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第2話

 しかし、このままトンズラして勇者召喚を見過ごすわけにもいかない。

 私が、もしも任務に失敗し、勇者が元の世界に召喚されてしまったら、その瞬間、強制的に私も元の世界に召還される仕組みになっているのだ。まあ、戦略的にはそうするのが当然だろう。

 だが、さっさと勇者候補を殺せばいいか、というとそう話は単純ではない。

 この平和ボケした世界でヒト一人暗殺するのは、かなり面倒なのだ。餓死に見せかけることもできないし、猛禽や野良犬に食わせようにも、そもそも街に猛禽や野良犬がいない。山や川に捨てるということは、できなくもないが、手間がかかりすぎる。

何より、勇者候補抹殺に成功したら、それはそれで結局私は元の世界に帰らなければならないのだ。いやだ、面倒くさい。


 そういうわけで、一番良いのは、勇者召喚を未然に防ぎ続けることなのだ、という結論に私は至った。

 勇者候補を生かさず殺さず、この平和な世界で平凡な学生としてつなぎとめておくこと。それが、私がこの世界で平穏無事に暮らしていくために必要なことなのだ。

 一見、地味に思われるが、問題が発生する前に取り除き、大事に至らせないことこそが、超一流の仕事なのだ。問題が起こってから解決するのは、普通の一流の仕事である。


 だから、今私の斜め前の席でぼんやりと空を見つめている男子生徒……剣持勇也けんもち ゆうやを、私はこの竜胆学園に通い始めてから、ずっと監視しているのだ。

 一見、なんの特徴もないごくごく普通の男子高校生。これといった特技もなく、打ち込んでいるものがあるわけでもなく、容姿がずばぬけて良いわけでもない。また、自身の享受している平穏な暮らしを、ありがたいとも思わずに、日々の生活を持て余しているような子供……こういう手合いが一番危ないのだ。

 日常生活を日々忙しく過ごしている者なら気付かないような、隠匿された魔法陣に気が付いてしまったり、魔導書を拾ってしまったり。要は、召喚魔法の罠に引っ掛かりやすいタイプなのだ。

 今だって、そう、懐から不意に石を取り出して、それをじっと見つめて……

 ……待て。貴様、その異様に赤く輝いている石は何だ。ちょっと魔力放ってるぞ、その石。今すぐ捨てろ、外に捨てろ。おい、意味深なため息をついて懐に戻すんじゃない。

「剣持くん、」椅子から立ち上がって彼に声をかけようとしたところで、ホームルーム開始を告げるチャイムが鳴ってしまった。

 


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