021 土器を作ろう
波打ち際の近くまで歩いた時に思った。
「バケツが欲しいな、2つほど」
魚を下処理する工程に〈血抜き〉がある。
今回の場合、数分は海水に浸ける必要があった。
よって、生魚用と血抜き用のバケツが欲しいところ。
竹の籠は軽くて丈夫だが、水を蓄えられないのが難点だ。
「せっかくだしバケツを作るか」
ということで、作業に取りかかる。
だが、その前にやっておくことがあった。
籠の中を海水で満たし続けることだ。
バケツを作っている間に魚が死んでは元も子もない。
なので、まずは籠を海中で固定しよう。
俺は近くにいた陽葵に声をかけた。
紐を持ってきてもらって、それを背負っている籠に括り付ける。
最後に籠を海に入れて、紐の反対側を岩に括り付けたら完了だ。
「これで籠の中の奴等が酸素不足で死なずに済む」
陽葵は「おー!」と拍手してから尋ねてきた。
「籠の中の奴等って?」
「スズキとカンパチ、あとホタテだ」
「えええええ! そんなご馳走が獲れたの!?」
「おうよ。ここの海は最高だ。資源がたっぷりだぜ」
「すごい! すごいよ刹那君!」
「なになに何の話ー?」
沙耶がやってくる。
その後ろには凛の姿も。
「刹那君がスズキとカンパチとホタテを獲ったんだって!」
「すげぇじゃん!」
「でも、どうやって獲ったの? ホタテはともかく、スズキとカンパチは手でホイホイ獲れるわけじゃないし」
「あーたしかに! どうやって獲ったのさ?」
「そりゃ、手でホイホイ獲ったよ。竹槍で突いたら劣化するし」
「やべぇ奴じゃん!」と笑う沙耶。
「まさかとは思ったけど、本当に手掴みで獲ったんだ……」
「それでそれで、籠を海に固定してどうするの!?」
陽葵が目を輝かせる。
「バケツを作るのさ。生魚用と血抜き用の」
「バケツを作る!? どうやって!?」
「土器で作るよ。縄文人の十八番だ」
「「「土器!?」」」
美少女たちが驚いている。
ドヤ顔で解説したいところだが、今は時間が惜しい。
強引に話を切り上げた。
「今から材料を調達してくる。作り方とか興味あるならその時に見学していってくれ。じゃ、また」
俺は保管庫へ行き、竹の籠を1つ取り出す。
「刹那が一緒だと飽きないなー!」
「毎日が発見の連続だよね」
「本当に刹那君はすごいよ」
背後から女性陣の嬉しい言葉が飛んできた。
聞こえていない振りをして、俺は森へ向かう。
その顔にはニチャァとした笑みが張り付いていた。
◇
土器を作るのに必要な材料は2つ。
粘土と砂だ。
砂は海辺でも手に入るが、粘土はそうもいかない。
そこで川の近くにやってきた。
案の定、あちらこちらに粘土が見受けられる。
「こんなものでいいだろう」
竹の籠に大量の粘土を詰め、川の水で手を洗って帰還した。
「おかえり、刹那」
「待ってました! サバイバルの鬼!」
「今から楽しみー!」
俺に気づくと、凛たちは作業をやめた。
「サバイバルの鬼ってわけじゃないが、気になるなら見ていけばいい」
俺は直ちに土器作りを開始する。
空いている砂辺に焚き火をこしらえた。
2つの土器を同時に作りたいので、焚き火も2つ用意する。
「まずは焚き火を作ります」
「なんで丁寧語!? ていうか見りゃ分かるよ! 巻いて巻いて!」
沙耶が右の人差し指をグルグル回す。
「巻くのはかまわないが、実は説明することがそれほどなくてな……」
と言いつつ、岩の上で粘土と砂を混ぜて練り込む。
「いや、今している作業を説明してよ! 何してるのさ!?」
「見ての通り粘土と砂を混ぜつつ、練り練りして空気を抜いている」
「岩の上でやるのは意味があるの?」と凛。
「台の代わりだ。この岩もそうだけど、平らな台の上だとやりやすい」
「なるほど」
練り終わったら次の工程だ。
「自分が望む形に整えていく。今回はバケツが欲しいわけだからバケツの形にした。特にコツとかはないけど、あえて言うなら薄くし過ぎないことだ。薄いとちょっとしたことで割れてしまうからな」
こうしてバケツの形に仕上げたら最後の工程へ。
「あとは焼いて終了だ。縄文土器みたいにオシャレなデザインにしたいなら、焼く前に竹串でも使って模様を描くといい」
焚き火の中に作ったものをぶち込む。
強烈な炎が土器をガンガンに焼き上げていく。
「本当は弱火から始めて徐々に火力を上げていくのがいいんだけど、そこまで質にこだわっていないから強火でサクッと仕上げるよ。ま、それでも結構な時間がかかるけどな」
これにて土器作りの講座は修了だ。
「土器って簡単に作れるんだねー! あたしらでも作れそうじゃん!」
「余裕で作れるよ。見ての通り粘土と砂を混ぜてから焼くだけだし」
「今度、みんなで芸術大会しようよ! 一番イイ土器を作った人の勝ちってことでさ!」
沙耶が「いいよね? いいよね?」と俺たちを見る。
「別にかまわないけど、前みたいなイカサマはするなよ?」
先日のババ抜きを思い出す。
彼女らは結託して俺を嵌めやがったのだ。
「おいおい、まだ根に持ってるのかよぉ! 小さい男だなぁ!」
ガハハハハと男のような笑い方をする沙耶。
「イカサマしようにもできないからね、芸術大会だと」
「凛の言う通りだよ! インチキ不可! だから安心しなって!」
「どうだかな。祖母にクソみたいな投資信託を売り付けていた営業マンも似たようなセリフを吐いていたぜ」
俺は苦笑いを浮かべ、ラフトをチラリと見た。
凛たちの家具作りが佳境を迎えている。
寂しそうにこちらを見つめるブタ君と目が合った。
「土器が焼き終わるまで時間があるし、俺も手伝うよ」
「ありがとう、助かる」
凛が嬉しそうに微笑む。
「で、俺はなにをすればいいかな?」
「新しい竹を調達してくれると嬉しいかも、竹の備蓄がもうないから」
「オーケー、任せろ」
森から戻ったばかりだが、またしても森へ行くことに。
しかし、その前に。
「凛たちを守ってくれてありがとうな」
ブタ君を労っておく。
感謝を伝え、特大の体を丁寧に撫でてやる。
「ブヒヒィー! ブヒィー!」
ブタ君が嬉しそうに体を擦り付けてきた。
毎日洗うようになったからか体臭が弱まっている。
「竹を伐採してくるから、引き続き皆の警護を頼むぞ」
「ブヒッ!」
俺はブタ君の背中をポンポンと叩き、森へ向かった。














