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はちみつ姫は吸血鬼の御馳走です  作者: ちょこ。
序章
2/3

血液タブレットの精製

「お待たせしてすみません。」

 

 書類の上を滑る万年筆の動きが止まり切れ長の黒い瞳と視線がぶつかった。さらりとした艶のある黒髪はワックスで綺麗に撫でつけられている。


「あぁ…相川。」

「お待たせしてしまって申し訳ありません。」

「まぁ、なんだ……腹減ってるとこ悪いね?」

「なっ…!?」


 先程の話は丸聞こえだったらしく、おもちゃを見つけたかの様に楽しそうに笑みを浮かべる獅堂さんは意地悪だ。


そして、タイミングを見計らったかのように、盛大に腹の虫が鳴った。空気をまったくもって読んでくれない自分の腹の虫に泣きたくなった。


「……ぐぅって、お前、漫画かよ…」


(タイミング読んでよ、私の馬鹿!!!)


 一気に顔に熱が集まって羞恥に震える私を見て、獅堂さんは愉快そうに肩を揺らして笑い始めた。


普段は機嫌悪そうに眉間に皺を寄せていることが多いからちょっとレアな表情だ。笑われてる対象が私でなければ、私の気持ちも穏やかだったに違いない。


「お前、笑わせるなよ。」

「忘れてください!」

「それにしても、お前盛大すぎ……」


 いい加減笑うのをやめて欲しいのに、ツボにはまったのか今度はお腹を抱えて笑い始めた。次第に周囲から好奇の視線が集まっているのを背中に感じ、余計に居たたまれない気持ちになる。


「用が無いなら休憩頂きますけど!?」

「待て待て。悪かった。」


 私のその言葉にさすがに悪いと思ったのか、申し訳なさそうにちゃんと用はあるんだと手を合わせる獅堂さん。その姿を見て、仕方がないなぁと吊り上げていたであろう眉を下げた。


「私もすみませんでした。さっきの事は忘れて頂ければ大丈夫なので、要件をお伺いさせて下さい!」


 少し身を乗り出して食い込みに質問を投げ掛ける。デスクに手をついた所為か、至近距離で顔を合わせる形になってしまった。


「お前ね…、いや何でもない。」


 絡まった視線に一瞬だけ獅堂さんの瞳は驚いた様に見開かれた、様な気がした。気のせいだったのか、どうやら本題に戻るらしく机の上に重なる文献を幾つか重ねて私に差し出した。


「あーなんだ、要件だったな。急で申し訳ないが、お前には吸血鬼の血液タブレットの精製をしてもらいたい。これ、参考資料な。」

「へっ???」


 咄嗟に間抜けな声が出てしまう。吸血鬼やら血液タブレットやら何の事だか理解出来なかった私は、聞き間違いだと考えて笑顔を張り付けてもう一度お願いしますと伝えた。


「だから、吸血鬼。」

()()()()()()ですか?」


 二度も言わせるなと言わんばかりの獅堂さんの表情に「あ、これ本気のやつなんですね…」漏れてしまった私の声は無視なのか、聞こえなかったのか、返事は返ってこなかった。


「はぁ。」


 またもや気の抜けた声を上げる私に今度は満足そうな笑みを浮かべる獅堂さんという謎の組み合わせ。


 青天の霹靂とは、正にこの事だと思った。さも当たり前の様に言ってのける上司を思い出して本日何度目かの溜め息を吐いた。

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