温かな食卓の家
仕事でちょっかいをかけてくる人がいます、ただそれが緊張感を生むきっかけになっていると思うのです。
「食べて見たかったな、その卵ご飯」
思ったことが口をついた。
それを聞いたコトネは口に含んだご飯と肉じゃがをゴックンと飲み込むと、席をたって一言
「待ってて」
タッタタ、
行った、と思ったらすぐに戻ってきた。
その手には生卵と醤油が、
「卵ご飯」
そういうとまだ手をつけていないご飯の真ん中を箸で穴を開けるとそこに卵を割った。
そして混ぜる。
しばらく混ぜると、醤油を適量入れてさらに混ぜる。
時間にして1分ほどだろう。
先ほど話に出てた卵ご飯の出来上がりだ。
「はい」
渡された茶碗にはホッカホカのご飯の香りが卵と醤油の匂いを運んできて食欲をそそる。
「ありがとう、コトネ」
「うんっ」
箸をゆっくりと卵ご飯の中に潜らせてゆっくりと持ち上げて口の中に運ぶ。
「ああ、美味い」
その言葉でコトネは笑顔になった。
リィン
コトネが笑うと鈴がなる。
そんなどうでもいい思考が嬉しくてオカズの肉じゃがにも手をつける。
「美味い」
それしか出てこない。
口の中で味がいっぱいになったら、おひたしで一旦落ち着ける。
ほうれん草の味がまるで本棚を整理するみたいに卵ご飯と肉じゃがの味を整えてくれる。
ゴックン
喉を鳴らして飲み込む、いつもなら何も考えないでする動作も新鮮で正面に一緒に食事をする相手がいることがとても幸福なことに感じた。
ああ、
ーーーーーーポトリ
「歩夢?」
「いや、なんでもない。それよりおかわりもらえるかな?」
一瞬、脳裏によぎったのは自分の隣で一緒に食事する両親だったかもしれない。
その日、初めてがたくさんあった日だった。
不思議で温かい、不幸が当たり前だった男は久方ぶりに深い眠りについた。
そして思った、次の日は何があるのだろう?
1ヶ月、自分はどれほどの幸福を知ることになるのだろうか?
「久方ぶりに客が来たようですね」
自らがはった結界に知らない気配が入ったことに魔女の口元は薄く笑みをつくる。
「外の人間は知らない、世界がどれだけ危険に満ちているのかを、それは薄皮一枚の氷の上を走って渡るほど危ない行為であることも……」
優雅に月の光を浴びて魔女の姿があらわになった。
それは昔の物語で語られるようなローブを着たお婆さんなどではない。
若い金髪の女性しかも着ている服は白いシャツにタイトスカート、現代で通りを歩けば仕事ができるキャリアウーマンに見えるほどできる女に見える魔女は自分が住処にしている高層マンションのベランダで誰かに話しかけるように言葉を続ける。
「あの子は我慢できるだろうか?それとも世界を滅ぼしても自分の望みを叶えようとするのか…」
その結果に介入しようと思わない。
だが結果自体には興味がある。
ただの傍観者として劇場でオペラでも鑑賞するみたいにあの子の選択をワイン片手に見つめていたい。
「しかし、魔女は劇の場を荒らすのが習わし」
パチンッーー!
ニャー
魔女が指を鳴らす、するとまるで影から浮かび上がるように1匹の白猫が現れた。
「様子を見てきて、そしてちょっとした悪戯を」
月がまた雲に覆われたそれと同時に白猫はまた影の中へと消える。
暗くなったベランダで魔女はこれから起こることを密かに楽しみにしながら緑色の瞳を閉じた。
いい夢がまれますように。
まるでそれが魔女からの贈り物のようにその言葉は暗闇の中へ消えた。
幸福な時を壊すのが嫌だと感じるのはやっぱり自分が物語だけでも幸せでありたい裏返しのような気がします。
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