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銀黎のファルシリア  作者: 秋津呉羽
四章 深緑の暗殺者
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エピローグ

 その後、ククロが目を覚ましたところはノーザミスティリアの病院内だった。

 後で話を聞く限りでは、ククロがノーライフキングを倒したのと丁度タイミングを同じくして、ノーザミスティリアの警備隊が、ダンジョンの入り口を爆破して中に入って来たそうだ。

 一部始終見てたんじゃねーの、と思わないでもなかったククロだが……助けてもらったことに関しては素直に礼が言いたいところである。


 ちなみにだが、ディメンション化ノースダンジョンは、ノーライフキングが倒されたことにより、この後ディメンション化が解除され通常のノースダンジョンに戻ったんだとか。

 幸い、中にいた下僕化冒険者達の死体も外に持ち出され、弔われることになったそうな。モンスターとしてダンジョンとともに消滅するような、最悪の結末にならずに済んだことは、本当に幸運だと思う。

 少し気になったことだが……ノースダンジョンから引き揚げられた冒険者、その内、あのノーライフキングを背後から刺した男の元に、眞為が花を添えていたのがとても印象的だった。『良かったね、お父さん』と眞為が呟いていたようにも聞こえたが……そこは、踏み込んではならない部分であろう。

 何はともあれ、一件落着――とは、いかないのが今回の事件だ。


「結局、ハルは何者だったんだ……?」


 ミイラもかくやと言わんばかりに、全身を包帯でグルグル巻きにされたククロはそう呟いて考え込む。あれだけの幼さで、ククロを罠にはめた手際は驚嘆の一言に尽きる。可能であるならもう一度直接会って殴り飛ばしてやりたいところだが、きっと、もう会うこともないだろう。


「なぁ、ファルさん。そんな暗殺者に覚えはあるか?」


 ベッドの横でシャリシャリとリンゴを剥いていたファルシリアは、ククロの言葉を聞いて、少しだけ考え込むように顔を上げる。


「さぁ、どうだろ……」

「ふぅん……」


 どうだろう、という割にはファルシリアの表情はどこか固い。もしかしたら、覚えがあるのかもしれないが……それを言葉にしないということは、ククロに伝えられないということだ。

 まぁ、ファルシリアは古参の冒険者だ。様々な伝手があることを考えると、もしかしたら覚えのある暗殺者がその中にいたのかもしれない。


「この世界は地獄……か……」

「どうしたのさ、急に」


 ファルシリアが首を傾げて聞いてくるのに対し、ククロは包帯にまかれた右手をかざして見上げ続ける。


「いや、ちょっとな。ファルさんはどう思う?」

「そうだね……地獄、かもね」

「……」

「でも、それだけでもないかな……って感じかな」

「そうか……そっか……」


 ククロはぼんやりと考える。

 確かに、弱肉強食ともいえる時代は終わったのかもしれない。だが、ククロと同じように、今の時代になじめずにいる旧世代の冒険者はまだ多い。もしかしたら、今回ククロを襲ったハルもまた、弱肉強食の世界の中で生きてきた人間だったのかもしれない。


「なんにせよ、今回は疲れたな……まさか、ノーライフキングを相手に戦うことになるなんてな……」

「あぁ、その事なんだけど、ククさん。ノーザミスティリアから罰金刑が科されるってよ」

「はっ!?」


 思わず跳ね起きた。全身が滅茶苦茶いたいが、そんなこと気にしていられない。


「ちょ、ちょっと待て!? 罰金刑!? ノーライフキングを倒したのに!? 結構すごい偉業じゃないのかこれ!?」

「だってククさん、ノーザミスティリアに許可取らずにディメンション化ノースダンジョンに入ったでしょ。警備員の人、今回ククさんが騒動を巻き起こしたことで、五名亡くなっているんだよ」

「ぬぐ……!」


 まぁ、この五名はスウィリスに殺された人間なのだが……それは、ククロの知る由もない事だ。酸欠気味の金魚のようにぱくぱくと口を開け閉めしているククロに向かって、ファルシリアは大きくため息をついた。


「ま、ノーライフキングを倒したのは確かだし、罰金もそこまで高いものじゃないから。大人しく払うと良いよ」

「んなアホな……」


 そう言って、ククロはガクッと肩を落としたのであった……。


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