第10話~すりぱりぃあ~(お泊まり)・後編
「よ、よかったの?シャルちゃん?」
「え?何が?」
「多分あの顔怒ってたよ……?」
洗い物が終わると、二人は私を心配してくれる。
確かに皆の前なのにやってしまったという心は少しあった。
それに恥ずかしがる顔を見て、いつも以上に条件を増やしてしまった。
「だって、あーでもしないと……」
「でもあれだと……パンツ以下だって傷付いちゃったかも?」
恵美さんの言う通りだ……謝ってたのに。
「うん……」
「後で謝ろ!あたしも悪かったし、一緒にいるから!」
「あ、ありがと……」
辛い気持ちを抑えつつも、夏々さんの誘いに返事をする。
そして気持ちの整理をしておいでと言われて、私が先にお風呂に入ることになった。
「言い過ぎたかなぁ……」
私は全て洗い終わって湯船に浸かって、手の甲に顎を乗せて考え込んでいた。
二人をくっ付けされることに夢中で、私が嫌われるなんてことは一切考えてなかった。
けどそれは想像しただけでも結構辛い。
父にも手を出さないでやってくれと言われていたのに、何をやってるんだとナーバスになってしまう。
「はぁ……」
『ガチャン』
一糸纏わぬ文乃と兄が、風呂場に入ってくる。光で私以外には見えてない。きっとそうだ。
(何故?)
「はぁっ!ふぇ!?」
(な、なんか見えてはいけないものが!沢山!でも光が仕事してるから!)
二人は私のことは無視して、互いの体を洗い始める。
「ほら洗うぞー文乃」
「はーい」
文乃が風呂椅子に座る。
(わ、わわわ私にこれを見ておけと!?)
目を逸らすが見てしまう……だから手で顔を隠して、隙間から覗き込む。
二人はあまりに普通に振る舞っている。
「あ、手が滑っ……」
「ふいゃっ……もーくすぐんなって」
その無邪気な触れ合いは小学生の頃を思い出す。だけど互いの頬が赤く染まっているのは隠せていない。
(いや別に……良いんだけど。止めないとまた傷付けるってこと?めんどくさっ!)
「ど、どうして入ってきたの?」
一応理由だけは聞いてみる。答えなどわかりきっているが。
「昔はこうやって一緒に入ったもんな?」
「そーねぇ」
「止めて、ほしいわけ……?」
「…………」
「ちゃんと洗えよ?」
(都合が悪いのは無視するつもり?)
「文乃、さっきは言い過ぎちゃった。ごめんなさい……」
兄の前でとか凄い恥ずかしいけど謝ることにした。
(我慢だ……文乃)
「…………」
(わ、私が泣き出すまで待つつもりか!?)
だけど私は考えた。適度に自分の体で誘惑するしかない……と。
「はぁーのぼせちゃったから足湯しよ~」
「!?」
「んな!?」
おそらく二人の目には、私の小さな後ろ姿が写っているだろう。
(光よ?仕事しろよ?)
「ほら、体は終わった。大事な部分は自分で洗えるな?」
「はーい、ありがと」
「んじゃ頭も洗っとくな」
「うん、お願いね」
二人は変わらずの様子だ。
(くそぅ……敗北感)
「あっ、お湯にゴム落としちゃった。どこだろ」
今度は立ってからかがみ、お尻をふりふりさせながらお湯の中を探すふりをする。
「うぐっ!?」
「くぅっ!」
(頼むから!光は変わらずよろしく)
「ほら、適当だけど終わった」
「あーうん」
『ゴシゴシゴシゴシ』
「はいおっけー、流してー?」
(マジで言ってるんですか!?)
「シャルちゃーん?落ち着けたー?」
「シャルちゃん。その、大丈夫そう?謝れそう?」
夏々さんと恵美さんの声が外から聞こえる。
「なっ!?大丈夫だよ~、さっき謝ったんだけど許すのはまだ保留されてる」
文乃の心を罪悪というものでえぐり始める。
(というか許してくれ、頼むからぁ)
兄と彼女はテンパっているのか黙って洗っている。
「あたし達も入って良いー?」
「私も入るからー」
(いやいや!これはまずいって!画面光だらけになる?いやそうじゃなくて!)
私は急いで出て、泡を流した文乃と兄を風呂に押し込めようと背中を押す。
「!?」
「ばっ……!」
兄が声を漏らした。よりによって兄が。
「あれ?今誰か男の人の声しなかった?」
恵美さんが中の声に気付く。
「いや、その入るのもうちょっと待って……?な、なんか文乃と兄も一緒に入ってて、そのことについて話そうと思ってたから……」
(いやいや、流石に無理が……)
「わ、わかったばい……それなら仕方ないっちゃろう」
「そっかぁ、じゃあまた今度かー」
(めっちゃ動揺してんじゃん……信じてくれてありがとう……)
「はぁ……」
溜め息をついて自分の姿を確認する。全裸だ。
きっとここは光だらけでおかしくなっている。そう違いない。
(でももうここまできたら、めんどいしいっか……)
私は二人を押すのをやめて湯船に入ろうとする。
「さっさと洗っちゃえば?」
「今だッ!!」
「ええ!」
(えっ何何?)
私の体は軽々と二人に担ぎ上げられる。
「ひゃっ!?」
二人はタイミングを計らっていた。なんとなくそんな予感はした。
(頼むぞっ!光!無修正版出るかは結果次第!いや恥ずかしいし冗談だから!)
「さぁ、許すからにはどんなおしおきがいいかなぁ……」
「僕だって折角の休日を自由に動けなかったんだ……お詫びは必要だよね?」
(あー、腕持ち上げられて足担ぎ上げられ……もう隠せないじゃん……)
私は二人に救急状態なのかという感じで手足を持ち上げられる。オブラートに包んでも、つまりはかなりエロい格好だ。
二人の当たっちゃまずいものも当たって、私はどうにでもなれと諦めた。
(んな訳あるか!同人誌みたいになってたまるか!)
「助けっ……!むぐ!?」
文乃に口を塞がれる。
「ん?シャルちゃんどしたー?」
夏々さんだけがそれに気付く。
(ナイス!夏々さんだけってのも!)
「あ、む、め、めぇー!!えんむぃー!えむぃめー!!」
助けて電気消してと必死に伝える。
「分かったよ!シャル坊!」
風呂場の電気が消えて、ドアが開く。
(神ィ!?)
「な、夏々さんは裸だぞ!抱き着いて引っ張り出す技だぁぁ!」
文字通り、もう一つの肌が触れる。
そして狼狽える二人もろとも、風呂場から脱衣場に引き出した。
『ドテンッ!』
「いてて……ふにゃ!?」
夏々さんは足を左右に広げたまま、振り返って転んだ兄に押し倒される。
「こ、これは……違っ!すまない!ごめん!」
兄は彼女だけじゃなく、自分の状態も察したのか弁解して謝罪する。
(お、お兄ちゃん!?初めて見たけどアレって……わ、私のせい?頼むよ?白い光?)
「むぐぅ!?」
「ふぎゅぅぁぁ……!さいこぉぉ……」
私の顔面は何故か逆を向き、文乃に乗っかられている。いくらもがいても起き上がれないし、頭は床に押し付けられて痛いし苦しい。
(夏々さんが危ないっ!)
「あんたら……ずっと見てれば、良い年こいて何してんのさ?限度があるぜ?」
今まで穏やかだった夏々さんが怒った口調で話し始める。
押し倒された夏々さんが、二人に物申しているのがしっかりと見えた。
(度胸と威厳が……!カッケェ……!足広げられたまんまだけどね。白い光頼んだから!ってかその絵めっちゃシュール……)
「は、はい……ごめんなさい」
「すみませんでした……」
まず文乃と兄が謝る。
「あたしだって面白がってた。二人ともごめんなさいね……」
正気に戻った夏々さんは、自分の姿を意識たのか真っ赤になって両手で体を隠す。
(う、うわ……あんな格好させられたらもうお嫁にいけない……)
「わらひも、もえん、らひゃい」
私達も謝るが、口がうまく動かせない。
「ふひゃん……!口動かすのだめ……」
「とりあえず、二人は湯冷めしちゃうし入っといで。結託したんだからできるでしょ?シャルちゃんとあたしは服着るから」
「は、はい……了解です」
「わ、わかりました……」
夏々さんは姿勢を崩さず続けて指示すると、二人は素直にそこから離れて従う。
二人が風呂に入った後、夏々さんと着替えながら話す。
「残ってて良かった……シャルちゃん助け呼んでくれてありがとー」
夏々さんに頭を撫でられ、感銘を受けた私は涙が溢れる。
そして母のような夏々さんにそのまま抱き着いた。
「大丈夫?怖かったね……」
「うぅ……むん、ごわがっだよぉ……!」
(ほんとうにこわかった……そのままやられるかとおもった。ほんとに……)
その夏々さんも細かく震えていた。
(夏々さんもやっぱり怖かったんだね……)
その後は全員とも風呂を済ませた。この事件は恵美さんに説明し、五人だけの秘密ということになった。
そして夫婦の部屋のベッドに瑠璃さんと璃晦ちゃんのを、文乃は兄の部屋のベッドで寝ることに。
一緒に寝て話し合って反省してくださいと、話を聞いた恵美さんが言ってくれた。
そして私の部屋には門番として夏々さんと恵美さんが、布団一枚を敷いて一緒に寝ることになった。
他に布団が三枚あったはあったんだけど……出すのが久々で状態が悪く、良い物一つを使おうという話になった。
「な、なんかごめんね?一緒に寝させることになっちゃって……」
「いいのいいの」
「めぐみんあったかぁーい」
「はいはい、よしよし」
夏々さんは恵美さんに抱き着くが、いつもみたいに嫌がられることはなかった。
そんな彼女を見て、私も一安心する。
(良かった……)
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
私はベッドの側にあるランプを消そうとする。
「そ、その……ランプ消さないであげて?」
恵美さんのその口振りから、夏々さんは暗闇が苦手なんだろう。
「うん……わかった」
私はベッドの布団を被る。
しばらくすると夏々さんの喋り声が聞こえた。
「見られだぁ……ぐすん。もうお嫁に行けない……」
「だ、大丈夫大丈夫。誰にも拾われなかったら私が助けてあげるから……」
夏々さんはそのまま泣いてしまい、恵美さんも驚きながら支えてあげている。
(そ、そりゃそうだよね……しっかりと足は左右に……罪悪感がぁ……)
「だ、大丈夫?無理させてごめんね?」
横になったまま、聞いてみる。
「うぅん。はぁ……だいじょうぶ」
いつも元気な夏々さんを本気で泣かせちゃった……
「怖かったら、すぐ言ってね?温かい飲み物とか持ってくるから……」
「うん、ありがとうね。シャルちゃん」
恵美さんも私の気持ちを受け止めてくれる。
私は夏々さんのことを不安に思いながら、ぐっすりと寝てしまった。
――一方、兄のアイザックの部屋では――
「ザックせまい」
「し、仕方無いだろ……シングルベッドだし」
アイザックと文乃はシングルベッドで背を向け合っていた。
彼女が動く度、ボリューミーなお尻と太ももが当たって……
アイザックは決して、《《彼女の方には向けないような状態》》になっていた。
彼はその状態に疑問を抱いていた。今まで興奮や恋愛感情は、シャルロッテにしか持たなったからだ。
(どうしてだ?なんで僕が?こんな女に……あー、そうか。シャルの裸を見て興奮が冷めないのか)
でもそんなことを考えたって、文乃への恋愛感情や、未だに当たるぷにぷにへの劣情は変わらない。
「好き……なのか?」
「ふぇっ?」
自分への問いが漏れていた。文乃が聞いていたのか変な声を漏らす。
「い、いやっ!別になんでも……」
「き、嫌いじゃないわよ……あんたの、こと……す、すす、すき……だし……」
何故か心拍数が跳ね上がる。顔が熱を発しているのも分かる。
(そ、そんなこと言われたら……!)
僕は振り返って彼女を抱き締める。
「僕も……文乃がすきだ……」
「ふひゃっ……!?な、何すんのよぉっ……て!?」
(あー気付かれた。これは完全に気付かれた)
「きて……」
彼女は振り返って僕の目を見る。
「え!?」
「だから……きて」
文乃は僕の頬を触る。
「な、なにいってるんだいきなり!」
「だってあんたがそんなんじゃ……」
太ももで故意に擦られる。
(ばかっ!やめっ……!癖になる前に説得しないと……)
「い、いいんだよ!勝手になっちゃうときもあるんだから気にしないでくれ……」
「そ、そう……」
何とか説得すると触れるのをやめてくれた。
「それにそういうのは……き、きき、キスとかもっと恋人らしいことしてからじゃないと……ダメになるぞ」
「そっか……ありがとう」
(はぁ……分かってくれたか。良かった良かった……)
彼女は僕よりもそういう欲が強い。だから今後も暴走しないよう注意しないといけない。
「い、今さっきのことだし……僕達の親だって付き合うって知らないだろ?」
「ふぇ!?私達付き合うの!?」
彼女は驚いている。
(こいつまさか……!ほんと性欲強いな……僕も注意しないと)
「それ以外にこの気持ちどう整理するんだよ……シャルにぶつけたって傷付け合うだけじゃないか……」
「そう、だね……」
「そうだ……」
会話が途切れる何故か悲しくなる。けど彼女の顔を見て話すと、余計心拍数は跳ね上がり暑くなってくる。
「じゃあさ……お互いを慰めるのは……」
(はぁ……そりゃあ、友達の前でもシャルに手を出す訳だ……)
「だから!それがダメな関係じゃないか……ダメとは言わないけど順序を踏むまで我慢しないと……」
僕は真面目に文乃を説得する。
「で、でも……!シャルルもすきだし、本気で付き合っちゃうのは……不安」
「それは僕も一緒だ……」
気持ちを伝え合って早々、第一関門が立ちはだかる。
「じゃ、じゃあ……てー、繋いで……いい?」
(いちいち言い淀むのが可愛い……)
「う、うん……」
向かい合ったまま、右手を差し出す。恋人繋ぎで手を繋いできた。
(い、いきなりこれ!?)
「あったかいね」
文乃の無邪気な笑顔はとても綺麗だった。
「うん、あったかいね……」
思わず頬を緩めてしまう。
しばらくすると文乃が疲れたのか寝てしまった。僕も安心して……今日はそのまま眠ってしまった。




