさ」
と言ったが、次の瞬間には涙が止まった。
「離れでも絶対に忘れないがらぁ! わずれないがらぁ!」
陽葵が涙の大洪水を起こしていたからだ。
シロちゃんを抱きしめ、ワンワンと泣きじゃくっている。
泣くってのはこういうことだぞ、と言っているかのようだ。
「こっちは予想通りだね」
凛が小さく笑う。
沙耶も「だねー」と笑いながら頷く。
そんな2人の目も微かに潤んでいた。
「陽葵、そろそろいいか?」
泣き終えて鼻水をすする陽葵に尋ねる。
「うん……ごめんね、待たせちゃって」
「かまわないさ」
次は荷物の確認だ。
保管庫から必要な物資をラフトへ移す。
「水はペットボトルと竹筒があって、メシも燻製肉とドライフルーツ、それに沙耶が作った焼きキノコもある。塩分補給ができるように塩もある――忘れ物はないな?」
美少女たちが大きく頷いた。
「じゃあ、行こうか」
ラフトとイカダを蔓の紐で固定する。
イカダでラフトを運ぶというのが俺たちの計画だ。
イカダ単体に比べると移動速度は大きく落ちるだろう。
その代わり食糧を大量に運べるなど、安全面が大きく向上する。
危険な船旅になるからこそ、可能な限りリスクを減らした。
「出発の前に記念撮影しようよ!」
提案したのは沙耶だ。
「それ賛成!」と陽葵が手を叩く。
「同感だ」
「いい考えね」
俺と凛も賛成して、記念撮影をすることにした。
「背景はどっちにする? 海? 森?」
「保管庫とかも見えるほうがいいし森でいいんじゃない?」と凛。
「了解!」
先ほどバラした丸太を砂に突き刺す沙耶。
そして、その上に自身のスマホをセットした。
「調整するから並べー!」
慌ただしく動き出す俺たち。
誰がどこに立つかで悩む。
「真ん中は刹那君で決まりでしょ?」
「そうね」
まずは俺が真ん中に立たされる。
「ブタ君は大きいから……最前列ね! 伏せて!」
「ブヒッ!」
陽葵の指示で、ブタ君が俺の前に伏せる。
「あとは横並びでいいかな?」
陽葵が凛に尋ねる。
凛は「だね」と短く答えた。
「じゃ、刹那君の左に凛で、その左に私! 沙耶は――」
「刹那の右だなー?」
「うん!」
凛が俺の左隣に立ち、さらにその左へ陽葵。
シロちゃんは陽葵の左肩の上に乗っている。
「撮影するよー! 動くなよー!」
沙耶がスマホのボタンを押す。
『10……9……』
機械音声のカウントダウンが始まった。
それと同時に沙耶が走り出し、俺の隣に立つ。
「棒立ちじゃつまんないから肩を組もうよ!」
沙耶の咄嗟の提案により、俺たちは慌てて肩を組む。
『2……1……』
カウントダウンが0になり、カシャッと音が鳴った。
「確認してくるから待ってねー!」
沙耶が駆け足でスマホを取りに戻る。
それから撮影結果を画面に映し、俺たちに見せてきた。
「おお!」
「完璧ね」
「いい感じー!」
「ブヒィ!」
「キュイイイイイイイイイン!」
全員が絶賛する出来だった。
ピントは俺たちに合っているし、後ろに保管庫や森も見える。
「その写真、日本に戻ったら送ってねー!」
「もちろん!」
こうして記念撮影が終わり、いよいよ出発の時だ。
みんなで協力して、ラフトとイカダを海まで移動させる。
俺たちはラフトを持ち、イカダはブタ君の背中に乗せて運んだ。
「お前らとはここでお別れだな」
海の上にイカダとラフトを置いたら、ブタ君とシロちゃんに言う。
「一緒に連れて行ってあげれなくてごめんね」
陽葵がブタ君を優しく撫でる。
そのあと、ブタ君の頭に鎮座するシロちゃんを抱きしめた。
「俺たちがいなくなっても、お前らは協力して生きるんだぞ」
「ブヒッ!」
「キュイッ!」
俺は深呼吸してから体を海に向けた。
「帰ろう、日本へ」
女性陣がイカダに乗り込む。
最後に俺もイカダへ乗り、オールを漕ぎ始めた。
「ブヒィイイイ!」
「キュイイイイ!」
ブタ君とシロちゃんの別れの声を受けながらイカダを進める。
ある程度したところで、オールを漕ぎ終えた。
それでもイカダは島とは反対側へ進んでいく。
「帆がちゃんと機能しているな」
「これなら基本的にはラフトで寝たままでもオッケー?」と沙耶。
「そういうことになる」
「じゃあしばしの休憩だー!」
沙耶は予備のオールを持ってラフトに入った。
陽葵と凛もイカダからラフトへ移動する。
ラフトの中だと直射日光を避けられるので賢い選択だ。
「刹那もおいでよー」
沙耶が手招きしてくるが、俺は首を振った。
「もう少し様子見でここにいるよ」
すのこの上で胡座を組み、周辺を見渡す。
どこまでも広大な海が広がっていて、それが不安になった。
本当にこのまま進むと有人の島へ辿り着けるのだろうか。
だが、振り返って美少女たちを見ると、不安が消えた。
彼女らと一緒なら、どんな困難も乗り越えられるだろう。
仲間の偉大さを改めて感じる。
そんな時だった。
「何かが突っ込んでくるぞ!」
大量の黒い背びれがこちらに迫ってくる。
「なになに!? サメ!?」
沙耶がラフトから顔を覗かせる。
「いや、あれは――イルカだ」
イルカの群れが一糸乱れぬ動きでイカダを飛び越える。
その中に、1頭だけ規格外の大きさをした生き物がいた。
陽光を完全に遮断するほどに大きなそいつは、唯一、イルカではない。
「シャチ岡さん!」
一瞬で分かった。
イルカ軍の司令官はシャチ岡さんだったのだ。
海の王者であり、俺の頼もしい仲間。
「キィ!」
シャチ岡さんは鳴き声と思しき高音を発する。
それから部下のイルカたちとイカダの周囲をグルグル。
最後に約20メートル前方でイルカと共に大ジャンプ。
派手なショーを見せてくれた後、颯爽と去っていった。
「うわぁ、すごい!」
陽葵が口に手を当てて感動している。
「俺たちを祝福してくれているんだ……!」
シャチ岡さんの熱いエールはしっかり受け取った。
「そう言えば、あたしら以外の人って無事なのかな?」
「この航海を成功させれば分かるさ」
「それもそうだね」
俺は前方――まだ見ぬ島を指しながら言う。
「絶対に帰るぞ!」
「「「おー!」」」
航海の先に何があるのかは分からない。
成功か、それとも、失敗か。
そんな状況でも、俺たちの顔に不安の色はない。
明るい表情で愉快げに話し、どんな問題も笑って吹っ飛ばす。
2021年5月30日。
1週間に及ぶ無人島ほのぼのサバイバルが終わった。
無人島ほのぼのサバイバル、これにて完結です。
今回は平坦なストーリーで、島での生活を描いてみました。
ゆるい感じでお楽しみいただける作品を目指したのですが、
いかがでしたか?
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絢乃は他にも無人島を題材にした作品を書いていて、
ノクターンに掲載している「異世界ゆるっとサバイバル生活」や
なろうに掲載している「ガラパゴ」など、いくつかは書籍化しました。
興味のある方は、是非そちらも読んでやってください。
それでは、ご愛読ありがとうございました!
絢乃














