元魔王、元勇者(女)と現代で出会う
異世界というキーワードは一応は出ますが『メイン』ではありません。
魔王と勇者と悪く言えばありきたりな題材ですが、現代を舞台にラブコメ要素強めで書いたつもりです。
物書きとして不慣れで在る事は否めませんが、誰か一人でも面白かったと言って頂ければ幸いです。
大きなクシャミが出た。
通行人が音に驚いて「なんだ?」と振り返る。
「・・・だりぃ」
梅雨入りしたせいか、ここ数日は天気も優れない。
毎日のように雨。雨。雨。
こんなに降ってどうすんの?道路ふやけちゃうよ?と文句を言いたい気分だ。
この苦情は誰に言えばいいのだろうか。神様?
雨は嫌いだ。傘を持ち歩くのが面倒くさい。
持ち歩きが面倒な上に、すぐにどこかに忘れてくる。
普通の傘に比べ、折りたたみ傘は便利ではあるが・・・
使用後は荷物が濡れるのを嫌って、カバンに収納出来なくなるのが煩わしい。
だから傘は普通の物を愛用し、結果何時もどこかへ忘れてくる。
「ずっと雨なら忘れないんだけどな・・・」
そんなわけで・・・つい先日も傘を忘れて帰宅途中に豪雨に直撃。
全身がびしょ濡れになって帰宅したせいか翌日風邪をひいた。
病院に行く時間と、診察を終えるまで待つ時間と、代金を考えると病院に行くのは面倒だ。
それに色々とひっくるめて、トータルで考えると時間が勿体無い。
病院は何時も混雑しており、待つ時は2時間も3時間も待たされる。
そんな事情から市販薬に頼っているが効き目が薄いのか中々治らない。
「病院に行くべきだったかな・・・」
家で安静にしていればいいが大学も3日ほど休んでしまったし、バイトもあるのでこれ以上は休めない。
高尾 恭介。
19歳の大学一年生。普段が不真面目な学生なので単位が常にヤバイのだ。
だから気合を入れ、不調で重たい体を引きずって、授業を受けて、さらにバイトまで行ってきた。
よく頑張ったと自分を褒めてあげたい。
後は家に帰って食事して寝るだけだし、明日は土曜日。
今週の土日は学校もバイトもないので、ゆっくり出来そうだと少し気が楽になる。
「晩飯は軽いものでいいや・・・」
最寄のスーパーで買い物。
一人暮らしなので食品はコンビニよりも、安いスーパーマーケットをよく使う。
仕送りが多少あるとはいえ無駄遣いは出来ないのだ。
重たい袋を2個ぶら下げてスーパーを出たら、かなり目立つ容姿をした女の子が居た。
自分と同じくらいの年齢に見えるので、高3~大学1年生くらいだろうか?
意思の強そうな瞳をした長髪の少女。髪は染めているのか茶髪だ。
はっきり言えばかなり可愛い。
身につけている衣類は学校指定の制服ではなく私服。なので正確な年齢は分からない。
この界隈は高校が1校あるだけなので、制服であれば生徒かどうかは区別がつくのだが・・・
少女は両手を腰に当てて、威風堂々の仁王立ち。容姿がいいだけに周囲の注目を集めている。
何やら此方の方を睨んでいる。
「まさかアンタもこちらに来ていたとはね。この世界もメチャクチャにする気かしら?」
女の子がなんか一人で喋っている。なんだろう?TVのロケだろうか?
「だけどね、アンタが何を企もうが阻止して見せるわ!勇者の・・・この私がね!!!」
右の人差し指をびしっと前に突き出してポーズを決める。
周囲を見渡してもカメラは無い。時間も21時くらいだし酔っ払いだろうか。
「ちょっと!?何、無視して通り過ぎているの!?」
なんかまだ後ろで叫んでいる。
「魔王!!私を無視するとはいい度胸じゃない!!」
かなり強い酒でも呑まされて完全に出来上がってしまったのだろうか?
見たところ未成年だがサークルの飲み会では未成年と知った上で、
飲ませる行為が問題になっている。彼女もその類だろう。
「なんとか言いなさいよ!!誤魔化そうとしても分かるんだからね!!」
少女が後ろを付いて来ている気がした。だが知り合いでもないし気のせいだろう。
「へぇ・・・無視ってワケ?その気配でアンタが魔王の生まれ変わりだって事は分かっているんだから!!」
(早く家に帰って早く休も・・・)
「無視すんな!!!止まりなさいよ!!」
(体はダルいのに不思議と食欲はあるんだよなぁ・・・治る兆候なのかな)
「止まりなさい!!止まれ!!止まってください!!ねぇ!!止まってよ!!なんか私が馬鹿みたいじゃない!!」
「ん・・・?」
振り返ると先ほどの美少女が半泣きで付いて来ていた。
「ひょっとして俺に言っていたりする?」
少女は首を激しく縦に振る。
「悪いけど人違いだよ。キミの事知らないし。誰かと間違えてない?」
「はぁぁ!?それが通用すると!?魔王の気配をそんなに出しておいて、そんな嘘が勇者の私に通じると!?」
なんか怒り出した。
(これだけの美少女なのに頭がおかしいって致命的すぎる・・・)
「ちょっとぉぉぉ!!!なんでまた無視して歩き出したの!?今、会話の途中だよね!?無視する場面じゃないよね!?」
関わりたくないから無視して歩く。
「・・・そういうことね。そうやって私を怒らせて精神的に弱らせるのが目的なんでしょ!!」
何故かまだ付いてくる。
「なんとか言いなさいよ!!」
体もダルいのについてない。この少女のせいでどんどん疲労が溜まる。
美少女と居るだけで苦痛を感じるってなんだろう。
「あの・・・付いて来ないでくれる?」
「これからどんな悪事をするつもり? アンタが復活していたと分かった以上は無視出来ないわ」
まだ続いている謎の脳内設定。
最初は酔っ払いと思ったが、どうやら真性らしい。
一刻も早くなんとかしたい。
どっか行って欲しい。
「コンビニ?こんな所で何を?まさか!!襲うつもり!?そうなのね!!」
携帯電話を取り出して電話を掛ける。
「もしもし?警察ですか?今ファイアーマート○△店の前なんですけど、不審者に絡まれていまして・・・はい。すぐお願いします」
「不審者?どこに居るのよ?」
少女がキョロキョロと周囲を見渡すので、指先で少女を指したら理解してくれたようだ。
「アンタ何してんのよぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!?」
すぐに駆けつけた警察に事情を話した。
勇者だの魔王だの叫ぶ少女に警察は困惑した。
アルコール成分も検出されなかった。
警察は彼女が違法薬物の中毒者の可能性もあると言い残し、
「まって!まだママに頼まれたお使いが終わっていないの!!お願い!スーパーに寄って!!」と叫ぶ少女をパトカーに乗っけて連れて行った。
(・・・これでようやく帰宅できる)
スーパーは22時まで営業しているが時間的に、本日の少女の買い物は間に合わなそうだ。
翌日の土曜日。
インターホンの音で目が覚めた。
「先輩、大丈夫ですか?まだ体調、悪いですか?」
「少しだるいかなぁ・・・どうしたの?」
尋ねて来たのはバイト先の女の子。
俺が彼女の教育係を任されたせいで懐かれた。
年下の女の子に『先輩』と慕われるのは悪い気がしない。
「これ、お店の皆からの差し入れです」
「ああ、ありがとう。上がって上がって」
「お邪魔しまーす」
少女の名前は立川 結和。
長い黒髪の大人しそうな少女。
今時の若い子で髪の毛を一度も染色したことが無いというのは珍しい。
出るところは出ていて、女としての自己主張が中々に激しく、こんな小さなボロアパートに2人きりというのは少しドキドキする。
最近見たテレビ番組やバイト先の事。そんな他愛のない話をしていたら昨夜のことを思い出した。
そして話の種にと、何時の間にか話してしまった。
「え?・・・勇者ですか?」
「そうなんだよね。勇者だとか魔王だとか。変な娘に絡まれて大変だったんだ」
「へ・・・へぇ・・・」
「ありゃ多分クスリやってるよ。マトモじゃない」
「そ・・・それで、その少女はどうしたのですか?」
「警察を呼んで連れて行ってもらったよ」
「あはは・・・」
「そろそろ夏だから頭がおかしい人が出てくるんだろうね」
暑くなると変な人が出てくると聞いた事がある。その類だろう。
「そ・・・そうかもですね」
立川さんの様子が少しおかしい。
「どうかした?」
「いえ、なんでもないですよ? 本当ですよ?」
「・・・ならいいけど」
「しかし警察沙汰は少し可哀想じゃないでしょうか」
「ん・・・そうなんだけどね。ちょっと恐かったし、あのままだと家まで付いてきそうだったし」
「そうでしたか・・・あっそろそろお暇しますね。用事を思い出しました」
「え?そう?ありがとうねお見舞い」
立川さんは慌てて帰っていった。余程大事な用事があるのだろう。
差し入れの食事は美味しそうだ。飲食店でバイトしていて良かったと思った。
立川結和は高尾恭介の見舞の後、友人の家に寄った。
「あっ結和だー どうしたの?」
「瑞穂・・・貴女、警察に捕まったんですか?」
「なんで知っているの!?」
「何しているの・・・本当に」
「だって魔王が居たんだもん・・・」
「止めなさい・・・相手にも迷惑が掛かるんですから」
「相手は魔王だよ!?」
「でも相手は覚えていないんでしょ?」
「そういう振りをしているのかもしれない!私を欺く為に」
友人であり、そして親友である神田 瑞穂は元勇者だ。
前世で・・・という話ではあるが。
「元魔王であっても、今は普通の人なんだから何もしないですって・・・」
「いや、魔王はね。悪なの。だからきっと恐ろしい事をするに違いないんだよ!!」
「瑞穂!!アンタ何を騒いでいるの!!近所迷惑よ!!」
「ごめんなさい!ママ!!」
瑞穂がお母さんに怒られた。
瑞穂の自宅は二階建ての一軒家だ。
今は2階の瑞穂の自室に居て、1階の居間に居たお母さんに五月蝿いと怒られた。
どれだけ興奮して、大声を出しているのかと少し親友に呆れる。
「警察に捕まって、ご両親に怒られなかったですか?」
「めっちゃ怒られた!パパにもママにも!!今月のお小遣いなしだって!!」
これも魔王のせいだーと叫ぶ親友。
前世なんて既に意味は無い。なんとなく『うっすらと覚えている』程度のモノ。
だから魔王や勇者が前世の記憶を戻しても、今はただの人間なのでどうする事も出来ない。
この世界は魔力も無ければ魔法もない。
悪事を働けば捕まるし、あの人が魔王の記憶を取り戻しても特に何もしないのは分かっている。
「いい加減、忘れたらどうです?前世の事なんて」
「使命を忘れたの結和!?」
この世界を守って欲しいと王様に言われたっけ。前世での話だが。
「使命は前世で果たしたつもりです。もう終わった事でしょ?」
「それでも勇者パーティの魔法使いなの!?」
「元ですけどねー」
「きっと、この世界では私達の世界の人間が転生していると思うんだ。勇者の私、魔法使いの結和・・・魔王だって」
それは知っている。だけどそれに固執する人は殆ど居ない。
人によっては夢か何かだと思って、記憶にも留めないだろう。
記憶は突然蘇る。
ある時、突然思い出すのだ。そのタイミングは誰にも分からない。
思い出せる記憶は人によって異なる。
全部を思い出す人も居れば断片的に思い出す人、そして全く思い出さない人と様々。
また、記憶を思い出した場合のみに限るが周囲に転生者が居れば、ある種の特殊な気配を感じるので、
元の同じ世界の人間同士なら互いを感知する事が出来るのだ。
「間違いなく魔王だったよ。私の勇者レーダーが反応したし」
「だから『元』でしょ」
「元じゃない。今も!! 私はこの世界でも勇者なの!」
(なんで思い出しちゃったんでしょうかねぇ・・・)
瑞穂が記憶を取り戻したのが半年前。
私は瑞穂の1年前。
たまたま偶然に親友同士で、記憶を思い出す前は普通の女子高生だった。
あの頃が懐かしい。あの頃に戻りたい。
「・・・前世で戦士だった人だって、前世なんてもういいって言ったじゃないですか」
「うん。それで今はマンガ家やっているみたいだね。今月も面白かった」
前世で戦士だった女性は名前も覚えていない。
私は親友程、前世を気にしていないし、今世は普通に生きたい。
「でもね。元戦士なのに恋愛マンガ書いているんだよ!! そこはバトルモノじゃないのって言いたい!」
「別にいいじゃないですか」
「しかも男同士での!!ありえないし!!」
「別に良いじゃないですか!!!何がダメなんですか!!!?」
「結和?・・・なんで怒っているの?」
元勇者の親友は首を傾げる。
「人の趣味や仕事にケチを付けるのが勇者のする事ですか?」
「!!! そうだね・・・そうだ!!そうだよ!!私間違ってた」
「分かればいいのです」
生まれ変わった命。今世でどう使おうが個人の自由だ。
前世に縛られることじゃない。あのマンガの悪口は元戦士の人への侮辱だ。
個人的には彼女を応援したい。頑張れ元戦士。
かつてのパーティメンバーとして、マンガは読ませてもらっています。
だってあのマンガの攻めが先輩に似ているんだもん。
「戦士は今の生活に満足しているからパーティに復帰はないって。薄情すぎない?」
「誰だって自分の生活が大事なんです。ほらもう勇者とか魔王とか忘れましょうよ瑞穂」
「でも・・・」
「大体、彼はそんな人じゃないですよ。人畜無害ですし心配しなくても・・・」
「・・・結和?」
「なんです瑞穂」
「私、魔王を男だって言ったけ?」
「あっ・・・」
「知っているみたいね。魔王がどこの誰なのか・・・」
ニヤリと笑う親友を見て自分の失敗に気付いた。
転生した場合、転生後の性別は異なる事もある。
幸い私も瑞穂も戦士も性別は変わらなかった。
しかし元神官(女)が今世で男になり、ドレッドヘアーのDJをやっていたりもする訳で・・・
結局性別がどうなるかはランダムなのだ。場合によっては人ですらない事もある。
かつて仲間だった、素早い動きで近接戦闘を得意としたアサシンは親友が今世で殺した。
私の目の前で悲鳴をあげながら。
正直、罪悪感はあるけど仕方ない。だって黒く光ってカサカサ移動する害虫だったんだもの。
スリッパで叩いた後に気配からそうだと分かったが、2人して無言で無かった事にした。許して欲しい。
前世でおぞましい魔物と散々戦ってきたのに、たかが不快害虫でキャーキャーとパニックになる私達はもう既に普通な女の子なワケで・・・
今のまま平穏に生きようと、これまで何度したか分からない提案をしたら、当然笑顔で却下された。
今日は日曜日。
ゆっくりと自宅で寛いでいたら客人が来た。
「・・・げ」
「げって何よ!?」
あの時の、頭のおかしい美少女。
後ろにはバイト先の立川さんも居る。
茶色と黒。2人が並んでいると絵になる。片方の頭がおかしいのが非常に残念だ。
「ねぇ魔王。なんで私をそんな哀れみの視線で見るのかしら?」
まだ魔王とか言っている。出来れば関わりたくないのだが立川さんが居るので仕方がない。
2人を部屋に招きいれる。
「ここが魔王の城? ぼろっ!!」
おい。大家さんに謝れ。
「それで?その変な娘は立川さんの知り合いだったの?」
「変な娘!?」
「そうなんですよ。この変な娘は私の親友なんです」
「ちょっと!?肯定しないで!?」
聞けば、先日絡まれた変な娘さんは立川さんの小学生時代からの友人らしい。
「それより大変だったんだからね!パパにもママにも怒られたし!!アンタなんてことしてくれたのよ!!」
それが魔王のやり方か!といきなり突き飛ばされた。
突然の事だったもので、年下の少女に情けなく突き飛ばされて横転。頭を打って意識が途絶えた。
「・・・せ・・・先輩!?」
「どうしよう結和・・・私、魔王を倒しちゃった・・・」
「何してるんですか!?先輩!!しっかり!!先輩!!」
「どうしよ!!警察呼ばないと!!あれ?消防車・・・・じゃない!!救急車!!救急車!!」
やり過ぎた自覚があったのか、瑞穂は激しく狼狽した。
しかし恭介はすぐに目を覚ました。
「大丈夫ですか?」
「いや、問題ないよ」
「ごめ・・・私・・・」
茶髪の少女は泣きそうだ。
きっとこんな事になるなんて思っていなかったんだろう。
「全く・・・勇者はどこまでも俺の敵だな」
「え?先輩?」
「まさか立川さんが勇者と居た魔法使いだったとは・・・驚いたよ」
「前世の記憶が戻ったんですか?」
「ああ・・・そうなるのかな」
まだ頭がジンジンする。
でも体はすっきりした。ダルさも消えてすっきり快調。
後から知ったが、この数日の体調の悪さは記憶が戻る前兆だったらしい。
その為、魔王の気配を立川さんは感じていたとか。
でも今頭を打ったショックで前世とやらの記憶が完全に戻った。
そう。思い出した。
別の世界で。俺は魔王として軍勢を率いた。
その世界は今世よりも文明レベルは低かったが魔法が存在した。
今にして思えば、まるで御伽噺のような世界だった。
種族は人間と、生まれつき強靭な体と莫大な魔力を持つ魔族。
魔族と呼ばれているが、別に悪い事をするワケじゃない。
意味もなく命を奪う事もないし血を好むわけじゃない。
単に人とは違った進化を遂げた種族というだけ。
同じ世界に2つの異なる知的生物が居れば当然争いが起きる。
豊かな土地を巡った些細な争いは、やがて大規模な戦争に発展した。
一番強い魔力を持つ者が王となる魔族では、俺が王になり魔王へ。
人間側では魔族に匹敵する強大な魔力を持ち、対抗出来る強者が勇者に。
そう・・・ただの戦争だ。
どっちが悪いも糞もない。
戦争の結末は分からない。
最終的に自分に次ぐ能力を持った、新しい世代の若者に魔王の座を極秘裏に譲り、
誘き寄せた勇者を含めた魔王討伐隊に対して、全魔力を開放する自爆で城ごと巻き込んで前世では最後を遂げた。
それだけの話。もう終わった事だ。今となってはどうでもいい。
泡沫の夢のように。何時かは全て忘れるだろう。
記憶が戻ったおかげで、頭がおかしいと思っていた少女が元勇者である事も分かったし、
可愛い後輩が勇者の仲間だった元魔法使いだとも分かった。
「色々思い出したけど・・・まぁお互い生まれ変わって良かったな」
もうあんな戦争や殺し合いの日常はうんざりだ。
この世界の、それも平和な日本という国に生まれ変われた事を本気で感謝したい。
「先輩は魔王として記憶が蘇ってどうですか? 価値観変わりました?なにかしたいですか?」
「いや・・・別に。それがなんだ?って感じと言うか。別に魔法が使えるわけでもないし」
「もしも魔法が使えたら?」
「空を飛べるなら交通費が浮くかなぁ。あっでも見つかったらヤバいし転移かな。学校のトイレとかさ。便利そうじゃない?」
「そうですねぇ・・・やっぱり先輩は先輩なんですね」
「なにそれ」
「だって悪い事しなそうですもの。たった460円だけ入ったサイフを拾って、2時間かけて交番を探してまで届ける人ですし」
「だって免許証とか入っていたし・・・」
落とした人は困っているだろうし460円でも馬鹿に出来ない。タバコ1箱買えるんだぞと可愛い後輩に教えてやりたい。
「ね? 先輩はこういう人ですから大丈夫ですよ瑞穂」
先ほどから無言だった少女は不満そうだったが、自分がした事への罪悪感や、ばつの悪さもあるのか大人しい。
「・・・いいわ。今日は見逃してあげる。だけどアンタの尻尾を捕まえてやるんだから!」
「神田 瑞穂さんだっけ?事情は分かったけどさ。俺は魔王とか勇者とかどうでもいいよ。それより今月の家賃の方が気になるし」
「何よアンタそれでも魔王なの!?」
「元だよ。何?世界征服でもして欲しいの?」
「出来るの!?」
「無理に決まっているだろう。どうやってやるんだよ」
この娘、勇者とか云々より単に頭が弱い子な気がして来た。
「出来るわ。アナタならきっと出来る。魔王なんだから。私も協力するわ。一緒に世界を征服しましょう」
「・・・は?」
「そして世界を征服した暁には、正義に目覚めた私に倒されるの!!」
ね?いいでしょと茶髪の少女は笑った。
無茶苦茶な事を言っているのだが、俺はついその笑顔に見惚れてしまっていた。
元勇者の美少女との出会いで日常は劇的に変化した。
「なぁ高尾。彼女さん来ているぞ?」
「だから彼女じゃないって・・・」
瑞穂がお昼を持って迎えに来た。
「ほら恭介。お弁当。どう?授業付いていけている?」
「ありがとうな瑞穂。ぼちぼちかなぁ」
2人で中庭に移動して昼食を取る。
「ほら、口にソース付いている。じっとしてて」
「いいって・・・」
「だーめ!ほら、動かない!」
元勇者の瑞穂との出会いから3年立った。
瑞穂は俺の居る大学に入ってきた。今は後輩という立ち位置だ。
あの日、世界征服を強要されてどうなることかと思ったが、まずは経済の分野で世界を牛耳って世界征服をしようとなった。
正直興味は無かったが、特に将来やりたい事も曖昧だったし、経済学にも興味があったので特に反論せず今に至る。
毎日勉強して知識を付ける。昼には瑞穂が来てお昼。飽きもせず毎日互いの進展具合を報告しあう。
瑞穂は勇者の務めとして魔王を監視すると言って四六時中一緒に居る。
一緒に帰宅して、夕食も一緒だし、夜には瑞穂を彼女の自宅に送る。
先日は偶然、瑞穂のご両親が出てきて少し会話をした。
「恭介君、娘を頼む」
瑞穂の父親に頭を下げられた。後ろではお母さんが微笑ましそうに笑っている。
「え?はい。任せてください。」
(元勇者とは言え今はただの少女。夜間の一人歩きは危険だからな。親御さんとしては心配なのだろう)
彼女のご両親との関係は良好だった。
(・・・あれ?)
「ちょっと恭介! 話を聞いているの!?」
「いやなんだっけ?」
「もう!」
ぷんすか怒る瑞穂。
何時からか、お互い名前で呼ぶようになった。
人前で魔王魔王と呼ぶので注意したら苗字をすっ飛ばして名前で呼ばれた。
「そんなに魔王がダメなら、私はアナタを恭介って呼ぶから! だから私の事は瑞穂でいいわ」
有無を言わさずに名前呼びを強制された。
(確かにこれだと付き合っているように見えるわな・・・)
瑞穂に対しての感情は可愛くて頭がちょっと弱い女の子から対して変わっていない。
魔王であったという記憶。
かつて、そうであったと言う認識があるだけ。それも年々風化していく。
例えるなら、昔見た内容もあまり覚えていない映画やドラマのよう。なんとなく覚えている感じ。
今を生きる俺は魔王の俺とは別人。
全く違う人生を送っているし過去の自分には興味がない。
「ね?世界征服まで手が届く所まで来てない? 後もう20歩くらいだよ!」
「ゴメン聞いていなかった。そして20歩もあるなら手が届く距離とは言わねーよ」
何故『勇者』に拘るんだろう瑞穂は。
なんだかんだで今の時間は好きだし、瑞穂との時間も悪い気はしない。
いい加減、生まれる前の過去なんて捨てればいいのに。
親友である彼女なら何か知っているんじゃないかと思い、俺は久しぶりに連絡を取る事にした。
日が沈む。
真っ赤な夕日がちょっと切ない気分にさせる。
その日の夕方、私は久しぶりに親友から連絡を貰った。
通う大学が違うので最近は頻繁に会えていなかった。
「どうしたの結和?いきなり呼び出して」
人通りの多い場所から離れた小さな公園である事と、時間帯からか自分達以外は誰も居ない。
「ちょっとね。今の進捗具合はどんな感じなのかなって思いまして」
「順調だよ?もう世界征服目前!私の勇者としての出番も間近だね!」
「そっちじゃなくて、恭介さんとは上手くいっていますか?」
ちょっと瑞穂の顔が強張った。本当に分かりやすいと結和は思った。
「・・・ねぇ、いい加減それ止めたらどうです?」
だからちょっと意地悪に。冷たく言い放つ。
「・・・それって?」
「勇者とか魔王って奴です。瑞穂・・・貴女、今となっては本当はそんな事どうでもいいのでしょう?」
「え?」
「どうして勇者に拘るかは分からないけど、そんなもの今世には意味がないじゃないですか」
瑞穂は応えない。
分かっている。彼女は以前ほど勇者や魔王に心の奥底では固執していない。
そう見えるように演じているだけ。
長年一緒に居た親友だからこそ分かる。
そして、そうなったのが・・・
選んだ進路の結果、通う学校が別々になってからだと言う事も。
「だからもう止めましょう。そんな事何時までも言っていたら・・・私達ただの痛い人じゃないですか」
「・・・結和には分からないよ。私の気持ちなんて」
「分かるわけないでしょ。言ってくれないと分からないです。友達だって、親友だって、家族だって・・・」
言葉に出さないと分からないこともある。
「だから、話してください。私を親友だと思ってくれるなら・・・」
「・・・言ったら絶対に軽蔑されるもん」
「大丈夫。これ以上、下はないですから」
「ちょっと!?もう既に軽蔑してたってこと!?」
何時もの調子に戻ったようだ。
さらに促すと観念したのか、瑞穂は少しづつ語り始める。
「私さ・・・叶わないって思ったんだ。結和に」
「・・・私に?」
「そう。子供の頃から結和はなんでも出来た。勉強も習い事もなんでも出来た」
「・・・別に普通ですけど?」
「結和にとっては普通かもしれないけどさ、私には眩しかった。何でも出来る結和が」
だから誇らしく思って、憧れて、そしてどこかで妬んでいた。
何時も2人でつるんでいて、片方だけが優秀という周囲の評価。
結和が悪いわけでもないのに、どこかで黒い感情が芽生えていく。
「親友なのに・・・妬ましくて、憎たらしくて・・・そんな風に思う私が嫌だったし、そんな自分を認めたく無かった」
そんなある時、記憶が戻った。勇者だった記憶が。
前世で国王から期待され、国民から支持を得て、世界の救世主と誰もが褒め称えた自分を。
結和が、かつての仲間だった魔法使いだと知ったときは嬉しかった。
「それで思っちゃったんだ。 勇者なら・・・」
結和に勝てるんじゃないかと。
ただ対等な友人として居たかった。認められたかった。
だから元魔族を探した。
「この世界で殺人は犯罪だし、そんなことをする気も無かった・・・」
ただ元勇者だと知ればきっと元魔族は恐れおののく。
それを見せ付けたかった。
「だからね。ずっとずっと探してた。そしたら魔王が居たのよ。偶然だったけど」
結和にただ一言だけでも「凄い」って言って欲しかった。
「ただそれだけ。それだけだったのよ」
根っこはくだらない理由。
それが尾を引いて今日まで来た。色々な言い訳を自分にしながら。
「ね? 軽蔑したでしょ?」
瑞穂は自傷気味に笑う。
「ええ、まさか評価がさらに下がるとは想像していませんでした」
「・・・そうだよね。こんな醜い感情を親友に向けていたんだもの」
「それは私もなんですけどね? だから評価は五分五分という所?つまり今までと変わりませんよ瑞穂」
「・・・え?」
「瑞穂が私に嫉妬したように、私も貴女に嫉妬していたのですよ?」
「なんで? 私に嫉妬されるようなとこなんてないのに・・・」
「貴女は自分で気付いていないんでしょうね。だから教えてあげません」
何時だって・・・この娘は人に好かれる。
気が付けば人の心の奥まで入り込んでいる。
そして人の中心に居る。前世からそう。
才能がない? そんなの嘘。
成績だって十分に良かったし頭も回る。ただ2番だっただけ。私のせいで。
せめてそれだけは絶対に勝ちたいと願い、記憶が戻ってからの影ながらの努力をきっと親友は知らないだろう。
「だからお互い様。むしろ・・・かえって貴女のことを親友として好きになったくらいです」
そう。私達は同じだった。
「え?・・・え? 意味わかんない!!」
分からなくていい。教えてあげる気もない。
「じゃあ勇者問題はこれで解決。OKですよね?」
「え?・・・そうだね」
「じゃあ・・・もういいですよね? 彼との関係は」
「あっ・・・」
瑞穂は理解した。勇者も魔王も、もう本当に意味がないんだ。
だってもう私の問題は、この場で暴露した事で意味を終えて解決したのだから。
いや・・・それより前からかもしれない。
別々の学校に通い、結和を常に意識する必要が無くなった時には終えていた。
だけど偽って今までの私を続けていた。
「じゃあ恭介さんに謝って、全て終わらせましょ?それで元通りになるのですから」
「・・・ヤダ」
「瑞穂?」
「確かに魔王とか勇者とかはもういいけど・・・だけど私は今のままがいい」
「それは何故です?」
「・・・分からない」
「・・・本当は分かっているのでしょ?」
どこまでも手が焼ける親友だ。
「気付いていないとでも思ってます?」
言葉で散々責めたらようやく瑞穂は観念した。
「あー!!!もう!!分かってるわよ!!私は恭介が好きなの!!」
最初は魔王として認識して、ただ親友に尊敬の念を貰いたいが為の存在。
だけど、今日まで一緒に居て楽しかった。
どんどん惹かれていった。
気が付けば、自宅でも常に話題に出してしまい母にからかわれる。
前世の事なんてどうでもいいくらい、今の恭介との時間が好きだった。
元勇者だから元魔王を見届ける義務があると、自分に言い訳をして自分の気持ちを誤魔化していた。
「それを恭介さんに言えばいいのに。きっと受け入れてくれると思いますけど?」
「言えるわけないでしょ!?今更どんな顔して言えばいいのよ!!」
「だそうですけど?」
「え?」
物陰に隠れて居た恭介が、ばつの悪そうな顔で姿を見せた。
「きききききっっ聞いてたのっ!? どどど・・・ど・・どこからどこまで!?」
「・・・最初から最後まで。すまん」
「実は恭介さんから相談を受けまして。なんで勇者に拘るんだろうって」
結和にも分からなかった。だから本音を聞いて見たくて呼び出した。
当初、瑞穂の勇者の義務感は一時的なモノで、時間の経過で薄くなると思っていたが何年立っても然程変わらなかった。
だから、彼女の本音を聞いてみたかった。
何を思っているのか、何故そこまで拘るのかと。
「何よ!!これじゃ私の内面暴露大会じゃない!!!」
うわーんと泣きながら瑞穂は走って逃げた。
「追わなくていいんですか?」
「追うよ。でもお礼を言いたくて。付き合ってくれてありがとう。おかげで彼女の気持ちにも、自分の気持ちにも向き合える。じゃあ行ってくる!」
「・・・・・・」
恭介も後を追って走った。
結和一人だけ残されると、別の物陰から女が出てきた。
「良かったのか?」
「何がですか? 戦士さん」
「いや、戦士って・・・こんなか弱い美女に酷くない?」
「すいません前世でのお名前忘れました」
「まぁそれは私もなんだが・・・しかし驚いたね。魔王と勇者がねぇ・・・」
「ええ、びっくりですよ。こんな事になるなんて。しかし良く来てくれましたね。お仕事忙しいのでは?」
「まぁ売れっ子マンガ家だからねぇ・・・でもこんな面白い事を見ないとか勿体無いでしょ?かつての仲間として気になるし。
創作の刺激にもなるし。いやー連絡取り合ってて正解だったわー」
「それで?マンガに使えそうですか?」
「ありかな。今度の短編で書いて見ようかな」
「もちろん主人公もヒロインも男×男ですよね!?」
「当たり前でしょ? 何当然のこと聞いているのさ!!」
2人はガッチリと握手を交わす。
「しかし本当に良かったのか? キミも元魔王・・・彼を好いていたのでは?」
「ええ、好きですけどね。今でも」
「ならなんで?」
「だって略奪愛の方が燃えるじゃないですか」
「あー」
戦士は思いだした。コイツは前世も他人から旦那を寝取っていたなと。
夕暮れの河川敷を男女が走る。
「ちょっと!!なんで追ってくるのよ!?」
瑞穂は逃げる。
「オマエが逃げるからだよ!!!」
恭介が追う。
周囲の通行人は何事かと振り返る。
「もういいからほおっておいて!! 今は顔を見られたくないの!!分かれバカ!!」
「ふざけんな!!一方的に告白して話も聞かずに逃げんじゃねーよ!!」
「だって絶対断わられるもん!!断わられる自信あるもん!!!」
「待てって・・・っ捕まえた!!」
「きゃっ!?」
2人はバランスを崩して転ぶ。
逃げようとする瑞穂の肩を掴んで恭介は叫ぶ。
「言いか、聞け!一度しか言わないからな!!」
「ヤダ!ヤダ!!聞きたくなーい!!」
「最初は頭がおかしい娘だと思っていたよ!!関わりたくないって思った!!」
「ほら!!やっぱりそうなんだ!!」
「違ぇ!『最初は』って言ったろ!! 最初だけだよ。だけど気が付いたら惹かれていった!俺だって瑞穂・・・オマエが好きだ!!」
「・・・え? 嘘!!嘘だよ!!」
「嘘じゃない!!魔王も勇者も、そんなもん今となってはどうでもいい。だってそうだろ?生まれる前の前世だぜ?それが何の関係があるって言うんだよ!!」
「関係あるもん!!だって魔王と勇者だよ!? こんな事許されないよ!! だから気付かないようにしてたのに!!」
「他の誰が許さなくても俺が許す!! 俺は魔王だからな。勇者の許可なんて取らない!!」
「横暴すぎ!!」
「うるせぇ!! 俺はオマエが好きだ。大好きだ。気が付いたら本当に好きになっていた!!それでいいじゃないか!!瑞穂、オマエはどうなんだ?俺が・・・嫌いか?」
「好きに決まっているじゃない!! 大好きよ!! 気が付けば恭介を心から愛していた!!」
「うるせーバカ!オマエより俺の方が瑞穂の事が大好きだ!!!」
「バカって言った!!何よ!私の方が恭介の事大好きだもん!!」
「じゃあ、それでいいじゃねーか!! お互い相思相愛じゃんか!! 何が問題なんだよ!!」
「何って・・・あれ?・・・何も問題なかった!! あれ?私お断りされてない?受け入れられている!?」
勝手に告白して、断わられると思って逃げて、錯乱してたアホな娘。
本当に何から何まで愛おしい。
ああ、そうか。
俺は元魔王だから・・・元勇者には絶対に勝てないんだ。
だって世間の話では魔王は勇者に負けるものらしいから。
もう完全敗北だ。
「だから、さっきから言っているだろ!? で?返事は? 瑞穂の告白に対する返事がこれなんだが受け入れてくれるか?」
「しょうがないな。じゃあ元勇者として元魔王を監視する義務があるから・・・『生涯一緒』に居てあげる」
あれだけ好きだと言い合った末の照れ隠し。
だけどあれ?と思った。
「・・・え?」
「・・・なによ?」
「俺は普通の恋人としての告白として言ったつもりだけど、それ結婚しようってこと?」
「っ!!!」
「まぁいいさ。どうせ遅いか早いかの違いだしな。これからもよろしくな瑞穂」
瑞穂は耳まで真っ赤にして「はい」と言った。
そして元魔王と元勇者は恋人同士になった。
■えぴろーぐ
恭介と瑞穂。元魔王と元勇者。
晴れて恋人同士になった2人の変貌は凄まじかった。
校内ところ構わずイチャイチャする。
周囲の者は無言で壁を殴る。
「災害指定レベルのバカっプル」として
後輩達に長年語り継がれた。
「校内のいたる所にある、あの凹みはそういうことなんだ」と
そして・・・2人が大学を卒業して数年後。
結婚した2人は会社を立ち上げた。
夫婦二人三脚で頑張って、小さかった会社は少しずつ力をつけて行く。
今ではそれなりに知名度もある。いずれもっと大きくして海外にも進出する予定だ。
「ふふふ・・・まずは日本。そして世界よ!!」
「・・・まだ狙っているのか世界征服」
「当然! 経済での世界征服を目指すわ!!私達でね!!」
「でもなんで? 世界征服を?」
瑞穂の勇者への執着は終わったハズなのに。
もう世界征服なんて必要ない。だってもう倒すべき魔王とは仲睦まじい夫婦同士なのだから。
「だって知らしめたいでしょ? 私達2人の凄さを世界に!!」
TV取材で最近話題になっている、新進気鋭の会社の若き社長夫妻として少しだけ紹介された。
バカップル社長夫婦として十分に恥をお茶の間に知らしめているけどそれを世界にも?と思った。
元勇者、現奥さんはどうやら人からチヤホヤされて認められる事が大好きなようだ。
「ままー おなかすいたー」
「あら?もうこんな時間ね。じゃあ・・・お昼にしましょうか。手を洗ってパパと一緒に待っていてね?」
「はーい」
5歳になる娘。俺と瑞穂の間に出来た一人娘。
(何気にこの子、魔王と勇者の血を引いているんだよなぁ・・・)
自慢の可愛い娘はそんな希少な存在。
きっと前世の世界なら英雄にもなれるだろう。
「もうちょっとで出来るからねー」
「はーい!」
でも・・・そんな日は来ない。
魔王も勇者も過去のモノ。それはどこか、遠い世界での終わった物語。
今を生きる俺たちはただのヒト。
好きな人と愛し合って、日々を笑って、時に怒って、悲しんで・・・そうやって当たり前に生きていく。
人間らしく。そんな今の時間がとても愛おしいし、大事にしたい。
だから瑞穂・・・
「いい? 貴女は勇者と魔王の子供なの。貴女は神にも悪魔にもなれるのよ?どっちがいい?」
そういうの止めようぜ・・・
俺たちの愛しい娘が、愛しい痛い娘になっちゃうから。
「どっちもいい!わたし、ゆにこーんになる!」
愛しの我が子は幼い子供特有の良く分からない事を口にした。
(何故ユニコーン? ああ、夢中になって見ている子供向けアニメで主人公が乗っていたな)
―――魔王様はもし生まれ変わるなら・・・再び魔王であることを望みますか?
かつて。
自らの命を引き換えに討伐軍を巻き添えにする計画の前夜。
側近に尋ねられた質問。
俺は確かこう応えた「そうだな。許されるなら―――平和な世界で普通に生きていきたい。他愛のない事で喜んで日々を愛しみながら」
だからきっと望めば手が届く。
「どうしたの恭介?ニヤニヤしちゃって?」
「ん? なんだかんだで幸せだなってな・・・」
ならば、望むがいい我が子よ。
自分がそうでありたいという未来を。
もし、それを心の底から望めば―――きっと手が届くのだから。
おしまい
なお、以下はオマケのキャラ設定です。
高尾 恭介(男)
たかお きょうすけ
前世で魔王。今世では普通の家庭で生まれた男子。
人当たりもよく、それなりに友人も多い。
前世からの影響か人を使う事に優れている。
記憶を取り戻した後は周囲から「なんか印象変わったね」と言われる。
元勇者の瑞穂と関わるウチに次第に好きなっていった。
前世に対しては拘りはなく、前世と今世は別だと認識している。
前世に比べて平和なこの国が大好き。
現在は瑞穂と結婚して愛妻家になっている。
神田 瑞穂(女)
かんだ みずほ
前世で勇者の美少女。髪色は茶色だが染めているので地毛は黒。
喜怒哀楽が激しいちょっとアホの子。
天真爛漫で人から好かれやすく、知らないうちに人の心に入っている。
親友の結和にコンプレックスを感じており、
勇者としての記憶が戻った際に、それで彼女に尊敬されようとした。
魔王を偶然発見して付きまとい、一緒に過ごすウチに惹かれていったが
居心地の良い関係を崩したくなくて関係を維持しようとした。
お互い相思相愛になってからのバカップルぶりは大学で有名で伝説に。
学食では椅子に座らず、恭介の膝の上に自然に座る等、当たり前に行い、
周囲が壁を殴りたくなる衝動に陥ったという。
恭介と結婚し、夫婦で会社を立ち上げるがマスコミのインタビューで
バカっプルぶりを発揮してお茶の間の独り身に致死レベルのダメージを与えた。
立川 結和(女)
たちかわ ゆわ
瑞穂の親友。
外見は大人しい感じの長い黒髪の美少女。
意外と出るところは出ている。
瑞穂より1年前に記憶に目覚めた前世で仲間だった魔法使い。
前世でも女。
小学生時代から瑞穂と友人で、瑞穂にコンプレックスを抱いていた。
恭介とはバイト先で知り合い好意を持っていた。
恋愛感情に関しては少し歪んでおり、既に関係を持っている相手から
奪う事に快楽を感じる性癖。前世もそれでやらかして街を追い出されて行く当てもなく、
魔法使いとして仕事に応募した末、勇者パーティに加わった。
今世でもそういった性癖があるようで、恭介を好きだけど誰かから奪いたくて告白はしなかった。
瑞穂と恭介が結婚した後にかなりのアタックを掛けたが、恭介には相手にされず。(気付いていない)
奥さんとなった瑞穂とは依然親友ではあるが、女としては警戒されて邪魔される。
なんだかんだで今の関係が好きらしい。
ちなみに腐っている。
戦士(女)
前世で戦士だった。
他の人物より年上でマンガ家として生計を立てている。
前世では男嫌いで有名だった。
これは戦士の役職が男ばかりで、女であれば下に見られた為の嫌悪感から。
今世で記憶が戻った際に、生活に支障が出るレベルの前世での男嫌いを直そうと
色々研究をして克服して大丈夫になったが、代わりに男と男の恋愛に激しい興味を持ち、
その道で作品を多々送り出し有名マンガ家になった。
めっちゃ腐っている。
アサシン
前世で一時的に雇われたアサシンクラスの冒険者。(男)
仕事の腕は一流だけど人間的にはクズだった。
特に女好きで有名で勇者達も被害を受けそうな事も多々あり信用されてなかった。
今世ではゴキ○リに転生していたようで、死の直前で記憶が蘇り、瑞穂と結和が気付いたときは
スリッパによって天に召されてしまった後だった。
むすめ
瑞穂と恭介の一人娘。5歳。
魔王と勇者の娘という、かなりレアな生まれ。
この世界では全く無意味だが、魔法力がケタ外れ。
なので魔力のある世界に召還でもされたら、世界のバランスをぶっ壊す恐れあり。
余談ではあるが
妹が欲しいと言う願いに瑞穂が「何人欲しい?5人?10人?」と尋ねると
「100人!」と応えて瑞穂は顔を赤く染めて、恭介は顔を青くして逃げようとした。
その翌朝、父を起こしに来た娘は干からびた父を見つけて泣きながら瑞穂に報告した。
「もうすぐ弟か妹増えるからね」と言われて無邪気に喜んだと言う。
前世の世界
魔族と人間の住む世界。
豊かな土地を巡って対立した。
魔法が存在していた。文明レベルは地球の16世紀程度。
死んだ者の一部が地球で転生しているのか、たまに前世の記憶が戻る人が居る。
戻るも戻らないも人によるので必ずしも戻るわけではない。
魔力量が高かった、一定以上の戦闘力を有して居た等の人物が死んだ場合のみ起きる。
ほおっておけば自然と記憶は薄れていく。
なお記憶だけ有していて呪文を覚えていても、地球は魔力に溢れていないので魔法は使えない。
お読み頂きありがとうございました。
ライトノベル1冊でテキストで175kbとのことらしいので
今現在はそれを目指して別の作品をちまちま書いています。
小説はあくまで趣味でありますので
亀速度ですが、7月終わりから8月くらいまでには完成させて投降してみたいと思ってます。(希望)
それではまた・・・