「治部少輔が俺で、でも俺は俺で。」
大型ショッピングモールの
フードコートで
大盛カレーライスと
チャーシュー麺を注文した。
「1080円です。」
にこやかにお姉さんが言う。
財布を作業服のズボンの
けつのポケットから
引っ張り出す時に
ん?一抹の不安がよぎる、、、
(あれ?俺、今日、銭有ったっけ?)
財布を開くと
札は一枚も無かった。
「あーっ!
なんか、そんなにー、、
やっぱ食べれんわー!
今日、さっきアレ食べたしっ!」
とっさに口をついて出る言葉、
自身の思いとは裏腹に。
「あ、カレーは普通でいいや、
ラーメンは醤油に、、、」
自分の耳が
真っ赤になって行くのが
感じ取れる。
後ろで順番待ちしている
OLさん達の視線が熱い、、、
自意識過剰は生まれつきだ。
神様、どうか小銭で
何とかなります様に…。
レジのお姉さんは
更に、にこやかに
変更したメニューを確認する。
…生き地獄…。
食べたい物を食べれ無い、
生まれながらに貧乏な人を見る、
憐れみを湛えた微笑み。
(ちなうー、お財布の中身補給を
忘れただけなんだー!!
ATM行く時間がー!!)
…小銭で何とかなった安心感、
緊張がほぐれて気が緩んだ所へ
メニュー出来上がりの
アラームとバイブに、ビビるー。
アラームを返して
メニューの品を受け取り
テーブルに戻る。
…お水を忘れてた。
再びテーブルを離れて
戻って来ると
俺のテーブルに「武将」が
座っていたんだ。
「…は?」
「いや、忝ない、痛み入り申す。」
聞いた事の有る声だ。
少し不快感を伴う、、、
「あんた、誰?」
「今、ここで名を明かす訳には、」
どこかで見た顔だ、、、
すごく身近な、、、??
でも何かがちなう、、、
「飲まず食わずで山中を
逃げ惑った、
そのギヤマンの水を所望致す。」
「何だよ?偉そうに、」
髻を外したざんばら髪は
明らかに落武者だ。
甲冑は大した物だ、
結構な大名に違いない。当世具足って事はー、
戦国時代??
「ね、どーしたの?」
「内府に挑んだ、
ただ、蓋を開けてみれば
周りは皆、裏切り者で、、、」
「内府?」
「…太閤殿下に
会わせる顔がござらん。」
「え?」
「そのギヤマンの
水を所望致す。」←2回目。
「ダメだお、これは俺の水。
お冷やは只だから
自分でもらって来れば?」
「あ、いや
人目を憚る身ゆえ、、、」
「いやー
十分目立ってると思うよー?」
「喉が渇いた、
…水を所望致す、、、」←笑
「渋柿なら有るお?」
…何を言い出すんだ、俺は?
「柿は胃に良くない、
昨夜より腹具合が
余り良くないのだ。」
「これから死に逝く罪人が
腹具合の心配も無かろうもー?」
あれ?俺、何、言ってんの?
「異な事を申される!
大将足る者、その死の直前まで
命を惜しみ、義を全うする為に
全霊を傾けるもの、
貴様などに
解ってたまるものかっ!」
あーそーでつかーw
…
…え、ここどこ?
念仏の声が、、、、
どっかの河原????
え?
俺、何で白い着物着て?
ってか縛られてるっ?
「石田治部少輔、
謀叛の廉で打ち首、獄門なり。」
「ちょーっ???
何言っちゃってんのー?!
俺は三成じゃねー!!!」
「この期に及んで見苦しい男だっ!
仮にも一軍の将、観念せい。」
「ちなうー!!!人違いー!!!」
「そちに仕えていた者に
面通ししたわ。
顔も声も
石田治部少輔に
間違いないとな。」
…あー???
あれは俺かーっ????
俺だたのかーっ????
自分の声だから
嫌な感じがしたんだっ!
自分の顔だからー????
ちょ、
これって???
この状況ってー?!!!!!
「猫さーん。
いい加減にやるかー。
若い衆が何やったらいいか
解らんくてウロウロしてるぜー」
「……………????
あー、、、ちょと待てやー、
俺が墨出した所に
ブラケット、溶接しとけやー。」
助手席に道具がいっぱいの
狭苦しいトラックの中で
俺は昼寝していたんだ。
無理矢理、寝たから体勢が、
…腰が痛いわ。
?俺は今、ここにいる。
ストレスの多い、
大きな現場で、
品物も遅れまくって
でも現場はどんどん進むから
自分の仕事が
どんどんやりにくくなる。
俺のせいじゃ無いけど
現場で職長張る以上、
俺に責任が降り掛かる。
今、ここでストレスを抱えて
辛い思いをして
それでも仕事している俺は
本当に現実の俺なのだろうか。
もしかしたら
今、ここにいる俺は
本当の俺が動かしている
バーチャルのアバターで
本当の本物の俺は
どこかに別に居るのでは無いか?
「目が覚めないみたいっすね?
あんまり気持ち
良さそうだったから
職長会、代わりに出といたに。笑」
「…すまん。」
今、俺に話し掛けている、
この男は本物なのだろうか。
シュミレーションゲームのやり過ぎだな、、
腰袋を着けて
高所作業車に乗り込む、
「安全帯ヨシっ!」
「大丈夫っすか?猫さん?」
「なんかー、、、
いつもより腰袋が
重く感じるわーw」
「んな、木曽義仲みたいな事ー、
言わんといてーw」
高所作業車のブームを伸ばすと
少しだけ空に近付く…。
もしかしたらほんとの俺が
この空の上に居るのかも、
そう思って
空を見上げても
キレイな秋空が広がるばかりで、
「やいっ!
何やってんだ、てめーら!!!」
相棒が下で
若い奴等に怒鳴る声も
どこか現実離れして聞こえる、
天気いいなー。単車乗りてー。
そんな俺の、、、今日の、
いつもと変わらない平凡な日常。
高い空を見上げて、、、
早くこの現場、終われー。
…腹減ったー