036 念願のお風呂
今日のディナーは今までで一番だった。
天然の綿実油と塩による暴力的なまでの美味さ。
いつものかっぽキノコもいい味を出していた。
存分に堪能したあと、俺たちは川へ向かう。
俺の用意した誕プレの確認と川で体を清める目的で。
「あの子、寂しくしてないかなぁ」
陽葵がポツリとこぼす。
今日の主役たる彼女だけはブタ君に乗っている。
俺たちにキャプションを付けるなら『女王様と家来たち』といったところか。
「心配しすぎだって! 今頃ぐっすり眠ってるよ!」
沙耶が軽快に答える。
陽葵の言うあの子とはハクトウワシのことだ。
ラフトの中で休ませている。
「とまぁ、料理ってのは数学と同じなわけよ」
話題が料理に移る。
沙耶は凛に向かって料理の真髄を語っていた。
「分かるかなー? 数字の美学。足し算だけじゃない、引き算や掛け算もあるわけ! 平面的じゃダメなわけよ!」
「ごめんだけど、さっぱり分からない」
「なんでぇええええええ! 分かれし!」
「今の『分かれし』が『分かってくれよ』という意味なのは分かるぞ」
俺が茶化すと、凜と陽葵が笑った。
沙耶は「ムキィ!」と地面を蹴りつける。
「きっと沙耶は天才肌なんだよ!」
陽葵が笑顔で言った。
「天才肌ぁ?」
「うんうん。だから、私たちみたいな一般人には伝わらないの」
「なるほどねー! 庶民との違いってやつかぁ!」
「ただ単に説明下手なだけじゃ……」
「なんだと!?」
沙耶の鋭い眼光が俺を貫く。
俺は「なんでもございません」と顔を背けた。
「ま、料理の話はこのくらいにしておいて――」
俺は前方に手を向け、笑みを浮かべる。
心の中では安堵の息を吐いていた。
「――あれが俺の用意した誕プレ、土器の風呂だ」
川にはイメージ通りの浴槽が待っていた。
かまどと一体化した完璧なる釜だ。
その横には、木材を組んで作った階段もある。
そこから風呂に入ることが可能だ。
「すっご! お風呂を作っちまったのかよ!」
「下のかまどを使って川の水を温める仕組みかな?」と凛。
「その通りだ。火力を調整すれば適温で楽しめるだろう。たぶん」
当然ながら土器の風呂に入った経験などない。
だから俺の発言には「たぶん」という言葉がつく。
「うわぁー! すごい!」
陽葵は大興奮でブタ君から降りた。
「さっそく入ってもいい!?」
「もちろん。だが、その前に川の水を浴槽に張らないとな」
俺はブタ君の背中から土器のバケツを取る。
水汲み用に3つ担がせておいた。
「凛、沙耶、手分けしてやるぞ」
「「了解!」」
陽葵が見守る中、川の水を浴槽にぶち込んでいく。
「私、火を熾すね!」
右手を挙げる陽葵。
「ああ、焚き火を忘れていたな、俺がやるよ」
「そうそう! 陽葵は大人しくしてなって!」
「うぅ、お姫様扱いで申し訳ないよ」
「気にしないでいいよ、誕生日なんだから」
凛の言葉に、「むぅ」と渋々ながら見物に回る陽葵。
「これで、ラストー!」
沙耶がバケツの水を移し終えて、浴槽の水は申し分ない量になった。
「温度もそろそろいいんじゃないか?」
井桁型の焚き火によって、あっという間に浴槽の中が温まる。
少しずつ湯気の勢いが増していた。
「いい感じだよー!」
陽葵が湯船に指を突っ込んで確認する。
「ならこの温度で維持するか」
薪の組み方を変えて火力を弱める。
「じゃ、俺とブタ君はあっちに行くから、お風呂を満喫し――」
話している最中のことだった。
「ちょ! 陽葵、待て!」
なんと陽葵が服を脱ぎ始めたのだ。
下着姿になった彼女の胸を凝視する俺とブタ君。
「どうかしたの?」
陽葵はきょとんとしている。
凛と沙耶も気にしていない様子。
「どうもこうも、俺の前で服を脱いだらまずいだろ。俺は男だぞ」
この発言に対して、美少女たちは声を上げて笑った。
「なにがおかしいんだ……?」
俺は陽葵の胸をガン見しつつ首を傾げる。
「刹那、いつも私たちの裸を覗いているでしょ」
凛がすまし顔で言った。
俺とブタ君は揃ってギクッとする。
「そ、そそ、そんな、そんなこと、するわけ」
「いや、バレバレだからね!?」と沙耶。
「……マジ?」
「刹那君の視線、初日から感じまくってた!」
陽葵も笑顔で言う。
なんと俺の覗きがバレていたのだ。
これには驚きを禁じ得ない。
思わず口をあんぐりしてしまった。
「じゃ、じゃあ、なんで今まで何も言わなかったんだ?」
「だって、刹那にはたくさん助けられているからね」
「そーそー! それに男がスケベなのは仕方ないし!」
「この島にいる間は許してあげよって話になったの」
「そうだったのか……」
なんと寛容な女子たちだ。
俺は安堵し、喜び、これからも覗こうと誓った。
「謝礼金の代わりってことで、気にしなくていいよ」
凛が言うと、沙耶と陽葵は頷いて肯定した。
「よく分かったよ」
俺は俯いて考えを巡らせる。
覗いてもいいなら、目の前で全裸になってもいいはずだ。
それはつまり――。
「今後は体の洗いあいっこをしよう! 皆の体を俺が綺麗にしてやる! 隅から隅まで丁寧に洗ってやるぞ! うっへへぇ!」
「「「………………」」」
静まり返る女性陣。
「もちろん混浴もセットだ! もはや俺たちは裸を見せ合う仲だろ!?」
「「「………………」」」
反応がない。
さすがに裸を見せ合うのは恥ずかしいか。
と、思いきや。
「刹那、横になってもらえる?」
凛が言った。
「横に?」
「そう、その場に寝転んでみて」
「別にかまわないが」
よく分からないが、言われた通りにする。
俺は土の上に寝転んだ。
(おほほーっ)
沙耶と凛のスカートの中が見える。
素晴らしい、実に素晴らしいチラリズムだ。
「えっ」
満足していると体が浮いた。
女性陣が手分けして持ち上げたのだ。
「な、なにを――うわぁぁぁ!」
次の瞬間、俺は川に放り投げられた。
服のまま川へダイブする。
「これで少しは頭が冷えた?」
汚物を見るような目を俺に向ける凛。
「男がスケベなのは仕方ないけど、限度があるっしょ?」と沙耶。
「刹那君、もう少し大人にならないとだめだよ……」
陽葵が残念そうにため息をつく。
「…………」
今度は俺が黙る。
川魚に耳をつつかれながら考えをまとめた。
「皆に言いたいことがある」
ずぶ濡れの体を起こして女性陣を見る。
そして、呼吸を整えてから言った。
「調子に乗ってすみませんでした」
「よろしい!」
陽葵が満足気に頷く。
「しゃーないなぁ! せっちゃんはぁ!」
「成長できてよかったね、刹那」
どうにか許されたようだ。
ホッと一安心。
「そんじゃ、お風呂を楽しもうぜー!」
沙耶がサッと全裸になる。
すぐ傍に俺がいても恥じらっていない。
見られても致し方なし、と腹を括っているのだろう。
それは凛や陽葵も同じだった。
「あー、気持ちいいー!」
最初に陽葵が湯船に浸かる。
「たっまらーん!」
続いては沙耶。
「私も入れそうかな?」
既に窮屈な浴槽を眺めながら凛が尋ねる。
「大丈夫大丈夫! ほら、凛も来いよー!」
「ありがと」
凛は服を脱ぎ、ゆっくりと浴槽に浸かった。
で、幸せそうに「生き返る……」と声を漏らす。
「もう1人分の余裕があるな、なら俺も――」
服を脱ごうとする俺。
しかし、その手はすぐに止まった。
美少女たちに睨まれたからだ。
「もちろん冗談だよ、冗談」
「刹那君は私たちのあがったあとね!」
「待ってる間に洗濯よろしくなー!」
「分かったよ……!」
言われた通り皆の服を洗う。
夢の混浴がならず、心の中で泣いた。
その後、俺も風呂を満喫して、6日目が幕を閉じる。
明日は7日目――運命の日だ。
6日目終了です。
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