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第5話 剣持勇也の独白

「はああ、緊張したな……。」


 自分の部屋に戻った俺は、思わずため息をついてしまう。


 この春から、亜久津さんと同じクラスになって、ずっと彼女の視線を感じていた。


 あんまり話したことは無いけど、あの綺麗な切れ長の瞳で眼鏡越しにじっと見つめられていると思ったら、どうしても意識してしまうわけで……。友達に話しても、きっと信じてもらえないだろうから、今まで誰にも相談したことはないんだけど。


 亜久津さんは、茨城さんみたいな笑顔が素敵な可愛いアイドルタイプとは真逆の女子だ。


クールで無口で、何を考えているのか、あんまりよくわからない人だ。悪い人ではないとは思うけど……だから、綺麗だけど彼女にしたいか、というと、ちょっと……という奴らも少なくはない。


 でも、ケーキを食べている時の笑顔とか、お土産選んでいる時のテンションあがった顔とか、可愛かったな……甘党だって噂は本当だったんだ……。


 もしかしてだけど、亜久津さん俺のことを好きだったり、するのかな……いや、単純にケーキ目当てだったかもしれないし、あんまり期待しすぎるのは良くないよな。いや、でも、たぶん嫌われてはないんだよな……?


「……次のニュースです。〇〇県××市にて、通り魔事件が発生しました。」


 不意に、テレビの音声が耳に入ってきて、俺は驚いてテレビの方を振り返った。


 いつの間にか同じ部屋の弟が帰ってきていて、せんべいをかじりながらニュースを見ている。


「うわ、びっくりした!お前、ただいま、くらい言えよ。」


「言ったし! 兄貴、独り言ぶつぶつ呟いていてすげえキモかったから、たぶん聞こえて無かっただけだし。」


「独り言呟いていたの、俺……。」


「え、気付いてなかったの? ほんとうにキモイ……。」


 弟の暴言はいつものことだから無視することにして、俺はニュースを見て、ぎょっとした。映っていた町並みが、うちのすぐ近くだったからだ。


「え、ウチめちゃくちゃ近いじゃん……。」


「そーだよー。だから俺のとこの部活も、活動中止で早く帰るように言われてさー。」


 ……ああ、俺はなんて馬鹿なんだ。


「え、ちょっと、どこ行くの、兄貴!?」


 弟の慌てた声を置き去りにして、俺は部屋を飛び出した。もうすっかり日が暮れてしまった街を駆ける。


 亜久津さんが大丈夫、って言っても、無理にでも送っていけばよかったんだ。


 迷惑がられたらいやだな、とか自分のことばっかり考えないで、ちゃんと彼女を守るべきだったんだ。俺は男で、亜久津さんは女の子なんだから。


 もし、亜久津さんが通り魔に襲われるようなことがあったら、一人で彼女を帰した俺のせいだ。通り魔に遭遇していないなら、それが一番いい。亜久津さんに迷惑がられても良い。だから、早く、追いつかないと……!




 どれくらい走ったんだろうか、すっかり息があがってしまって、俺は立ち止ってしまった。去年部活を辞めてから、まったくトレーニングなんてしていなかったから、すっかり持久力が落ちてしまっている。


 というか、闇雲に走りまわってしまったけど、俺、亜久津さんの家知らないんだった……今日、亜久津さんに声をかけられた道のところまで走ってきたけど、彼女はもういなかった。ここから先、彼女がどの道を帰っていったのかはわからない。


 いや、亜久津さん、もういないの? 早くない? 何、亜久津さん走って帰ったの?


 もうこれ以上、追いかけても無駄かな? もうとっくに家に着いているのかもしれないし……いや、でもやっぱり心配だ……。




 呼吸を整えることに精一杯だったのと、亜久津さんのことで頭がいっぱいになっていた俺は、この時、背後から忍び寄ってくる不審者の陰に気が付かなかった。



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