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第4話

 きらきらと、宝石に負けないほど赤く光り輝く苺。


 それが鎮座するのは、白いクリームの台座である。


 クリームとスポンジ、フルーツが規則正しく積み重なった層の断面図が美しい。


 繊細なクリームの装飾と相まって、貴婦人のドレスを思わせるような美しさだ……。


 思わずため息が出てしまう。素晴らしい。まさにこのストロベリーショートケーキは芸術品だ。


「本当に、いただいてしまって良いの?」


「う、うん。良かったら飲み物も。珈琲と紅茶だとどっちが良い?」


「珈琲が良いな。」


 剣持勇也が、カップに珈琲を注いで渡してくれた。この黒い飲み物、初めて見た時は魔界の泥のようで驚いたのだが、飲んでみると心地よい苦みと酸味、そして何とも言えない香りが素晴らしく、すっかり気にいってしまった。


 ケーキにフォークを刺して、一口、口に入れる。軽い甘さの生クリームと、ふんわりとしたスポンジケーキ、酸味のきいた苺が混ざり合い、溶け合う。


「おいしい……。」


 こんなに美味なるものが、一般庶民の口にも入るなんて、なんと贅沢なことだろう。


 元の世界の食糧事情を鑑みると、王侯貴族でも、こんなに美味な甘味は食べられないんじゃないだろうか。


 ふと、視線を感じたのでその方に顔を向けると、剣持勇也がじっとこちらを見つめていることに気が付いた。どうしたのだろう、私の顔にクリームでも付いているのだろうか。


「……私の顔に、何か?」


「う、ううん! いや、亜久津さんって、こんな顔するんだな、ってびっくりしちゃって。」


 ああ、ついケーキの美味に気をとられすぎて、表情が緩みすぎていたのか。


「みっともない顔を見せてしまったかしら。ごめんなさいね。」


「いやいやいや、良いんだよ!? 同級生なんだし、そんなに固くならないで。」


 剣持勇也は、何だか妙に慌てふためいた様子でブンブンと首を横に振っている。


 学校では目立たない凡庸な男子生徒だと思っていたが、こうして見ると……。


「おもしろいな、剣持君は。」


「へっ?」


「あっ。」


思わず声に出てしまったようだ。いかんな、最近どうも気が緩みすぎて。


「か、からかわないでよ、亜久津さん。」


「いや、貶めたつもりではなかったんだけど……。不快に思ったなら、今の言葉は忘れてほしいな。」


 怒ってしまったのだろうか、剣持勇也の顔は真っ赤になっている。湯気でも立ち上ってきそうな雰囲気だ。やはり子供の扱いは難しいものだな。


「では、私はそろそろおいとまするわ。ごちそうさまでした。もし良ければ両親にお土産が欲しいので他のケーキをいくつか購入したいのだけど。」


「え、お金は良いよ、同級生なんだし……。」


「それは駄目よ! 物には対価を払わなければ社会が崩壊するわよ。」


「そんな大袈裟な……。」


「もちろん先ほどいただいたショートケーキの分も代金を払うわ。そうさせてもらわないと、逆に困るもの。」


 こんな芸術品が1個400円で買えるのも、安すぎるくらいだと思うのだが。


 両親の好みに合いそうなケーキ2つと、焼き菓子の詰め合わせを選んで買った。


 召喚魔法の引き金になりそうなものを回収するだけのつもりだったのだが、思いのほか良い買い物ができた。学校からも遠くないし、今後この店に通っても良いかもな。


「あ、俺、送っていくよ!」


「いいえ、大丈夫よ。ありがとう。」


 実際、何があっても大抵のことなら対処できる。元の世界では魔族に恨みを持つ人間に襲われたり、逆恨みしてきた同僚に暗殺されかけたりしてきたので、奇襲などには慣れっこだ。


「じゃ、じゃあ、明日また学校で……!」


「ええ。また明日。」


 小さく手を振る剣持に、一礼して、私は帰路についた。 


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