041 最初で最後の混浴
川に着いたら、皆で手分けして浴槽に川の水を入れる。
誕生日が過ぎたので陽葵にも働いてもらう。
「浴槽に水を入れ、その下のかまどに焚き火を作った。これで完璧だな」
俺の確認が終わると、沙耶が服を脱ぎ始めた。
「一番風呂は沙耶様がいただいたー!」
そう言って浴槽に飛び込む沙耶。
しかし次の瞬間、彼女は跳びはねて外へ転がり落ちる。
「冷たッ! 冷たすぎるってばよ!」
「てばよ! って言われても、そりゃそうでしょ、としか言えないぞ」
浴槽の水が温まるまでには時間がかかる。
焚き火をこしらえてすぐに入っても中は水風呂だ。
「温まるまでの間に服を綺麗にしておかないとね」
凛は服を脱いで洗濯を始めた。
川に制服を浸けて、手で揉んでいる。
全裸の美少女が川で服を洗う姿はいつ見ても不思議だ。
「シロちゃん、お風呂が温まったら教えてね」
「キュイ!」
陽葵も凛に続いて全裸で洗濯を開始した。
シロちゃんは浴槽のふちに腰を下ろし、湯船を凝視している。
「刹那ー、何してんだー?」
立ち尽くす俺に沙耶が声を掛けてきた。
「刹那君、洗濯しないの?」
「あ、そっか、洗濯しても意味ないんだ」
「どういうこと? 凛」
陽葵が尋ねる。
「だって明日は朝から島を発つでしょ?」
「「ああー」」
女性陣が勝手に話を進めて、勝手に納得している。
「だったら先に言えよー!」
沙耶が洗濯を止めて言ってきた。
「あ、あぁ、悪い」
俺は適当に話を合わせてやり過ごす。
(本当はそんな理由じゃないんだけどな……)
俺が服を着たまま突っ立っている理由は他にあった。
服を脱がないのではなく、脱げなかったからだ。
(ようやく落ち着いてきた……)
視線を下に向けてホッと一安心。
美少女たちの全裸をまじまじと見たせいで、先ほどまでヤバかった。
色々とヤバくて、それはもうヤバくて、とにかくヤバかったのだ。
「キュイ!」
シロちゃんが鳴く。
どうやら湯船の温度がちょうどいいみたいだ。
土器からほんのり上がる湯気もそれを物語っていた。
「お風呂、お風呂ー!」
沙耶は真っ先に浴槽へ飛び込む。
そして、「極楽ぅ!」と頬を緩めた。
陽葵と凛もそれに続き、恍惚とした表情を浮かべる。
(美少女たちの残り湯にありつけるのも今回で最後か……!)
ブタ君の体を撫でながらそんなことを考える。
そこへ、沙耶がとんでもない提案をしてきた。
「刹那も一緒に入ろうぜー!」
「えっ」
「混浴だよ!」
「俺が……皆と一緒に!?」
「そうだよ! 最初で最後のご褒美だ!」
「私たちの裸はもう飽きるほど見られているからね」
と、凛が小さく笑う。
「この島でお世話になったお礼になるかは分からないけど、一緒にお風呂、どうかな? 刹那君」
陽葵の頬が赤くなる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
俺は叫んだ。
超スピードで服を脱ぐ。
タオルがないので、手で股間を隠して湯船へ。
「うはぁ、天国!」
思わず漏れる心の声。
「ほんとお風呂って最高だよなー!」
沙耶が肩を組んでくる。
「皆で一緒に入ると楽しいよね!」
真正面にいる陽葵は笑顔で声を弾ませた。
「島での生活は刹那がいないと成り立たなかったよ、ありがとう」
沙耶と反対側の隣から、凛が上目遣いで俺を見る。
(死ぬなら今がいい!)
そう思えるほどに最高の瞬間だった。
両サイドだけでなく、真正面にも美少女がいる。
4人だと窮屈な浴槽の中、全裸の美少女たちに囲まれているのだ。
少しでも手を動かそうものなら、誰かしらの肌に触れてしまう。
おそらく人生で最も素晴らしい瞬間が今である。
「ふっふっふ、どうだい? あたしらとの混浴は!」
沙耶が耳元で「最高だろー?」と囁く。
それが決定打になった。
「だめだあああああああああ!」
我慢の限界を突破したので俺は飛び出す。
舞い上がった風呂の湯が女性陣の顔面を濡らす。
「ちょ、刹那!?」
「刹那君どうしたの!?」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃなあああああああああい!」
俺は慌ててブタ君の後ろへ避難。
ブタ君を盾にして、女性陣から隠れた。
それから、必死に老人ホームを想像する。
ゲートボールや囲碁を楽しむ80代の男女の姿を。
そうすることで、どうにか気持ちが静まってきた。
「のぼせそうだから先に上がらせてもらった!」
諸々が落ち着いたのを確認してから言う。
そして、一足先に綺麗な服に着替えた。
ブタ君を水浴びに向かわせて安堵の息をつく。
「なんだのぼせそうだったのかー」
「急に飛び出すから何事かと思ったよ!」
「本当にのぼせそうだったのかな?」
凛がニヤリと笑って俺を見る。
最初は俺の目を見ていたのに、次第に視線が下がっていく。
完全に見透かされていた。
「な、何を言ってんだ! 皆も早く上がって着替えるんだ!」
「ちぇー! もう少しお風呂を楽しみたかったなぁ!」
「でも、刹那君の言う通り、のぼせる前に上がらないとね!」
「そうだね」
女性陣は渋々と風呂から上がって着替える。
同じ頃、ブタ君も水浴びを終えていた。
「準備完了! 帰ろー!」
沙耶の言葉に頷き、皆でラフトへ向かう。
その道中で、沙耶が言った。
「刹那って思ったより紳士なんだね」
「紳士? 俺がか?」
「あたし、てっきり触られるかと思ったよ、お風呂で」
「私も覚悟してたー!」と陽葵。
「えっ、触ってよかったの?」
思わず本音が出てしまう。
スマートに「そんなこと考えたこともない」とは言えなかった。
「そりゃあの距離感なら触られても仕方ないし」
「というか、そういう覚悟がなかったら混浴は申し出ないよ」と凛。
「刹那君、いつも私の胸を見ていたから、てっきり触りたいのかなって……」
陽葵が恥ずかしそうに言う。
まさか胸を凝視していることまでバレていたとは。
「触っていいなら先にそう言ってくれないと!」
俺はウキウキで陽葵に抱きつこうとする。
だが、隣から沙耶に妨害された。
両脚を掴まれ、ジャイアントスイングで投げ飛ばされる。
「もう終わったんだよ、ボーナスタイムは」
沙耶の無慈悲な声が突き刺さる。
「刹那、あんたはボーナスタイムを無駄にしたんだ!」
「そんなぁ……」
かつてないほど過去に戻りたくなる俺だった。
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