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幽霊日記  作者: Rain
2/2

現実と非現実

一年半振りの投稿です。私自身かなりの気分屋でして、久しぶりに書きたい熱に襲われ2話を書きました。いやぁ楽しい!しかし慣れないことはやはり難しいものです。頑張って書いたので最後まで読んで下さると幸いです。


ビリリリリリリッ、ビリリリリリリッ、

ビッーカチャ

けたたましく鳴り響く目覚まし時計の音。

ー朝だー

カーテンの隙間から漏れ出た棒状の光の中を、ハウスダストがまるでクリオネか何かのように神秘的に舞っている。

ー8時ー

カッチン カッチン カッチン カッチンー

時計は依然、単調な音を刻み続ける。

「夢、か、、。」

そう呟くと、僕はベットから腰を上げ、まだ4部開きの目を擦りながらズルズルと洗面所へ歩を進めた。

ーパシャ!

冷たい。洗顔後鏡に映った自分の顔は、まだ相変わらずボーっとしている。先程から、昨日の出来事のことばかり考えている。頭から離れないのだ。無理もない、あんなに非現実的な話で、、

「わぁっ!」

思わず声を上げた。鏡に、丁度僕の右肩あたりに、白いワンピースを着た女性が立っているのだ。

「わぁっ!ちょっと」

「わぁって、失礼ね。私よ、カ、オ、リ!グッドモーニン!」

「グッドモーニン!じゃないよ!ビックリした、心臓止まりそうだったよ。」

ガハハハ、やってやった!といわんばかりの満面の笑みを浮かべたまま、香織は続ける。

「心臓?まだ動いてるだけましよ!わたしなんてもう止まっちゃってるんだから!」

ー笑えないー

「でも気をつけなよ!昨日だって玄関の鍵閉め忘れてたじゃない!そんなことしてると、人間も幽霊も家に入りたい放題よ!」

幽霊は開いていようが閉まっていようが同じじゃないか?と思ったが、そんなことを考えてい い。

ー確かに、いる。ー

「夢じゃなかったんだ。」

改めて感じる。圧倒的である。目の前の〝非現実〟が、空想と現実の垣根を軽々と跨ぎ、完全に〝現実〟としてあるのだ。そして改めて気づく。人間の脳ミソとは案外柔軟なものだ。僕の脳ミソは目の前で起こっている事実を殆ど完全に受け入れている。これだから信用ならないんだ、『常識』ってやつは、、、


ージョボ ジョボ ジョボ ジョボー

蛇口から垂れ流され続ける水の音で我に帰った。

床に落ちた歯ブラシを拾い上げ、軽く濯いでから蛇口を閉めると、乾いたハンドタオルを手に取る。

「で、今日はなにするの?」

「今日もまた片っ端から出版社を当たろうと、、」

そう言いながら電話帳を開けると、全ての番号に赤い二重線が引かれていた。

「いや、今日は、、」

「?」

「今日は、休みだ。」

「休みか〜。」

香りは何かを企んでいる。

「あっ!」

次の瞬間、彼女の口角が上がった。

「じゃあさ、ショッピングでも行こうよ!」

「ショッピング?」

久しぶりに耳にしたワード。高校に入ってからは、休みの日のほぼ100%を執筆に費やしていたからである。(時々生活費を稼ぐためにアルバイトに出ていたが。)そして気づく。そういえば、僕はここしばらく休日らしい休日を送った記憶がない。従って、こう一日中予定がポッカリ開いてしまった場合、何をすれば良いのだろうか、まるでわからない。

「ショッピング、知らないの?」

香織が物珍しそうに聞き返す。

「や、ショッピングは知ってるよ。知ってるけど、、」

「知ってるけど?」

「したことは、ない。」

「え、本当に?」

「執筆に必要な道具だったり食べ物だったりをデパートに買いに行くことはあるけど、、」

「なるほどね、、」

そういうと香織は、僕の着ている灰色のスウェットに目を移した。

「道理でボロボロな訳だ〜そんなん着てちゃいい仕事できないよ?」

「そ、そうかな、僕はこれ結構気に入ってるんだけどな、、」

「もう!なんでもいいから、ほら、支度して!」

それに対しての僕の次の一手を遮るように続ける。

「私、外で待ってるから。」

「え、外って、」

それはまずい、半透明の彼女がのうのうと家の前で待機していては、騒ぎにならない訳がないだろう。うちはゴーストハウスじゃない。

「ちょまてよ。」

呼び止めると、彼女は思い出したようにこう言った。

「あ、私、幽霊だった!」

こんなライトでポップな幽霊がいるかよ。なんかこう、幽霊ってモノのイメージを根底から覆されたけど、そりゃそうか。幽霊だって元は〝ニンゲン〟なんだから、一括りにできる筈もない。

ーキーン コーン カーン コーンー

近くの小学校のチャイムが、8時25分を告げた。そういえば久しく耳にしていなかった。

「もうこんな時間か。」

なんだ、この感覚。僕は今、時間に追われていない。いや、時間を追いかけていない、という方が適切かもしれない。なんだか、大船から冷たい海に放り出されたような感覚だ。そして気づいた。これこそ、小説家になると腹をくくった日から、僕が一番恐れていた状況であるということに。窓を開けてみた。車のエンジン音、踏切の音、革靴のカツカツという音ー

確かに聞こえる。昨日までまるで気がつかなかったありとあらゆる〝街の鼓動〟が、決壊したダムの濁流のように凄い勢いで僕の鼓膜にぶつかってくる。そして見える。国道に敷き詰められた色とりどりの自動車、ガタンガタンとうねりを上げて踏切を通過していく電車、交差点を複雑に混じり合う人々。

しかし、その鼓動の中に自分は存在しない。

ー社会から、切り離されたー

その実感がどっと込み上げてきた。

僕はふらふらと窓脇の壁に持たれかかる。とそのまま地面にズリズリと腰を下ろした。

「はぁ、、」

漏らした溜息をきっかけに全身の力が地面を伝って逃げていくのを感じた。

「おーい、準備まだー?」

そこに、飄々と戻ってきた香織だったが、床に崩れ堕ちた僕を見るなり声色が変わった。

「ちょっと、オサム、大丈夫?」

「、、、。」

「ねぇ?ねえってば?オサム?」

返事が無い僕に焦っている。

「今日は、、、」

「え?」

「今日は辞めておくよ。」

僕の様子を見て状況を悟ったのか、それ以上聞いてくることはなかった。

「そっか、わかったよ!」

香織は声のトーンを釣り上げ、陽気な声をあげた。しかし、僕にはそれに同調する元気は無かった。

「ハァ、、」

また溜息が漏れた。この2日間、僕はきっと一生分くらいの溜息を垂れ流し続けている気がする。

もう何もしたくない。ここから動きたくない。立ち上がったとして、どこに行けばいい?いや、どこかに行く必要なんてないか。だって、世界は僕を必要として居ないのだから。地球という広大なステージの中で繰り広げられる共同生活に、僕の付け入る隙なんて、残されて居ないのだから、、、


ーいやだー






「ちょ、どこ行くの?」

香織の声で我に返った時には、僕の身体は玄関のドアノブをこじ開け外に飛び出していた。

ー何をしているんだ?僕はー

悔しかった。いや、それ以上に焦っていた。何かに縋らなければ、この社会にしがみつかなければ、取り残されたら終わりだ。僕は走った。無論、目的地などない。ただ静止していることがあまりにも怖かった。


「待って!ちょっと待ってよ!」

その声で我にかえり立ち止まった。辺りを見渡すと、最寄駅の次のバス停まで来ていた。足の裏がヒリヒリと痛む。裸足だった。

「びっくりしたよー、ほんと!」

後から香織が追いついてきた。

彼女は幽霊なので息など切らしていなかったが、無論僕は人間である。

「ぜぇ ぜぇ ぜぇ」

不規則な呼吸を落ち着かせるべく、大きく深呼吸をした。

ーシャンシャンシャンシャンシャン…ー

絶え間なく降り注ぐ蝉時雨がやっと耳に入ってきた。

「暑いな,帰ろう。」

そういうと僕は額の汗を拭い、僕たちは元来た道をとぼとぼ引き返していった。






最後までお読みいただき本当にありがとうございます!!指摘、アドバイス等ございましたらコメントいただけると凄く励みになります!次話はまた気まぐれに投稿しますので、お楽しみに〜

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