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014 釣りの準備

 3日目が始まった。

 起きたら竹筒の水で顔を洗い、朝食の準備に取りかかる。


 寝坊助の沙耶と陽葵が起きたら食事の時間だ。

 ライフラフトの近くにある焚き火を囲み、皆で言う。


「「「「いただきます!」」」」


 朝食は焼いたキノコと近くの木に成っているフルーツだ。

 砂辺にこしらえている焚き火からは、もくもくと煙が上がっていた。


 救助要請の狼煙だ。

 煙の見える夕暮れ時まで絶えず上げているが、今のところ成果はない。

 救助どころか漁船が近づく気配すらなかった。


「今日こそ来てくれよなー、救助の人」


 竹の串に刺さったキノコを頬張る沙耶。

 生活が安定しているからか、声に緊迫感がこもっていない。


「救助、本当に来るのかな?」


 陽葵が不安そうに俺を見る。


「そんな目で見られてもなんとも言えないな」


 と言いつつ、俺はこう続けた。


「ただ、まだ慌てる段階じゃない。生活基盤は十分に築けているし、ライフラフトを守って健康に気をつけてさえいれば耐えられるさ」


「刹那の言う“慌てる段階”って2週間後くらい?」と凛。


「いや、1週間だな。今を3日目として、7日目までは救助を待ちたい」


「それでも来なかったら?」


「救助は諦めるのが現実的だ」


「ちょっと、それってここから出られないってこと!?」


 沙耶がギッと俺を睨む。

 睨まれても困るのだが……俺は気にしないで答えた。


「救助は来ないが、出られないわけじゃない」


「どういうこと?」


「自力で脱出すりゃいいんだよ」


「「「――!」」」


 俺はライフラフトに視線を向ける。


「ライフラフトを囲っている木をバラしてイカダにするんだ。で、それをライフラフトと紐で連結させて、イカダを漕いで海を渡る。夜や悪天候の時はライフラフトの中にこもって休めばいいし、食糧さえ念入りに用意しておけば脱出できる可能性はあるよ」


「それ名案じゃん! 今すぐやろうよ!」


「言っておいてなんだがオススメしないな、その選択肢は」


「なんでさー?」


「目的地の不明な海をイカダで進むなんて危険だからだ。何かあってもこの島まで戻れるとは限らないし、ライフラフトだってどうなるか分からない。どちらかといえば死ぬ確率が高いとすら言えるだろう」


「うっそぉーん!」


「ほんとーん!」


 沙耶の口調を真似してみる。

 すると、沙耶がブッと吹き出した。


「ほんとーんは無理あるっしょ」


「そういうものか」


 脱線する前に、「とにかく」と話を進める。


「簡単に言ったが、実際にやるとなったら覚悟が必要だ。8日目以降に救助が来る可能性はほぼ皆無だが、完全にゼロってわけじゃない。だから、島での生活を継続して一縷の望みに賭けるのもアリだ」


「どっちがいいのかなぁ」


「それは7日目の終わりにでも考えたらいいさ。その時には救助されてこの島にいない可能性だってあるんだから」


 俺は残っているキノコを食い尽くして、食事と会話を終えた。


 ◇


 朝食後は釣り竿を作ることになった。


「魚! 魚が食べたいよー! 日本人と言えば魚っしょ!」


 などと沙耶が喚き散らしたからだ。

 当然、日本人らしさに満ちた俺はこう返した。


「だったら釣りより漁のほうがいいよ」


 すると沙耶は「おいおい、天才か?」と目を輝かせた。

 ――ということはなく、「分かってねーなぁ!」とため息をついた。


「漁ってつまんないじゃん! 仕事感があってさ!」


 そんなわけで釣りをするらしいので、釣り竿を作る。

 ライフラフトの傍に腰を下ろして作業開始だ。


「沙耶、ブタ君を連れて森に行って適当な蔓を手に入れてきてくれ」


「蔓を? 別にいいけど、何に使うの?」


「釣り糸を作るんだ。竿だけじゃ釣りはできないだろ?」


「そういえばそうだった! だったら釣り針もいるんじゃない?」


「その点は任せろ」


「りょーかい! じゃ、行ってくる!」


 そう言って、沙耶はすぐ隣にいたブタ君に跨がる。

 なんとブタ君を馬と同じ感覚で利用するつもりのようだ。

 (あぶみ)や手綱は必要ない模様。


「行っけー、ブタ君! 夢は凱旋門賞だ!」


「ブヒー!」


 絶対に凱旋門賞が何かを分かっていないブタ君が走り始めた。


「まずはエリザベス女王杯から……いや、そういうことじゃないな」


 俺は作業を始めた。

 竹を縦に裂いて紐状にし、それを編んで籠を作る。

 魚や山菜など、収穫した食材を放り込むのに使うための物だ。


「あとはこうして……完成だ!」


 約30秒でご立派な籠を完成させる。


「戦闘だけじゃなくて手先の器用さも異常だったなんてね」


 凛が言う。

 彼女はすぐ隣で作業を眺めていた。


「えいっ! もー、なんで! なんで上手くいかないのぉー!」


 約20メートル離れたところで、陽葵が火熾しの特訓をしている。

 既に成功間近だから、今日中にきりもみ式をマスターしそうだ。


「竹の籠、もっと作っても問題ない?」


 陽葵を眺めていると凛が尋ねてきた。


「もちろん。竹はまだまだあるし、足りなくなったら竹林に行って補充すればいいからな」


「じゃあ私も竹細工に挑戦してもいい? 竹の籠もそうだけど、食器とかも作ってみたい。折敷(おしき)とか、お皿とか。いい感じじゃない?」


 折敷とはトレーのことだ。

 裂いた竹を編んで作るつもりだろう。籠を同じ要領だ。


「たしかにいい感じだ。竹の皿はどうやって作るつもりだ?」


「竹を縦に割っただけにしようかなって。あまり凝ったのは作れないから」


「いい考えだ」


「ならオッケーってことね?」


「うむ。完成すれば現代らしさに満ちた和の雰囲気を感じられるだろう。作業量も大して多くないし、是非とも頑張ってくれ。何か分からないことがあったらいつでも訊いてくれよな」


「ありがとう」


 竹細工を凛に任せ、俺は波打ち際に行く。

 そこで転がっていた骨をいくつか拾った。

 昨日バラした野ウサギの骨だ。


「待たせたなー!」


 早くも沙耶が戻ってきた。

 手には丈夫そうな蔓を持っている。

 質の高い釣り糸が作れそうだ。


「よし、釣り糸を作るとしよう」


 凛と陽葵の中間にあたる場所で腰を下ろす。

 すぐ横に骨を置いたら、沙耶から蔓を受け取る。


「こんなのでどうやって釣り糸を作るのさ? 普通の糸より遥かに太いよ」


「まぁ見てなって」


 俺は手刀で蔓を加工する。

 側枝を除去し、長さも調整しておく。

 ここからが糸作りだ。


「まずはこうやってチビチビと繊維を集めていく」


 カットした蔓の上端を爪で摘まみ、スッと皮を剥く。

 一般的な糸よりも遥かに細いヒョロヒョロの繊維が手に入った。

 これを繰り返して、蔓から大量の繊維を調達する。


「あとはこれらの繊維を()り合わせるだけだ」


「撚り合わせるってどういう意味?」


「螺旋状に捻れってことだ」


 答えながら実演する。


「あー、DNAみたいな感じにするわけだ」


「つまり螺旋状に捻る――撚り合わせるってことだ」


「なるほど! 理解した!」


 撚り合わせると釣り糸の完成だ。

 撚り合わせたことで強度が倍増している。

 この糸なら大人を吊し上げることだってできるだろう。


「俺は釣り針を作るから、この糸を適当な竹の竿につけておいてくれ。竿の先端に打製石器で窪みを作ってやると、糸が引っかかっていい感じになるぜ」


「了解!」


 沙耶は糸を持って凛のところへ行き、竿に使えそうな竹を物色する。

 手頃な竿を見つけると、俺の傍に戻ってきて糸を装着し始めた。

 思っていたよりも手先が器用だ。


「刹那、それは何してるのー?」


「野ウサギの骨を削って釣り針にしているんだ」


 俺は骨にデコピンを食らわせ、形を整えていく。

 何度目かのデコピンで程よい大きさのギザギザした釣り針が完成した。


「すっご! マジで動物の骨を釣り針にしちゃったよ! 刹那くらいでしょ、そんなことができるの!」


「そんなことないよ。昔の人は動物の骨を釣り針にしていたんだ。縄文人なんかはシカの角で釣り針を作っていたらしいぜ」


「そうなんだ!? すごいなー! 昔の人!」


 そんなこんなで沙耶も作業を終える。

 あとは竹の竿から垂れる糸に釣り針を装着したらおしまい。


「竹と植物と動物の骨で作る原始的な釣り竿の完成だ」


「やったー! ミッションコンプリートッ!」


「いや、ミッションはこれからだろ。魚を釣りに行くぞ」


「そうだった!」


 沙耶が「えへへ」と舌を出して笑う。

 スクールカースト最上位がやるとただの可愛いチートだ。


「ブタ君、凛と陽葵の警護を頼むぞ」


「ブヒーッ!」


 この場をブタ君に任せ、俺と沙耶は川に向かった。

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