031 パンチラの美学
6日目の朝、真っ先に起きたのは俺だった。
いつもは先に起きている凛とブタ君がまだ寝ている。
(俺が早起きなのではなく、凛とブタ君がいつもより遅いのか)
腕時計を見てそう認識する。
現在は朝の5時20分だった。
(それにしても……)
ラフトから出る直前に振り返った。
気持ちよさそうに眠る美少女たちの寝顔が見つめる。
(まさかスクールカースト最上位の女子たちと共同生活を送ることになるとはな。人生ってのは複雑怪奇なものだ)
今日も張り切って行こう。
陽葵の誕生日だし、いつも以上に頑張るぞ。
そんなことを思いながらラフトを出て、そして、顔を青くした。
「消えてるじゃねぇか」
ラフトの傍にある焚き火の炎が消えていたのだ。
これまで絶やすことなく炎を維持してきたというのに。
焚き火は防犯の要だ。
猛獣や害虫から身を守るのに役立つ。
「これは……」
消えた焚き火を見ていて、どうして消えたのかが分かった。
「おっはよー、刹那!」
ラフトから沙耶が出てくる。
珍しく凛よりも先に起きたようだ。
「ブヒィ……?」
沙耶の声でブタ君も目を覚ました。
重い身体を上げると、砂に顔面を突っ込む。
そして、顔をブルブル振って砂を飛ばした。
ブタ君なりの洗顔だ。
「沙耶、ちょうどいいところに来たな」
「おっ、なになにー? どしたー?」
沙耶は竹筒の水で顔を洗ってから寄ってくる。
干しているタオルで顔を拭きながら。
「昨夜、この焚き火に薪をくべたのはお前だよな?」
「そだよー……って、消えてるじゃん!」
「その通りだ。やってくれたな」
「え、私のせい!?」
「いかにも」
俺は焚き火の残骸と化した炭を指す。
「教えた通りに薪を組まなかったのが原因だよ」
「うっそーん! そんなこと分かっちゃうの!?」
「炭の形を見れば分かる。炎の火力や燃焼時間は薪の組み方で変わるんだ」
「まじかー!」
「で、沙耶の組み方は最悪だ」
沙耶は井桁型――漢字の「井」みたいな形――で組んでいた。
「この組み方は火力重視だ。大きな炎ができる反面、短期間で燃え尽きてしまう」
「それで昨日は豪快に燃えていたのかー! てっきり炎の機嫌がいいからなんだと思ったよ!」
「笑い事じゃないんだぞ」
俺は真面目な顔で沙耶を見る。
それに驚いたようで、沙耶は「ひぃ」と声を漏らす。
「動物の大半が火を怖がる。だから獣除けとして焚き火を維持するんだ。運が悪かったら猛獣に襲われていたぜ」
「ごめんよ、今度から気をつける」
沙耶が素直に頭を下げる。
「こちらこそきつい言い方をしてすまなかったな」
俺は焚き火の残骸を取り除き、新たな焚き火を設置した。
薪の組み方はいつもと同じだ。
両端に太くて大きな薪を置き、その間に小さな薪を並べる。
火力と持続性のバランスがいいロングファイヤー型だ。
「気を取り直して朝ご飯を作るよ!」
沙耶は両手で自分の頬を叩いて気合を高める。
それからブタ君と共に森へ繰り出した。
「おはよう、刹那」
次にラフトから出てきたのは凛だ。
「今日はよく寝ていたな」
「ちょっと疲れが溜まっていたのかも」
「そんな時もある」
昨日の凛は布団作りにかかりきりだった。
俺たちが雑談している間も作業をしていたほどだ。
疲れていても無理はない。
「あ、そうそう、陽葵の誕生日についてだけど」
凛はそこで言葉を止め、声を潜めて続きを言う。
「夜までは触れないでもらえるかな?」
「ディナーに合わせてサプライズってわけか」
「そういうこと。沙耶とは既に口裏を合わせているから」
「分かった、かまわないよ」
「ありがとう」
凛が作業に取りかかる。
完成まであと少しの布団作りだ。
「俺も突っ立ってないで仕事仕事っと」
森で針葉樹の葉を大量に集めた。
それらを持って砂辺に行き、狼煙を上げる。
狼煙用の焚き火は生きていたが、肝心の葉が燃え尽きていた。
葉のない焚き火が上げるのは煙でなく炎だ。
「こんなものだな」
息を吹き返した狼煙を眺めながら額の汗を拭う。
「もはや救助なんざ来ないに違いないが、それでも明日まではきっちりしておかないとな」
救助が望めるのは遭難から3日までだ。
既に6日目なわけだから、捜索を打ち切った可能性すらある。
「せっちゃーん!」
ラフトから声が聞こえてくる。
振り返ると、沙耶がこちらに手招きしていた。
いつの間にか戻っていて、今は朝食を仕込んでいる。
「どうした、何か手伝いが必要か?」
沙耶は「おう!」と元気よく答えた。
「もうすぐ朝ご飯ができるから陽葵を起こしてきて!」
てっきり料理の手伝いかと思った俺は勝手に拍子抜け。
「いいだろう」
起こすなら外から大声で名前を呼べばいいのではないか。
そう思いつつ、俺はラフトに向かった。
(おっほ、おほほー! これはこれは……!)
ラフトに入って感動する。
そこで寝ている陽葵はあられもない姿をしていた。
度重なる寝返りによってスカートがめくれあがっているのだ。
剥き出しの白いパンツがこちらに向いている。
彼女を起こすよう頼んできた沙耶に感謝だ。
「陽葵、そろそろ朝――いや、待てよ」
起こそうとして思った。
このままでは俺がパンツを見たとバレかねない。
(淑女を守るのも紳士の務め……!)
起こす前にスカートを調整しておくことにした。
忍び寄るように陽葵へ近づき、大きく開いた股の間に腰を下ろす。
腹部にあるスカートの端を摘まみ、そっと脚のほうへ引っ張る。
慎重に……慎重に……慎重に……。
だが、次の瞬間。
「うふふぅ、くすぐったいってばぁ!」
陽葵が体を横に捻った。
それと同時に彼女の右足が上がり、俺の頸動脈を捉える。
「グガァァッ!」
派手に転がる俺。
意識が飛ぶかと思った。
「ほぇ?」
間の抜けた声で目を覚ます陽葵。
彼女は体を起こすと、すぐ傍でもがく俺を見て言った。
「おはよー、刹那君!」
「あ、あぁ、おはよう。実にイイ蹴りだったぜ……」
「イイ蹴りって……もしかして、私、寝てる間にやっちゃった!?」
「この島で一番の攻撃だったよ」
「ご、ごめん! 記憶にないけど蹴っちゃってごめん!」
陽葵が俺の前で腰を屈めて謝る。
それによって俺の体力は急回復した。
「気にしなくていいよ、おかげで元気がでた」
「おかげでって、どういうこと!?」
「気にするな。それより朝ご飯だぞ」
「あ、うん、分かった! 本当にごめんね!」
陽葵がラフトから出て行く。
(さっきのは眼福だったな……!)
俺は一人でニヤけた。
陽葵が目の前で屈んだ時、パンツが見えていたのだ。
スカートの隙間から、チラチラ、チラチラと。
それが俺を元気にさせてくれた。
(やっぱりパンティーってのは大胆に露出するよりもチラリと見える程度のほうが興奮できるな)
俺は大満足でラフトを出て、皆と朝ご飯を楽しんだ。
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