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004 煮沸の準備

 採取した大量のシイタケをライフラフトにぶち込む。

 今すぐ焼いて食いたいところだが、残念ながらそうもいかない。


「生き返ったけど、本当に空にしてよかったの? マズくない!?」


 沙耶はペットボトルの水を飲み干し、「ぷはー!」と気持ちいい声を出す。


「他にまともな容器がないから仕方ない。それに水分補給は大事だ」


 俺たちは500mlのペットボトルに入った飲料水を回し飲みした。

 貴重なペットボトルの1つがすっからかんになってしまう。


「さて、行くか」


 休憩が終わったら再出発だ。


「行くってどこに? 星の導く場所?」


 沙耶が言うと、陽葵はクスリと笑った。


「星の導く場所ってなんだ?」


「だってほら、刹那ってそういうの言いそうじゃん」


「なるほど」


 傍からはそんな風に見えているわけか。


「言いたいことは分かったが……思ったよりダサいな」


「というか痛々しい」と凛。


「出来る限り改めるようにしよう」


 今さらながら高校デビューの仕方を誤ったことに気づいた。

 中学時代の同級生がいない高校だからと気合を入れた結果がこれだ。


「それでどこに行くのかな?」


 陽葵が訊いてくる。


「川を探すのさ。メシよりも水が大事だ。確保できなければ死ぬ」


「サバイバル生活きつすぎっしょ! 毒キノコといい、下手したら死ぬことばっかじゃん!」


「昔の人はそういう環境を生き抜き、知恵を付けてきたのだ。下手しても死なない世界があるのは先人たちのおかげさ」


「なるほど! 普通にいいこと言えるじゃん、刹那!」


 今のセリフは痛くないらしい。

 覚えておこう。


「川を探すと言ってもどうやって探すの?」


 森を歩いていると凛が尋ねてきた。


「それは土の声を聞けば……いや、土を見れば分かる」


「言い直した!」


「言い直しやがった!」


 陽葵と沙耶がすかさず反応する。

 凛が「賢い修正だね」と頷いた。


「生きる上で水が必要なのは他の生き物も同じだ。だから、動物の足跡が多い場所には水場がある。川じゃなくて沼の可能性もあるけどな」


 先ほど倒したイノシシの足跡を辿って森の奥へ進む。

 ほどなくして水の流れる音が聞こえてきた。


「音の感じから察するに滝や湧き水ではなく川だな」


「水の音で判別できるとか変態かよ!」


 そんなわけで音に向かって方向転換。

 ものの数分で川に辿り着いた。


「当たりだ」


 とても綺麗な川だ。

 幅は10メートル程。水深は浅めで、流速はそこそこ。

 水質が非常に良くて、たくさんの川魚が泳いでいる。


「魚だー! キノコより美味そー!」


 沙耶がじゅるりと舌なめずりをする。

 陽葵と凛も、川を泳ぐ魚に目が釘付けだ。


「落ち着いたら釣り竿を作ってやろう。だが今は水の確保だ」


 俺は空のペットボトルに川の水を入れた。


「喉が渇いたしちょーだい!」


 沙耶がペットボトルをよこせと手を向ける。

 それに対して俺は首を振った。


「このまま飲むと腹を下す可能性がある」


「えー! こんなに綺麗な川なのに!?」


「おそらく問題ないが、俺たち日本人の体はデリケートだからな」


「たしかに日本人の体はデリケートだけど、刹那は別じゃない?」と凛。


「あはは、たしかに。刹那君なら平気そう!」


 陽葵は声に出して笑った。


「そういや刹那って毒の判別できるんでしょ? その水を飲んで大丈夫か分からないの?」


「無理だ。俺に水質調査機能なんて備わっていない。人間だからな」


「じゃあ駄目じゃん!」


「そんなわけだから持ち帰って煮沸してから飲もう」


「煮沸って……沸騰させること?」


「正解だ」


「どうやってやるのさ? 鍋なんかないよ! 火もないし!」


「その2つは問題ない。どうにでもなる」


「ならないっしょ、普通!」


「まぁ任せておけ」


 川の水を採取したので、三人を連れてライフラフトへ向かった。


 ◇


 海辺に到着したら煮沸の準備に取りかかる。

 お腹が悲鳴を上げているのでサクッと済ませよう。

 と、その前に、時間を確認しておいた。


 現在の時刻は午前8時過ぎ。

 発煙筒の煙は弱まり始めており、救助がくる兆しはない。


「やはり今日中の救助は期待できないな」


 ということで作業開始だ。


「鍋は既に見つけてあるから火を(おこ)そう」


「えっ、鍋あるの!?」


「まぁな」


 驚く沙耶との会話を打ち切り、適当に材料を集める。

 平らの板としっかりした棒、あと大量の小枝や枯れ草。


「原始的な火熾しの方法として〈きりもみ式〉というものがある。この板に棒を押し付けて素早く回転させるわけだ。早い話が摩擦熱を利用した火熾しだな」


「歴史の教科書に載ってるやつだ!」


「いかにも」


 俺は適当な石を拾い、別の石に打ち付けて砕いた。

 これを何度も繰り返し、手頃なサイズの石を用意する。

 いわゆる打製石器だ。


 この打製石器で木の板と棒を整えていく。

 板には窪みを作り、窪みの手前には切れ込みを入れた。

 棒のほうは、先端を板の窪みに合うよう削る。


「これで道具の完成だ。コイツを使えばサクッと火がつくぜ」


 腰を下ろして火熾しに取りかかる。

 板に棒を押し付けてシコシコと回転させた。

 この時、板の下に葉っぱをセットしておくとその後が快適だ。


「煙が出てきた!」


「うむ」


 煙と共に熱を帯びた黒い粉が蓄積されていく。

 これが火種だ。


「こんなものでいいだろう」


 火種が十分に集まったら、素早く枯れ草の束に放り込む。


「あとはフッと息を吹きかければ――」


 ボッと枯れ草が燃え始めた。


「――火がつくって寸法だ」


「すっご!」


「手品を見ているみたい!」


「刹那、手慣れすぎでしょ」


 美少女たちが感嘆する中、火熾しは最終段階へ。

 枯れ草のままだとすぐに火が消えるので、大きめの枝などを足す。

 そうして火を育ていき、安定感のある焚き火に仕上げた。


「これで完了。火熾しは大事だからできるようになったほうがいい」


「あたしらでもできる? 一般人だよ!?」


 俺は「できるさ」と断言する。


「2000年以上前の人間にだってできたんだぜ。現代人にできないはずがない。それに俺だって一般人だけど問題なくできただろ?」


「どこが一般人だよっ!」


 陽葵と凛が笑う。

 ちょっとサバイバルの知識があるだけで超人扱いだ。


「あとは煮沸するだけだな」


「そうだけど、煮沸のための鍋はどこにあるの?」と凛。


「そういえばそうだよ! 鍋は!?」


 沙耶が続く。


「鍋ならあるぜ、あそこに」


 俺は海を指す。

 案の定、彼女らは「なに言ってんだ?」という顔をした。

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