表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀黎のファルシリア  作者: 秋津呉羽
三章 烈脚の格闘家
38/69

エピローグ

 連理の黒翼事件から数日後、自由都市ユーティピリアの病院に入院しているツバサの見舞いをするために、ファルシリアとククロは病室を訪れていた。


 入院していたツバサの様態は……まぁ、酷いもので、全身を包帯でグルグル巻きにされており、特に手と足は動かないようにガチガチに固定されていた。ファルシリアも、ツバサとアガートラームの戦闘跡を見聞したが……相当に壮絶な戦いだったようだ。聞いた話では、ツバサの奥の手である内剄暴覇を使ったんだとか。


 あれは、相打ち覚悟の自爆技に等しい。ツバサがそんな技に頼らざるを得なかったという時点で、アガートラームの恐ろしさがどれほどのものか分かるというものだろう。


「しっかし、ツバサさんがそこまで追い込まれるとはね。『奈落』以来か?」

「『奈落』は地獄だったからねぇ……全員満身創痍だったね」


 化け物だか邪神だかがうようよしていたような場所だ……現在の奈落最深部597層に挑んだ冒険者達は、全員、瀕死状態で戻ってきたものだった。

 つまりは、轟腕のアガートラームの強さはそれほどのものだったということだ。ファルシリアや、ククロでもツバサと同じような状況に陥っていた可能性は十分にある。

 そして、そんなツバサが寝ているベッドの隣では、ブラウンの髪をショートにした女性が座っている――ツバサの最愛の人であるサクラだ。

 彼女はファルシリアとククロに向けて深く頭を下げた。


「今回、ファルシリアさんとククロさんには本当にお世話になって……何とお礼を言えばいいか」

「別に礼が欲しくてやった訳じゃないから気にするな」


 ひらひらと手を振って言うククロの横で、ファルシリアは苦笑を浮かべた。


「ククロさんの言い方はつっけんどんだけど、まぁ、その通りかな。こっちこそ、ツバサさんが窮地に陥っていた時に加勢できなくて申し訳ない」


 ファルシリアの言葉に、ツバサは首を横に振る。


「今回の黒幕がアガートラームだったなんて、誰にも分からなかったからしょうがないさ」

「まぁ、あんな大物が裏にいたとは思わなんだね……」


 ――スウィリスも、裏にアガートラームがいると知っていたなら、もっと早く教えてくれればよかったのに……。


 甘えだと思っていてもそう思わずにはいられない。最悪、親友とも呼べる人物を失っていた可能性だってある訳だ……まぁ、スウィリスの狙いはそれだったのだが。


「んで、ツバサさん、俺たちに用があるってのは何だ?」


 今回の見舞い、実は二回目なのである。

 今日、この病院に来たのはファルシリアとククロがツバサに呼ばれたためだ。何でも、相談事があるとのことだったが……。ククロの言葉に、ツバサは大きく頷いた。


「実は……僕とサクラを君達のリングに入れて欲しいんだ」

「………………………………え、マジで? こんな弱小リングに?」

「こらこら、自分で言わない」


 ファルシリアが渋面で言うと、ククロも眉を寄せて振り返ってくる。


「いやだって、構成人数四人だぞ?」

「でも、その内、ファルさんとククさんというS級冒険者が二人もいるよね」

「俺はB級だけど」

「実力は一線級でしょ。S級が二人も在籍しているリングなんて、逆に探すのが難しいぐらいだよ。それに、A級冒険者もいるんでしょ?」


 ツバサの言うことは本当だ。

 S級冒険者はその実力の高さも相まって、独立心が強い者が多い。

 そのため、各自でリングを運営しており、二人以上のS級冒険者が所属しているリングはなかなか見当たらない。あったとしても、規定人数満員だったりと、なかなか入れなかったりする。

 それを考えれば、確かにファルシリアとククロ、更にいえば、新進気鋭の翡翠という三名が所属しているリングは、純粋な平均戦闘力では、かなり高いことになる。


「今までシガラミを嫌ってリングに入ってなかったけど、今回の事で思い知ったよ。身を護るためにも、きちんとリングに入っておくべきだったってね」


 ツバサの言葉に、ファルシリアは納得がいったと言わんばかりの顔で頷く。


「王手のリングに行かない理由は、そのシガラミと……あとは、不特定多数の冒険者と一緒に行動するのが信用ならないからかな?」

「うん、ファルさん、その通りだよ」


 王手のリングになると、構成人員が百人近い所もある。そうなると、今度は人数が多すぎて逆に不信感が募る。ツバサが求めているのは、確実な実力を持つ、信用できる人員だけで構成された少人数のリングなのだろう。

 ツバサの言葉に同意するように、サクラも頷いた。


「ツバサと一緒に決めたんです。もしよければ、ファルシリアさんとククロさんの所でお世話になろうって……あの、ダメでしょうか?」

「良いんじゃないかな。基本的に私達は身内だけでリングを運営しているけど……ツバサさんとその知人なら身内も同然だし。ねぇ、ククさん」

「うむ、二人が構わないなら、俺も構わないよ」


 ファルシリアとククロがそう言って頷くと、ツバサはホッとした様子で笑みを浮かべた。


「それじゃ、怪我が治ってからになるとは思うけど、これからよろしく頼むよ」

「私からも、よろしくお願いします」


 そう言って、ツバサとサクラは同時に頭を下げた。




 こうして、リング『野良猫集会所』は新たにS級冒険者ツバサと、B級冒険者サクラを迎えた。S級の戦闘能力を持つ冒険者が三名も加入しているリングとして、これから『野良猫集会場』はその知名度を上げてゆくことになるのだが……それはまた、別の話……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ