第二話 九条院麗華との発端
透明化して結衣の家に忍び込んだ翌日。やはり昨日のことがあって顔が合わせづらい。そう思い、早起きして学園への経路につき、教室に向かった。
だがそれも時間の問題。同じクラスである時点で、無駄な悪あがき。
教室に姿を見せるや否や、さっそく俺に詰め寄ってきた。
「レン君、昨日はどういうことかな?」
頬を膨らませ、見るからに怒ってるアピール。悲しいかな、迫力は伴っていない。
「本当に悪かった! つい出来心で!」
「もう! 変態さんなんだからっ」
諦観し、半ば呆れたようにため息を吐く結衣。
「そ、それでどお、だったの?」
「えっ? なにが?」
「だ、だから、私のは……だか、見たんでしょ?」
俺の頭上にピンク色の吹き出しが現れ始めた。
「ちょっ、ちょっと~なに想像してるの!? やっぱり今のなし」
「おいおいいいのかよ? せっかく裸体と美についての談義を小一時間する予定だったのに」
そんなこんなで、どうにか昨日の一件は許してもらえそうだ。よかった。
それにしても、透明化のことによく深く突っ込まれなかったもんだ。ただ単に気が付いてないだけだと思うけど、二重の意味で感謝だな。
担任が教室にやってくるとホームルームが始まる。
その後、授業四時間分を消化し終え、昼休みに突入。普段学食の俺は、早々に食堂に足を運んだ。そこで友達とだべって教室に戻ったとき、異変に気付く。不自然にも、静寂が辺りを支配していたからだ。
話を聞くに、とある二人が喧嘩をしたのが原因らしいが。
その内一人は九条院麗華。生粋のお嬢様で、学園で知らない者はいないほど有名人である。あろうことに、もう一人が――
「結衣さん、このことは断固として許しませんからね!」
「そ、そんな」
強い口調で結衣に言い放った後、麗華は教室から立ち去った。
俺は、しょんぼりしている結衣のそばに近づいて話を聞く。
「どうした? 一体なにがあったんだ?」
「あ……レン君。実はね――」
結衣によると、麗華の激高した理由として一番の要因は、修学旅行で撮った写真に関係していた。
修学旅行に行ってきたのはついこの間。ニクラス合同の班編成で、俺、結衣、麗華を含めたメンバーが一緒である。そんな中、結衣は撮影担当の役割を担っており、旅行期間中に取り溜めた写真をデジカメに保存していた。しかし、結衣は失態をしでかす。なんとデジカメ本体を水没させてしまった。そのせいで、データの全てが破損してしまって、修復も不可能らしい。スマホで撮った分はあれど、修学旅行の思い出の写真をおじゃんにされては怒るのも当然といえば当然。
「そ、そうだったのか。なんというかお前らしいな。でもどうやって水ポチャしたんだ?」
「その、言いづらいんだけどね。お風呂に入りながらデジカメの画像を眺めていたら、手から滑り落ちて……」
デジカメをお風呂に持ち込む発想はある意味すごいな。
あれ、でも昨日結衣の入浴を覗いていたときは、気に病んでる感じしなかったな。
「デジカメ壊したのは一昨日なんだろ? よく平然としていられたな」
「防水だと思ってて、そのときは電池がなくなっただけかなって思ってたの」
「おう、マジか」
期待を裏切らないなホント、俺の幼馴染は。悪い意味で。
俺は涙目になっている結衣の頭に手を乗せる。
「きちんと謝って反省してるんだから、許してくれるよ。俺からも許してもらえるよう頼んでおくからさ」
「……ありがとうね、レン君。それとゴメンね」
「まあ俺はいいけどよ。それより班の他の子にも謝んなきゃな。いっちょ手伝ってやるか」
「えええ! さすがに申し訳ないよ!」
「昨日はええモン拝ませてもらったからよ。そのお布施つーことで」
俺たちは昼休みの残り時間、授業後の休み時間、放課後を使い、一人一人謝罪しに行った。中には麗華のように語気を荒げた子もいたが、誠意は伝わったようである。
麗華にも二度目の謝罪をしようと探したが、意図的に避けられているのか、出会うことは叶わなかった。