知らない世界
初めまして!『ちょこ。』です!
楽しんで頂けると幸いです(*/∀\*)
『伝説などで登場する闇の中で血を求める存在であるとされる吸血鬼。それはただの伝説ではなく、実在する存在である。何故なら、彼らは私達人間が気付かないだけで共存しているのである。』
『吸人間の血を主食としていた彼ら。しかし、時が流れるにつれて人間に紛れてひっそりと生活をするようになり、伝説とされるようになった。』
『そして、彼らはいつしか人の血を飲む必要も無くなり、太陽の下でも生活が出来る様になった。彼らが『物語の中だけの怪物』となったのも、普段は血を飲む必要が無くなり人を襲う必要が無くなったからだ。』
『何故なら、吸血鬼の栄養分となる血液のタブレットの精製に成功したからである。』
パタリと文献を閉じ、小さなため息をついた。上司から唐突に告げられた部署移動先は、吸血鬼専用の血液タブレット部門。吸血鬼なんて、小説の中に出てくる登場人物と認識していた私はかなり面食らった。そして、追い討ちをかけるように資料室の鍵を渡されたのが先刻の事だった。
「吸血衝動を抑えることの出来る薬、ねぇ……」
『血液タブレット』は、文献によると吸血作用を抑えることの出来る製薬のようだ。まぁ、それは名前の通りというべきか。
そして、吸血鬼には人間が食物を摂取することに得る栄養分を血液で摂取するという人間と大きく異なった特徴がある。その吸血衝動を薬によって抑えることにより、共存に成功したらしい。そして、現在では人間に紛れ、吸血鬼という正体を隠して生活をしているらしいということが文献から察せられた。
溜め息をついて壁に掛かる時計を見上げる。時計は既に夜の九時を回っており、おもむろに口を付けた珈琲はすっかり冷たくなってしまっている。
「こんな時間……急いで帰らなきゃ…」
先程まで慌ただしくしていた社員達はいつの間にか私を残して退社していた。どうして誰も声を掛けてくれないのかしらと、少し苛立ちながら急いで文献と資料を片付ける。
一冊ずつ棚に資料と文献を戻していく。『吸血鬼の生態』『吸血鬼の吸血衝動とは』『血液タブレットの精製方法』etc…
正直まだまだ資料が足りないし、吸血鬼なんて物語上に登場する化け物が現実に存在するだなんて到底理解出来なかった。
(吸血鬼なんて本当に存在するの?)
事の起こりは数時間前に遡る――
私、相川陽菜は薬学部を卒業し、大手の製薬会社に就職することになり、念願だった研究室へと配属された。日々の業務は新薬の研究だったり、今ある製薬の再研究等様々。入社して三年が経ち、仕事にも慣れてきたと思うし、先輩や同僚に頼りにしてもらっている実感がありとてもやりがいのある仕事だ。
その日もいつも通りの一日だった。棚からお気に入りのマグカップを取り出して珈琲を注ぎ、研究結果をまとめる為にパソコンに向かうのが私の日課だ。正直このデスクワークが苦手だなんて弱音を吐いていられないけれど。
気を引き締め直して、先程の仕事の続きに取り組む為にパソコンへと向かった。キーボードの定位置においた指を動かし、資料の仕上げをする。提出資料に不備があるといけないから、最終確認はもちろんしてもらうんだけど、研究結果を分かりやすくまとめるのが私も私の仕事だ。誤字脱字がないかを確認し最後に保存をし、PDFファイルを変更したら完成だ。
「こんなもんかな。」
一仕事終えた私は、背もたれに寄りかかり伸びあがる様して身体を伸ばした。お腹も空いたし、そろそろお昼休憩に入ろうかな。
(今日の日替わり定食は何だろう?)
「…な、ひーな、ちょっと陽菜ってば!部長が呼んでる。」
「んー?ごめん、ちょっと集中してて聞こえなかった。何か言った?」
軽く肩を叩かれたかと思うと隣の席に座る同僚の一ノ瀬絵美が顎で獅堂さんを指し示す様な仕草をして、ほら早くと視線を送ってくる。何度も声を掛けられていたらしく隣に座る絵美は小さく苦笑いを浮かべていた。お昼ご飯の事を考えてましたなんて恥ずかしいからだまっておこうと心の中で小さく呟いた。
どうやら、上司である獅堂悟に呼ばれていたらしい。ちらりと声の掛けられた方向である、右奥のデスクに座る彼をを見ると忙しいのか、書類とにらめっこをしている。時折眉間に皺が寄せられ、それでも端正な顔立ちは崩れない様だ。気だるそうな雰囲気と無作法に緩められたネクタイからは苛立ちが垣間見えるような気がした。
獅堂さんに聞こえない様にか、絵美が身体を傾けてこそこそと耳打ちをしてくる。ふわりと揺れる栗色の髪の毛から大人の香水の香りがした。
「まずいよ陽菜。今日、獅堂さん機嫌悪そうだって。」
「これからご飯行こうかと思ってたのに…とりあえず行ってくる。」
「まったく、相変わらずね。とにかく、早くいってらっしゃい!」
他人事だと思ってるのか、ヒラヒラと手を振って検討を祈るとかなんとか言って笑っている絵美が恨めしい。ある程度区切りがついた所で作業を中断し、獅堂さんのデスク向かう。
(他人事だと思って……よし、さっさと終わらせてご飯にしようっと!)
そんな事を考えていると、獅堂さんのデスクに到着していた。気を取り直して、一呼吸置いて失礼しますと声をかけた。
act.1如何でしたでしょうか?続きます!