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第3話

その後、彼に話しかけられないまま放課後になってしまった。


多くの生徒が部活や委員会活動に向かう中、彼はまっすぐ帰路につく。


私は距離をとって、彼の後を追った。




剣持が歩きながら弄んでいる石は、一見ただの小石に見えるが、私にはわかる。あれは召喚魔法陣に対象を呼び込むための誘導体だ。


獲物を罠に誘き寄せるためのエサと言えばわかりやすいだろうか。恐らく、向こうの人間側の魔術師が仕掛けたのだ。


剣持勇也は石を偶然拾ってしまって、それに宿る魔力を知らないまま、何となく気になって捨てずに持っているのだろう。


あるいは、捨てても戻ってくるとか、そんな厄介な魔術がかかっているのかもしれない。




そして今は黄昏時。


もはや魔術はほとんど滅んだらしいこの世界において、かろうじて魔術が発動しやすい時間帯だ。


こんな時間に、誘導体を持って一人でいるなんて、悪条件にすぎる。きっと近くに、ヒトの目には見えない魔法陣も仕掛けられているに違いない。




……あった。


剣持勇也の前方100メートル先に、魔法陣が仕掛けられている。


道は狭く、このまま彼が前進すれば、魔法陣に引っ掛かっておしまいだ。




だが、召喚魔法陣の近くに私がいたのが運のツキだ。




「……剣持くん?」


私は、偶然彼を見掛けたように声をかけた。


「えっ、亜久津さん?」


彼が驚いて立ち止まり、振り返った。よし。


「えっと、どうしたの?何か用?」


「用というか、たまたま見掛けたから声をかけたんたけど……いけなかった?」


「い、いや、いけないなんてそんな……むしろ……」


 よし、彼の注意は完全に私に向いている。私は夕焼け空を不意に見上げ、小さく、あっ、と呟いた。


「えっ、なに?」


彼が空に気をとられている間に、私は邪眼を発動させて魔方陣を睨み付けた。瞬時に、魔法陣の中心に亀裂が入った。これで召喚は不可能だ。


「ごめんなさい、私の勘違いだったみたい。……ところで、その石どうしたの?」


 私が尋ねると、彼は素直に答える。道を歩いていて転んでしまい、たまたま倒れた先にこの石が落ちていて、何となく気になって持ってきてしまったのだと。


「へぇー……確かに、普通の石とはちょっと違うかもしれないね。剣持くん、もし要らないなら、その石私にくれないかしら?父が大学の教授だから、何かわかるかもしれないわ。」


これは本当の話で、この世界で私の父親になってもらっている亜久津真太郎は、大学で歴史学の教授をしているのだ。


もともとそこまで石に執着していたわけではない彼は、あっさりと私に石をくれた。何かわかったら教えてよ、と冗談めかして言う。


やれやれ、一時はヒヤッとしたが、なんてことなかったな。悪いな向こうの人間達よ。


「じゃあ私はこれで……」


「あ、ま、待って……!」


もう用は終わったので立ち去ろうとする私を、剣持勇也が何故か呼び止めた。


「あ、あのさ、もしよかったらこれから俺の家に来ない?」


「え……?」


なんだ、私は必要以上に馴れ合うつもりはないぞ。いやそれにしてもいきなり家に呼ぶか普通。


訝しげな私の表情を見て、彼はあわてて言った。


「いや、ごめん変なこと言って!! 実はうちケーキ屋でさ、亜久津さん甘いもの好きだって聞いたから、どうかなと思って」


「そういうことは早く言ってほしい。」


やれやれ仕方がない。ケーキを食べたらすぐ帰ろう。


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