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019 夢野 凛

 波のさざめく音が聞こえて目が覚めた。


 外の音に空気の感触……ラフトから出るまでもなく分かる。

 今日の天気も快晴だ。


 近くに置いていた腕時計を付けて時間を確認する。

 ちょうど5時30分になったところだった。


(この島に来てからすっかり早起きが身についたな)


 俺は4日目の行動を始めた。


「もうちょっと寝させてよぉ」


 立ち上がった瞬間、沙耶が寝言を言った。


 彼女は陽葵に抱きつきながら眠っている。

 ボインちゃんを枕の代わりにして気持ちよさそうだ。

 羨ましい。


「うぅぅ……あっ……らめぇ……」


 沙耶が頭を動かす度に、陽葵は妙な声を出した。


(おほほ、イイ! すごくイイ!)


 恍惚とした表情をしていて、俺はすこぶるニッコリ。

 そんな朝の素晴らしい一幕を堪能してから凛の姿を探す。


 ラフト内にはいない。

 既に起きているようだ。

 相変わらず早起きである。


(おっ、いたいた)


 ラフトを出るとすぐ近くに凛がいた。

 朝っぱらから竹細工をしているようだ。

 俺に気づくと、彼女は手を止めて立ち上がった。


「おお、勇者よ! 永久(とこしえ)の闇より目覚めたか!」


「えっ」


 驚く俺。

 そんな俺を見て、凛が「冗談だよ」と笑った。


「刹那の中二病が鳴りを潜めたから、私が代わりにやってみたの」


「おいおい、凛ってそんなキャラだったか?」


「沙耶と陽葵が寝ているから少しはっちゃけてみようかなって」


 えらく可愛らしいはっちゃけぶりだ。


「それで、凛は朝から何をしているんだ?」


 彼女の持っている竹筒に目を向ける。

 大きめのスマホと同程度のサイズにカットされていた。


「竹を短くしてコップを作っていたの。長いままだと飲みにくいから。それに、お箸やお皿があるのにコップだけないっていうのもね」


「なるほど。思いつかなかったよ」


「本当に?」


「どうやら俺は生活感というものに疎いようだ。コップだけじゃなくて、箸なんかも言われるまで気にならなかった」


 全て凛の発案によるもので、俺はそのことに感謝している。

 食器類があると生活の雰囲気ががらりと変わるのだ。


 たしか今日、凛は机やベンチを作る予定だったはず。

 完成すれば、ますます現代人らしい生活が可能になるだろう。


「竹細工、必要なら手伝うけど」


「ううん、大丈夫」


「なら別のことをしておこう」


 朝食は皆が起きてからになる。

 それまで間、俺は洗濯物を畳むことにした。

 近くの物干し竿から乾いた衣類を回収して、地べたに座る。

 バナナの皮の上に洗濯物の山を作り、1つずつ丁寧に畳んでいく。


「下着に触るけど問題ないよな?」


「うん。そういうのに興奮する変態じゃないでしょ、刹那」


「ハハッ、まぁな、当然だろ」


 俺は何食わぬ顔で美少女たちの下着に手を伸ばす。

 凛の期待を裏切る変態なので、ばっちり見事に興奮した。


 ついでに女性陣の胸のサイズも把握する。

 陽葵はF、沙耶はD、凛はB……忘れないようDNAに刻んでおこう。


「そういえばさ」


「は、はは、はいぃぃ!?」


 いきなり聞こえた凛の声に慌てる俺。

 すぐ傍にいたブタ君が驚いて跳びはねた。


「なんでそんなに驚くの!?」


「すまん、ぼんやりしていたから」


「朝だから頭がボーっとしているんだね」


「そ、そういうことだ」


 淫らな妄想をしていたとは言えない。

 適当に合わせて、墓穴を掘る前に話を進めた。


「で、そういえばどうした?」


「あ、そうそう。そういえば、刹那って体育の成績はどうだったの?」


「体育? 別に普通だけど」


 凛は「だよねー」と言いつつ、真顔で俺を見た。


「なんで普通なの?」


「なんでって、どういうことだ?」


 凛の言いたいことが分からない。


「この島の刹那は明らかに普通じゃないでしょ? 例えば初日に見せた垂直跳びを繰り返して木のてっぺんに登るやつとか、パンチで木をへし折るやつとか」


「ふむ」


「体育の授業や身体測定でそういうのって分かるじゃない? 垂直跳びなんかは授業でもやるわけだし」


「そのことか」


 ようやく凛の言いたいことが分かった。


「そんなの答えは一つしかないだろう。俺は授業じゃ本気を出していない」


「なんで? 成績に関わるのに」


「能ある鷹は爪を隠すって言うだろ? 授業で本気は出さない主義なんだ」


「そっか、学校では中二病を患っていたから……」


「そういうことだ」


「じゃあ、テストの成績が微妙なのも本気じゃなかったんだ?」


「それは本気だ」


「ダメじゃん」


 凛は声に出して笑った。


「この島に来てから思ったが、凛はよく笑うようになったな」


「そう?」


「学校で今のように笑っている姿を見たことは一度もないぞ」


「いわれてみればたしかに。仮面が剥がれたんだろうね」


「仮面?」


「刹那ほどじゃないけど、私も中二病っぽいところがあるから。感情を表に出さないクールな女、みたいなのに憧れているの」


「すると仮面が外れた今は沙耶みたいに弾けるのか?」


「そこまで変わらないよ。笑うことが増えるくらい。今みたいにね」


「俺と違って控え目なキャラ作りだな」


「私は普通の高校生だからね」


 俺は話を終えて立ち上がり、畳んだ洗濯物をラフトの中に入れる。

 沙耶と陽葵はいまだに夢の中だ。


「沙耶と陽葵、まだ寝てるの?」と凛。


「ああ、スヤスヤだぜ」


「もう少しして起きなかったら起こそっか」


「だな」


 俺は森に行ってキノコを採取する。

 白い果肉が特徴的なよく分からない大きな果物も採っておく。

 栄養面に配慮してバナナもゲットしてからラフトに戻った。


「今日の朝食はキノコと果物だぜ」


「今日はっていうか、いつもだけどね」


「それを言ったらおしまいだ」


 朝食の準備を進めていく。

 途中から凛も作業に加わった。

 竹のコップを作り終えたようだ。


「刹那はもう決めてるの?」


「何が?」


「7日経っても救助が来なかった場合のこと。この島に残るか、それともイカダを作って脱出を試みるか」


 凛の視線が海に向かう。

 手前の砂浜には焚き火が設置されていた。

 炎の上に積まれた針葉樹の葉が狼煙を上げている。

 凛が用意したものだ。


「ぶっちゃけ、俺はどっちでもいいんだ」


「どっちでもいい?」


「この島に俺しかいないなら今すぐにでも脱出を試みるだろう。1人だと何も楽しくないからな。だが、ここには凛たちがいる。スクールカースト最上位の美少女たちと一緒に生活できるなんて夢のようだし、ましてやこうしてワイワイ楽しめているなんて奇跡だ。だから、この生活が続くなら日本に帰れなくても気にしない」


 それが俺の本音だった。


「美少女って、そんな大袈裟な」


 凛は恥ずかしそうに笑い、それからこう言った。


「日本に戻っても私たちの関係は変わらないよ」


「そうなのか?」


「だって、もう親友でしょ? 私だけじゃない。沙耶や陽葵だって刹那のことを大事な仲間だって認識しているよ。私たちの絆は、この島にいる間の一過性のものなんかじゃない」


 凛の言葉が胸に響く。

 親友や仲間なんて言われたのは初めてのことだ。

 それもこんな美少女から。

 だから俺は、喜びを噛み締めて言った。


「だったらもう帰りたい! 無人島、満足! 日本、最高!」


「あはは、すごい手のひら返しだね」


 凛が口元に手を当てて笑う。


「で、凛はどうするか決めたか? 戻るか、イカダで脱出か」


「私は……」


 凛が口を開いたその時。


「かぁー今日もよく寝た!」


「おはよー刹那君、それに凛も! ブタ君もおはよ!」


 沙耶と陽葵がラフトから出てきた。

 それによって、俺と凛の会話が打ち切られた。


「朝ご飯にしよっか」と凛。


「そうだな」


 今日も頑張っていこう。

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