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幽霊日記  作者: Rain
1/2

半透明な彼女

初めまして!はじめて小説っぽい物語を書いてみました、Rainと申します。思ったことありません?私の人生の主役は本当に私なのかってね。でも、気づいたんです。ほんのちょっとです。ほんのちょっとのことで、人生はたちまち見違えるようにドラマチックになるんです!

例えば、情熱的な恋愛をしてみるとか、熱中できる趣味を見つけるとか。あと、日常の中に潜むちょっとした非凡に気づいてみるっていうのも、ひとつの手かもしれません。

プロローグ


男は、自称小説家であった。

が、「他称」小説家ではなかった。

というのも、彼にはまるで才能がない。

茶封筒の入った大きな黒カバンを肩にかけ、いくつもの出版社を渡り歩くその姿をから、彼を「郵便屋」と呼ぶ者もいた。

郵便屋は、来る日も来る日もいくつもの出版社を訪ねた。何十、いや、何百回と突き返された茶封筒は、次第に角がとれ、ボロ雑巾のようにクシャクシャになっていた。

世間では休日の昼下がり、いつものように出版社からつまみ出された彼は、国立公園の噴水のわきに腰かけた。と、すかさずカバンの中から赤ペンと電話帳を取り出す。

「えーっと、次は、、、」

電話帳を見て彼は気づいた。所狭しと敷き詰められた出版社の電話番号、その全てに赤い二重線が引かれていることに。

そのとき、心の中でポキリと音がした。と、同時に彼の中に潜んでいた何かが、堰を切ったように溢れ出した。

「はぁ、、、」

思わず漏らしたため息を必死に飲み込もうとした、が、もはや手遅れだった。

それの正体が絶望感だと気づいた時には、涙が溢れていた。

「僕には、才能が、、ないのか、、、」

彼は気づいた。いや、本当はずっと前からわかっていたのかもしれない。

「そうだよな。そりゃそうだよ。ちょっと考えたらわかることだ。これだけやったんだぞ!これだけやってダメなら、もうそういうことじゃないか。」

気がつけば、小説家を夢見て上京してから、実に5年が経っていた。

「あぁ、わかったよ、認めますよ、認めればいいんだろ!いいさ、あぁそうですよ、無いんですよ!僕には、小説家になる才能なんて、、、」

「大丈夫?」

聞き覚えのある声に、思わず顔を上げた。

「だよね?やっぱオサムだよね!何してるの?こんなところで。」

「カオリ?」

そこにいたのは、幼馴染の香織だった。

家が近所で尚且つお互いの母親が同級生ということもあり、彼が物心ついた時からよく遊んでいたのだが、お互い大きくなるにつれ会う機会が減り、高校に入ってからはまるで会わなくなり、疎遠になっていた。

別にに、彼女に高身長で成績優秀尚且つスポーツ万能オマケに爽やかハンサムの、超高々級彼氏が出来た事だけが原因では無い。

べ、別に、大人になるにつれてみるみる美しくなっていく彼女が僕、いや、郵便屋には手の届かない存在になってしまった訳でも断じてない!

あ、言い忘れていたが、この話は僕、通称『郵便屋』のオサムと、彼女(香織)との日々を記した日記のようなものである。



1

「なにしてるの?こんなところで。」

「べっ、別に、、、き、君こそ何してんだよ。」

「別にって、、」

そういうと、香織はクスリと笑った。

「別にって顔じゃないじゃない、頬っぺたに涙の跡がくっきりついてますけど?」

これには赤面した。慌てて両手で顔を隠そうとした刹那、僕は香織の違和感に気付いた。

というか、どうして今まで気がつかなかったのだろう。香織の丁度胸のあたり、白いワンピースにうっすら『花火禁止』の文字が浮んでいる。もう一度目を凝らしてみる。が、やはりある。明らかに不自然なこの文字が、彼女の服にプリントされたものでないことは、すぐにわかった。そう、透けているのだ。

彼女の後ろの花壇に建てられた注意書き。それが彼女をすり抜けて確かに視界に入ってくる。よく見るとそれだけではない。花壇に植えられた草木や花々が皆、彼女の身体をすり抜けて伝わってくる。実際に今、僕の目の前で起こっている事態を理解するより先に、声が出た。

「すっ、透けてない?」

その言葉に彼女は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにもとの穏やかな笑顔に戻り、

ゆっくりと口を開いた。

「そっかー、もう透けて来ちゃったかー。」

「もうって、、や、やっぱり透けてるよな?カオリ、これは一体どういう仕組みなんだい?正直オバケか何かかと思ったよ!」

冗談で発したその一言は、次に彼女が放った言葉によって思わぬ方向に転換されてしまう。

「私、、、オバケだよ。」

「えっ?」

何をいってるんだこいつ、訳がわからない。

「オバケってなんだよ〜、らしくない冗談だな。」

「冗談とかじゃなくて、私、本当にオバケなんだ!」

「、、、」

「私、死んじゃったの」

「死んじゃった?だって君は現に、今僕の前にこうして立っているじゃないか。」

「立ってるけど、、、」

「カオリ、本当に何を言ってるんだ?」

「えっとね、シジュウクニチって言葉、聞いたことある?」

「シジュウクニチ?あ、あぁ!死者は、死後の49日はこの世を彷徨っているっていう、あれのことかい?」

「それそれ!私、今それの真っ最中なの !」

「真っ最中っていったって、第一、幽霊は生きてる人間には見えないだろ」

「それがそうでもないのよ、オバケってのはね、死んじゃって体から抜け出た後、49日間の間この世界を彷徨い続けるんだけど、その間にゆっくりと透明になっていくの。コーヒーに砂糖が溶けていくみたいにね。ちなみに私は今日で9日目!そろそろ少し、透けはじめたみたいだね。」

「透けはじめたみたいって、じゃあその理屈でいうと、死体から魂が抜け出すのって大体1日目かそんなところだろう?その時にみんな気づくんじゃ。」

「そうだよ!あーでも殆どの人は、周りに誰もいない時にこっそり抜け出してるらしいよ。たまにバッタリ見つかって、幽霊だ幽霊だって騒がれちゃったりすることもあるらみたいだけど。」

「マジかよ、、、」

ようやく、というべきか、もう、というべきか、僕の頭は目の前で起こっているこの異常事態を受け入れはじめた。

「てか、なんでわざわざ僕のところに来たの?もっと会いたい人はいっぱいいるだろう。家族とか、親友とか、彼氏とか、、」

「まぁ、そうだけど、あんまり親しい人に会っちゃうとまた悲しくなっちゃうでしょ!かといって49日間ボーッとしてるのも暇だし、折角だから旅行でもしよう!と思って東京に遊びに来たの。そしたらこんな所で幼馴染みにバッタリ再開しちゃったと、まぁそういうわけよ。」

困惑している僕になどお構いなく、彼女は意気揚々と続けた。

「で、どうしたの?悩んでるんでしょ?」

「や、別に悩んでるとかじゃ」

「いいから!言ってみ?冥土のみやげに私が聞いてあげるよ。」

『めいどのみやげ』の使い方が気になったが、そういえば、東京に来てからは誰ともろくに話をしてなかった。今の自分の心境を一度整理するという意味でも、いっそここで彼女に全てぶちまけてしまおうと思った。そして、自分が小説家を夢見て上京してきたこと、まるで連載が決まらないこと、今までのことを洗いざらい全て彼女に話した。

「そっか、色々大変だったんだ。」

彼女は僕の話を、思いのほか真剣に聞いてくれていた。そしてこう続ける。

「手伝ってあげようか?」

「え?」

予想だにしていなかった彼女の発言に、僕は思わず耳を疑った。

「小説書きたいんでしょ?どうせこのままボーッとしてても消えちゃうだけだし、オサムのその小説、手伝ってあげる!」

「手伝うっていったって、カオリ、小説なんて書けるの?」

「無理無理無理!書ける訳ないじゃない!小説はオサムが書くの。私は出る方!」

「出る方?」

「そうそう!こうしてオバケと一緒にいることって、あんまりないでしょ?」

「そりゃ、まぁ、ないっちゃないけど。」

「だったら、それを書けばいいんだよ!オバケと一緒にいるってだけで、ただの日常生活だってちょっとはファンタジーっぽくなるんじゃない?」

「それって、どういうこと?」

「だから、今日からしばらく一緒に過ごそうよ!オサムはその中で起こった出来事をまとめて一冊の本にする。」

「それって、同棲するってこと?」

「まぁ、要はそういうこと!」

「要はって、、、」

戸惑う僕の次の一手を遮るように香織は続ける。

「どうせファンタジーとかかけないんでしょ?だったらやってみようよ、何でも物は試しだって!それに、、、」

香織の軽快な言葉の羅列に、ここに来て初めて間が生じた。彼女は少し目を細めると、さっきまでとは違った低いトーンで呟いた。

「それに、私の生きた証になるじゃん。」

「生きた証、、、」

そうか、忘れていた。あまりにも穏やかなもんですっかり忘れていたが、今僕の前にいる彼女、香織はもうこの世に"生きて"はいないのだ。存在しているのに、生きていないって一体どんな気持ちなんだろう。そもそも、この状態で何かをのこしたとして、それは"生きてた証"といえるのだろうか?

「わー、星が綺麗!」

僕の頭の中のモヤモヤを振り切るように、香織が突然に発した。気がつけば、辺りはすっかり暗くなっていた。顔をあげると真っ暗な夜空にたったひとつ光る星が目に留まった。

「北極星だ、、、」

「綺麗な星、、」

綺麗って、星はひとつしか出ていないじゃないか。そう言おうとして香織の顔を見て、やっぱりやめた。彼女は笑っていたが、その目には涙が溜まっているようにも見えた。

「そうだな。」

夏の乾いた夜風がそっと頬を撫でた。

「じゃあ、その、そろそろ帰ろうか。」

僕の言葉に頷くと、香織はゆっくりと立ち上がった。僕も続いて立ち上がると、ズボンをポンポンと軽くはたいた。

街灯の灯りに照らされて影がひとつ、真っ直ぐ伸びていた。





















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